カインが竜騎士団の詰所に顔を見せた。
騎士団たちが歓声を上げる中、私は一人黙って俯いていた。
膝の上でぎゅっと拳を握り締めていた。

私はあれからカインの部屋に行くことはなかった。
顔を合わせづらいというのもあったし、何を言えばいいかもわからなかった。
だから今、私はどんな顔をすればいい?
最初に何と言ってカインに話しかければいい?

しかし、そんなことはどうでもよくなってしまう言葉が、カインの口から吐かれた。

「今後、竜騎士団はゴルベーザ率いる『赤き翼』に協力することになった。」

私はばっと顔を上げ、カインの顔を凝視した。
彼の表情は「それが当たり前のことだ」と言うように無表情だ。
カインの言葉に動揺したのは私だけでなく、騎士団全員が動揺していた。
カインはそれに動じる事無く話を続ける。

「これより、『赤き翼』と共にダムシアンへ向かい、火のクリスタルを取ってくることになった。
抵抗する者は殺せとの…陛下からの命令だ。」

私は目を見開いた。
おかしい。こんなの、おかしいよ。
どうして、陛下はそんなことを…人を殺してまで奪う程クリスタルは重要なの?
それに、カインはこんなに無表情でそんなことが言えるの?
何故こんな任務を受けてしまったの?
こんなの…カインじゃない。
私の知ってる誇り高き竜騎士のカインは、違う。

「カイン!」

私の呼びかけに、カインは静かにこちらに振り向く。

、お前なら協力するだろう?」

そして、怪しく微笑んだ。



陛下だけでなく、カインまでおかしくなってしまったというの…?









何もかもがわからなかった。
ベッドに身を転がし、蹲っていた私はこれからのことを考えていた。
「まだ今なら間に合う」と思いカインに反論したが、結局事態は変わらなかった。
カインは冗談ではなく、本気だ。本気でゴルベーザに協力しようとしている。

ローザを止めることもできなくて、カインまで止めることができない。

私は、無力だ。

カインはまだ止められるかもしれない。だけど、どうしたらいいか、全くわからない。
こんなときにセシルとローザがいれば…。
私一人じゃ何もできない。一人は嫌。
セシルもローザもいない。だから、今の私にはカインしかいないのだ。

「……じゃあ、私はどうするべき?」

一人呟いてみる。
もちろん、誰も答えてはくれない。

ただ、私は昔のように楽しかった日々に戻りたいだけ。
取り戻したいと思う。
四人一緒に居られるだけで幸せだった日々を。
それならどうすればいい?私は何をするべき?
…決まってる。カインを、元に戻すんだ。そして、セシルたちを捜しに行く。
それだけだ。
私は体を起こし、ベッドから降りる。
そして、カインから貰った守りの指輪を右手の中指にはめた。

「まずは…何が原因なのかを突き止めなくちゃ…。」

考えられるのは、
最後にカインの部屋に行ったあの時、ゴルベーザと私は入れ違いになった。
私が部屋から出て行った後、ゴルベーザに何か言われた、もしくはされたのかもしれない。
だけど、確信はできない。私はしばらくカインの部屋に行っていない。
ゴルベーザの他の誰かがカインと会った可能性だってある。
やっぱり、カインと話をするのが一番なのかもしれない。そう思った。
ダムシアンへ出発するまではまだ時間がある。カインと話そう。










カインの部屋の前に立ち、深呼吸をする。そして、扉を2回ノックした。

「カイン、入るよ」

返事は無い。いつものことだった。
私はカインの部屋に入り、ベッドに横たわっている彼の姿を見つけた。
どうやら眠っているらしい。
やっぱり、まだ傷は治りきっていないのだろうか…。
眠っているのに起こしてしまったら悪いだろうな。
また、後で出直そう。そう思い踵を返した瞬間だった。

…すまない。お前は悪くないんだ…。」

私ははっとし、振り返る。
カインは、眠ったままだった。
…どうやら寝言を言っていたらしいけれど、どうして私に謝るの?
夢に見るまで私に謝ることって何?
もしかして、私がローザを引き止められなかったこと?
あの時のこと、カインは気にしてくれてたとでもいうの?
私に当たってしまったということを、悔やんでいると?
…カインの、ばか。
本当に悪いのは私なんだから、あなたが謝る必要なんて無いのに…っ。
だけど、心に重く圧し掛かっていたものがなくなったような気がした。

「ありがとう、カイン」

私はカインの穏やかな寝顔を見ながらそっと微笑む。
やっぱり、優しいカインのままだ。
カインは、本当におかしくなってしまったのだろうか。

「…カイン、何があったの?どうしてゴルベーザに協力するなんて言うの…?」

眠っているカインに言ったところで、答えを返してくれるわけが無い。
私は自重すると、再び踵を返した。

「何も無い。俺はただ陛下の命にしたがうだけだ。」

返ってくるとは思わなかった言葉が…返ってきた。
それも、私を落胆させる内容で。
私は振り返らずにそのまま唇をかみ締めた。

「私は…今回のダムシアンのクリスタルの件について納得できない。
納得しようとも思わないわ。任務からも降ろさせてもらうから。」

「無駄だ。お前は俺についてくるしかできない。
一人になることを誰よりも恐れるお前が、俺から離れられるとでもいうのか?」

流石、私のことをよく知っている幼馴染だ。
…確かに、一人になるのは怖い。

「…ッ!」

セシルたちを追って行くのは、きっともう無理だろう。
そもそも、今セシルたちがどこにいるかなんてわからない。
シドに飛空挺を借りて世界中を捜している暇なんて無い。
カインについていくしか…なかった。
悔しい。私じゃカインを止めることはできない。

「フッ、そんな顔をするな。」

いつの間にかカインは私の隣に立っていて。
悔しさで溢れ出た私の涙をそっと人差し指で拭った。
私は慌ててカインの手を払いのける。

「さ、触らないで!」

優しい振りなんかしないで。
さっきの寝言だって、本当は狸寝入りで…優しい振りをしてた。
そうに決まってる。やっぱりカインはおかしくなってしまったんだ。

「私、カインがわからない…」

カインは無表情のまま、私をじっと見つめていた。
そのまま私を抱き寄せると、耳元で「すまん」と、確かに呟いた。



執筆:08年1月12日