※クリア後ネタバレ有
永遠の愛を誓う
――世界から勇者がいなくなった。
世界樹が落ちたあの日、私たちを助けるために犠牲となったベロニカを救う為、イレブンが過去に戻ってずいぶん時が経った。あの時から私の心にはぽっかりと大きな穴が空いたままだ。それはきっと、私だけではないはず。
ウルノーガに破壊された街は人々の手によって戻りつつあるけれど、亡くなった人達はもう戻ってこない。その悲しみが癒えることは、あるのだろうか? 大切な仲間であるベロニカとイレブンを失ってしまった私たちは、いつになったら立ち直れるのだろうか。
「ちゃん、またツラそうなカオになっているわ」
「シルビア」
クレイモランのシンボルでもあるエターナルストーンを眺めながらイレブンのことを思っていると、シルビアが私の頬を両手で包み込む。肌を刺すような冷たさが一変してシルビアの熱で一気に温まる。
それはきっとシルビアの体温を奪ってしまったからだけではなく、少しの恥ずかしさで自家発熱したのもあるのだろう。
「イレブンちゃんのこと、考えていたのね?」
「うん……。ちゃんと過去に戻れてベロニカを助けてあげられたのかなって」
「大丈夫よ! イレブンちゃんなら絶対にベロニカちゃんも世界も救ってるわ!」
「そうだね、きっと上手くやって幸せになってるはずだよね」
イレブンがいなくなってから、私は世助けパレードの一員としてシルビアと共に行動していた。故郷であるデルカダールの家はなくなり、同時に両親も失った私を元気にしてくれたのはシルビアだ。イレブンがいなくなってからも随分と励ましてくれた。シルビア自身もつらいはずなのに、彼はいつでも周りの人に元気を与えてくれる。私はそんなシルビアに憧れているし……好意を抱いている。
「まずはアタシたちが笑顔にならなきゃ、人々を笑顔にすることなんてできないわ。ホラ、ちゃんもスマイルスマイル!」
「ふふっ、私も世助けパレードの一員だから、しっかりしないとね」
世界各地を周り人々を笑顔にする事が旅の目的の世助けパレード。その一員である私が悲しみで影を落としてなんていられない。イレブンは死んでしまったわけではない。違う時間を生きているだけだ。もしかしたら、この世界のどこかにいるのかもしれない。またいつか、どこかで会えるよね、きっと。
美しいクレイモラン城を見上げて、イレブンたちと旅をしていた頃の事を思い出した。どんな苦境も乗り越えてきたんだもの、今回だってまた乗り越えられるはず。
「ここクレイモランといえば、カミュちゃんはマヤちゃんと旅に出たんだったかしら」
「うん、別れる時にそんな事を言ってたね。二人で宝を探す旅に出るって」
クレイモランはカミュの故郷だ。しかし、カミュは妹のマヤちゃんと旅に出ているはずで、残念ながらここにはいない。本当はクレイモランに来ればカミュとマヤちゃんに会えるかなぁという淡い期待をしていたのだけど、二人の姿はなかった。
「うーん、あれからみんなとも会えていないし、久しぶりに集まれたらイイわね。グレイグとマルティナちゃんはデルカダールに、セーニャちゃんはラムダに行けば会えるはずだけど……ロウちゃんはユグノア復興の為に各地を周っているかもしれないわ」
「そうなると、また全員で集まるというのはなかなか難しいよね」
笑顔になろうって話したばかりなのにしんみりとした空気になってしまい、それに気づいた私は慌てて別の話題に変えようと思考をフル回転させる。しかし、すぐに楽しい話を出せる脳は持ち合わせておらず、「えーと、えーと」と挙動不審になってしまう。それを見て吹き出したシルビアが口元を抑えながら小さく笑い、私の頭をくしゃりと撫でた。
「ちゃんは、アタシについてきてくれてよかったわ」
「えっ」
「故郷とご両親を一気に失くしてしまって、ずっと暗い顔をしていたから心配だったの。やっと笑顔を取り戻してくれたと思ったら、今度はイレブンちゃんとベロニカちゃんがいなくなっちゃったじゃない。今はこうして笑ってくれているけど、アタシがいなかったらまた暗い顔に戻っちゃうのかしらって思ったのよ」
シルビアは、ずっと私の事を気遣ってくれていたのだと思ったら、目の奥が熱くなった。
イレブンが過去に旅立ってしまい仲間たちとも別れる時、私はシルビアに「ねぇ、アタシと一緒に来ない?」と手を差し伸べてくれた。そして、私は躊躇いなくその手を取り――今に至る。
「あの時、シルビアが声をかけてくれて、嬉しかった。デルカダールにはマルティナとグレイグがいるけれど、二人はお姫様と将軍。片や私は家も両親も失った町娘。
シルビアが私を誘ってくれなかったら、きっと今頃一人で塞ぎこんでいたと思う……だから、すごく感謝してるよ!」
私の言葉に満足気に頷いたシルビア。
マルティナとグレイグは優しいから、きっと私が城を訪ねれば相手をしてくれると思う。だけど、デルカダールは復興中なのだ。私と違って忙し意味である二人に縋るわけにはいかない。
だから、こうしてシルビアと世助けパレードの人たちと一緒に賑やかにしている方が気が晴れるし、大好きなシルビアと一緒にいられることがとても嬉しいのだ。ただ、ひとつ問題があるとすれば――
「でも、いつかシルビアと離れるのが怖いなぁ」
ぼそりと呟いた。その言葉は隣でエターナルストーンを見つめているシルビアに届いたのか、シルビアが私を見てにこりと微笑む。
「ねぇ、ちゃん。恋人たちがエターナルストーンの前で愛を誓うと、その愛は永遠に続いていくって伝説があるの」
「エターナルストーンって、今まさに目の前にある――」
クレイモランの中央にあるこのエターナルストーン。今まではただのオブジェだと思っていたのだけど、そんな伝説があったのは初耳だ。しかし、そんなロマンチックな伝説を知っているなんて、流石シルビアといったところか。
「ここでアタシとちゃんが恋人になって愛を誓えば、きっとずっと一緒にいられると思わない?」
シルビアの言葉に、私は思わず後ずさりした。頬に熱が篭るのがわかる。
「シルビアっ!?」
この寒い中、顔を真っ赤にしているのは私だけだ。
シルビアは人差し指で私の鼻先をつんと突いてウインクを決める。もう、これだけで私は昇天してしまいそう。いくらシルビアが優しいからって、こんなことを言ってくれるなんて夢にも思わなかった。不意打ちにもほどがある。
「どう? このナイスなアイディアに乗ってみない? それとも、ちゃんはアタシと恋人同士になるのはイヤかしら?」
――嫌なはずがあるか。願ってもない。とても素敵すぎる。
でも、このタイミングでこんな強気な提案をしてくるなんて、もしかして。
「あのぅ……それって、私がシルビアのことを好きって気づいてて言ってるよね?」
「うふふ、それはどうかしら。アタシは、ちゃんなら大歓迎よ。ずーっと大切にしてあげられる自信があるわ……だから、ねっ?」
シルビアが私の前で地面に片膝を付けた。そして、私の手の甲にそっとキスを落とす。
絶対に断れない状況に持っていかれ、追い詰められた私はエターナルストーンの前で力強く宣言した。
「――私、はシルビアを永遠に愛することを誓います!」
「アタシ、シルビアもちゃんを永遠に愛することを誓うわ。騎士に二言はないの」
シルビアが私の手を取りながらにっこり笑う。その笑顔が眩しすぎて直視するのが恥ずかしかった。
「アラ! ちゃんったらようやくおねえさまとくっついたのねぇ!」
「んもうっ、あたしたちずっと二人がいつくっつくのかってジラされてたんだからぁ!」
どうやら隠れて私達の様子をずっと見ていたらしい、パレードの仲間たちが飛び出してくる。見られていたことが恥ずかしくて、思わずシルビアの手を振り払……うことができず、それどころかシルビアに抱き寄せられた。
「永遠の愛を誓ったばかりなのにアタシから逃げるなんて、めっ! よ!」
余裕綽々なシルビアに対し、顔を真っ赤にしながら暴れる私。恋愛は惚れた方が弱者……今後の主導権は握られたなと思いながらも、嬉しくて仕方ない私であった。
執筆:17年08月27日