空はどんよりと黒い雲に覆われていた。少し肌寒い。
雨が降りそうな、嫌な天気だった。
赤き翼の飛空挺が段々とダムシアンに向かっていく。
結局私はカインについていく事になり、ダムシアンの火のクリスタルを奪取することになってしまった。
カインは私に「すまん」と言った。
それは、私への態度に詫びているのか、
それとも、カインは本当はこの任務を快く思っていないということなのか。
真実はわからない。だけど、カインの様子がおかしいことだけはわかる。
時折、思い出したように頭痛に頭を抱える姿が見られる。
その行動は決まって、セシルの名前を出した時だった。
炎上する、ダムシアン。
私は飛空挺からその様をただ見ていることしかできなかった。
あくまでも、今回の任務はダムシアンの火のクリスタルの奪取のはずだ。
抵抗する人々だけでなく、抵抗することもできない者達までをも巻き込んで、城ごと燃やしていく。
聞こえていた悲鳴も断末魔の叫びも、もう炎の燃え上がる音に全てかき消されていく。
そして、足下から伝ってくる、とてつもない熱気。
ここにいるだけでもこんなに熱いのに、燃えている城の中にいる人々は?
想像したくはない。
こんなやり方は間違っている。
これが、ゴルベーザのやり方。そして、陛下のやり方…。
私はぎゅっと拳を握り、目を伏せた。
一体どうしてこんなことになってしまったの?
陛下は、以前はもっとお優しいお方だった…。
陛下はクリスタルをこんな方法で集めて何をしようとしているの?
クリスタルって、大勢の人を殺してまで奪う程大切なものなの?
セシル…ローザ…私、わからない。
「随分と苦痛な顔をしているな。」
カツンカツンと、聞き覚えのある甲冑の音が私に近づいてくる。
私はゆっくりと目を開けて、彼を睨みつけた。
「カインは…どうしてゴルベーザに従うの?こんなやり方が間違っていると思わないの?」
火の粉が舞う中、カインは兜を外し、妖艶に微笑んだ。
「では逆に問おう。お前は何故このやり方が間違っていると思える?」
私はカインの言葉に、目を見開いた。
「罪のない人々を殺めて…何とも思わないの?」
カインは…自分が何をしているのかわかっているの?
人を殺めると言うことに、何の罪悪感も感じないと言うのだろうか?
「聖職者じゃあるまい、そんな邪念は早々に棄てるべきだ。」
そう、カインは吐きすてた。
歪んでる…。
違う。何もかも、違う!
陛下もカインも、どうして短期間でこんなに人が変わったようになってしまったの!?
それとも、私が知っている彼らは、偽者だったというの?これが、本当の彼らなの?
わからない。わからない。わからない。わからない。
だけど、セシルなら…セシルなら今も昔も変わらずにいくてれるはずだ。
そう、セシルなら…!!
「セシルだったら、絶対に間違ってると言ってくれる。」
私がそう呟いた瞬間、カインは私をその場に押し倒した。
そして、間髪入れずに私の顎を持ち上げ、私はカインとの視線を無理矢理合わせられる。
「…っ!」
床が熱い。
だけど、今はそれどころではなく…。
「いいか?俺の前でその名を口に出すな。」
カインの目は、瞳孔が開いていて。
ああ、カインが怒ってる。
そんなことをぼんやり考えながら私は彼の目を見つめていた。
「お前はただ、俺の隣で黙っているだけでいいんだ。」
それなら私の人形でも作って隣においておけばいいよ。
言葉には出せずに、そんなことを思った。
だけど、カイン私から手を引くと、ゆっくりと俯き、目を伏せた。
「俺にはお前だけしかいない。そして、お前には…俺だけだ。」
「カイン…?」
「お前には俺がいる。他の奴の事など一切考えるな。」
「カインには…私だけ…?」
一瞬、プロポーズ?と思ったが、違うのだろう。
恐らく…カインは今、私がいなくなってしまったら一人になってしまうのだ。
私も、今ここでカインの元を離れたら一人になってしまう。
だから、私達は共に行動するべきなのだと。
きっと、そのことを言いたいのだ。
だけど、どうしてだろう…。
「それなら何故、セシルを捜そうとしないの?
カインには、私だけじゃなくて、セシルとローザもいるのに…。
それなのにどうしてゴルベーザに協力なんかするの!?
セシルたちを探し出すという選択肢がないのはどうしてなの!?」
セシルとの間に、何かがあったのだろうか…?
セシルとカイン。この二人に考えられるものは、ただ一つしかない。
それは、ローザの存在。
「カイン…もしかして…。」
ローザを、完全にセシルに取られたと悟ったからなの…?
「…………。」
カインは、それからずっと黙ったまま、燃え続ける城を見ていた。
しばらくして、雨が降り始め、ダムシアン城の炎は徐々に消えていった。
飛行艇から見えたその光景は見るも無残なものだった。
執筆:08年4月7日