私は悩んでいた。
セシルを追い出し、あの恐ろしいゴルベーザという男を「赤き翼」の隊長にするなんて。
陛下のお考えがわからない…。今後のゴルベーザの動向が気になる。
だから、私が今この城を離れるわけには行かない。
でも、セシルとカインの身が心配で、ローザと共にミストへ向かいたかった。
みんな、早く帰ってきて。
ただ、それだけを願うばかりだった。
あの日…カインから受け取った指輪をぎゅっと握り締めながら。
「副団長!カイン団長が帰還されたとのことです!!」
カインが城に帰還したとの連絡を受け、私は咄嗟に部屋を飛び出した。
ひたすら走る。
傷だらけになって、ひょこひょこと歩いているカインの姿を見つけ、私は涙ぐんだが、
彼に涙を見せるわけにはいかないと、その涙を拭った。
「カイン!」
私の声が届き、カインがこちらに振り向く。
私はカインに駆け寄ると、彼の腕を自らの肩に回して、彼が歩くのを補助した。
カインの息遣いが荒い…。
「…」
「カイン、今は話さない方がいいよ…」
カインに聞きたいことはいっぱいあった。
一体何があったのか。セシルは一緒ではないのか。
…だけど、そんなことよりも今は瀕死の状態であるカインを休ませてあげなくてはならない。
しかし、カインは話を続けた。
「セシルは…生きている…」
「え…?」
カインはそれだけ言うと、気を失ってしまった。
それと同時に一気に彼の体重がかかり、私はその場に膝をついた。
「カイン…!?」
私はカインの口元に耳をやり、息があることを確かめる。
よかった…生きてる。
出血が酷いというのに、ミストからここまで一人で戻ってきたのだ。
それを考えると、今まで気絶しなかったのが不思議なくらいだ。
…いや、”一人”ではないか。
あの子がいる。もしかしたらあの子がカインをここまで…。
カインが言った。
『セシルは生きている』。
それは、セシルを探せということ?
それとも、私を気遣って彼の無事を知らせてくれたの?
…両方、だよね。
カインが目を覚ましたら、一緒にセシルを捜しに行こう。
まずは、カインを部屋で休ませなくては。
……うわ、重いッ!!
カインの体重プラス彼の鎧の重さは、流石の私でもキツかった。
カインが休んでいる間、私は彼の飛竜に会いに行く。
名前は「フリージア」。
この子は、もともとカインのお父さんの竜だったこの子。
カインが幼い頃、カインの両親は暗殺されたと噂されている。
独りぼっちになってしまったカインには、私たちや陛下がいたからよかった。
だけど、フリージアにはカインのお父さんしかいなかったんだ。
カインのお父さんがいなくなってしまってからは、フリージアは誰にも心を開くことなく、弱っていった。
だけど、カインの努力によって、フリージアはカインに心を開いた。
それ以来、フリージアはカインに懐いている。
「フリージア、おかえり」
フリージアは私に気づくと、ゴロゴロと擦り寄ってくる。
私も一応竜騎士団副団長。
カインほどではないけれど、それなりにフリージアに認めてもらってる。
「カインが帰ってこれたのは、フリージアもついていったからだよね。ありがとう。」
私の体の大きさとあまり変わらないフリージアの頬を撫でる。
フリージアは気持ちよさそうにじっとしていた。
「カイン、すごくボロボロだった…何があったんだろう。
ミストで地震に巻き込まれたらしいけど…偶然地震が起きるわけないよね。」
ポツリと呟くと、フリージアは心配そうな目で私をじっと見つめた。
「フリージア、これからも、カインのこと頼むね。」
まだ目を覚ましていないであろうカインのことを想いながら、フリージアに凭れ掛かった。
私は小さい頃からフリージアに凭れ掛かって眠ることが好きだった。
「……。」
「あ、カイン。目を覚ましたのね!」
私はちょくちょくとカインの看病をしていた。
白魔導士は城に残っているが、ローザほどの白魔導士はいない。
それに、ローザは今セシルを追って城にはいない。
地道に看病をするしかなかった。
結局カインは丸二日眠り続けたままだった。
「…俺は…。」
「覚えてない?ミストの地震に巻き込まれて、多分フリージアが貴方をここまで連れて来たんだと思う。」
「そうだったな」と呟いて、カインは俯いた。
うん、ちゃんと覚えてるみたい。記憶喪失とか、障害はないみたいで安心した。
「…………この包帯。」
「え?」
カインが自分の体に巻かれている包帯を凝視する。
「が俺を…?」
「うん、ローザはセシルを追って城を飛び出しちゃったから。
本当はケアルで治してあげたかったんだけど…私は白魔法が使えないから。」
残念でしたと言う間もなく、カインは物凄い形相で私を睨みつけた。
「何故ローザを止めなかった!!ローザに何かあったらどうする!!」
カインの言葉に、私はショックを受けた。
「ごめん…私じゃ、止められなくて…」
止めるどころか、私もローザと行きたいとまで考えていたのだ。
…そうだよね、私が行ったところで何が出来たというのだろう。
あの時感情に動かされず、冷静に考えてローザを引き止めていられれば…。
「…悪いのはではなく、弱い俺のせいなのだ。それなのに俺はお前に当たって…すまん。」
「大丈夫…。カインがローザを大切にする気持ちはわかってるつもりだから。」
そう、カインはローザのことが好きなのだ。
自分の愛しく思っている人が危険だと思えば、焦るのは当然。
「私、カインが目を覚ましたこと陛下に報告してくるね…。」
そう言い残して、カインの部屋から出た。
いや、正確には…逃げた。
「ふ…っ」
目から、涙が溢れ出す。
涙を拭いながら、後悔する。
もっと自分がしっかりしていれば…。
そうしたら、ローザを安心させて引き止められていたかもしれない。
そして、カインを不安になんかさせなかったかもしれない。
「何を泣いている?」
上から低い声がした。
見上げるとそこにはゴルベーザが私を見下ろしている。
「ッ!…ゴルベーザ!!」
「カインの様子はどうだ。」
ゴルベーザは私の後ろにあるカインの部屋の扉を見た。
この男は、カインに何の用があるというのだろう。
心配して様子を見に来たとは到底思えない。
「そう警戒するな。目覚めたのならば話がしたいだけだ。」
ゴルベーザはクックと笑いながら私を見る。
何の話をするつもりだかは知らない。
だけど…カインがこんなヤツに耳を貸すなんて思わない。
私はカインを信じてる。
「さっき目を覚ましたばかりだから、あまり長居はしないで。」
「よほどカインを慕っているようだな。」
フッと嘲笑うゴルベーザ。
私を小バカにしているように思えて仕方が無い。
「大切な幼馴染を慕うのは当然のことだよ。」
ゴルベーザはそのまま言い返す事無く、カインの部屋に入っていった。
執筆:08年1月2日