※擬人化
女神様の残した薬
ギ族の洞窟を出た後、オイラたちはしばらくコスモキャニオンで休んでから発つことにした。新しい仲間、オイラの幼馴染であるを加えて。
は人間だけど、オイラたちは幼い頃からずっと一緒だった。
――そして、オイラはに……恋をしていた。
「レッドXlllって、のこと好きでしょ?」
ことの始まりはエアリスのこの一言から始まったといってもいい。コスモキャニオンのじっちゃんの家でのことだった。
幸いは今上の階でクラウドたちと食事を取っているのでに聞かれることはなかった。
「えっ?!」
オイラは動揺して目を丸くした。
まさか誰かに気づかれるなんて思っても見なかった。ずっと必死に隠し続けてきた気持ちを、こうもあっさりと見抜いてしまうなんて、エアリスは一体何者?
「だって、レッドXlllったらいつものこと見つめてるんだもん」
「……うん、好き。でも、オイラは獣では人だから」
「そう言うと思った! いいこと教えてあげようか?」
エアリスは楽しそうに手を組んでニッと笑って見せた。そしてポケットから小さな小瓶を取り出してみせる。
「これは古代種の秘薬なんだけどね。動物や魔物を人間にしちゃう薬なの。これを飲めばもきっとレッドXlllを躊躇いなく好きになると思うわ」
「そう、なの?」
「そうなの。だけど、飲んだら元の体に戻れないかも……」
そうか。エアリスが最近夜遅くに何をしていたのかようやくわかった。この薬を作ってたんだね。でも、オイラのために?
「それをオイラに?」
「もちろんよ。私は恋のキューピッドよ。レッドXlllとには幸せになってほしいの!」
エアリスはそう言ってオイラに小瓶を差し出す。
けど、オイラは人みたく手先が器用じゃないから小瓶は持てなかった。エアリスはオイラが持てなかった小瓶を見て、微笑んだ。
「飲ませてあげるね?」
――怖い。
確かに人間になれたら嬉しいけれど、オイラ、まだこの体でいたい。それは不純なことかもしれないけど、が「かわいい〜」って言って抱きついてきてくれるから。でも、人間になってしまったらきっとそれもなくなってしまう可能性だってある。
「そっか。レッドXlllが言うんなら。でもいつか絶対使ってよね! あきらめちゃダメだよ!」
エアリスは小瓶を小さな巾着袋に入れてそれをオイラの首にかけてくれた。それは一見お守りにも見える。きっと誰にも疑われることはない。
「ありがとう、エアリス」
「ううん、がんばってね!」
エアリスは笑った。
――それはまだ、セフィロスを追っていた頃の話。
セフィロスを倒して、メテオから星を救った後。
オイラたちは一度それぞれの故郷に帰った。そしてそのあと、みんなで集まろうということになってニブルヘイムに滞在していた。
あのあとのニブルヘイムはメテオの被害もあって家がところどころ崩れていたのだ。みんなは集まったあと帰っていったけど、オイラとはそれを治すのを手伝おうということになり、ここニブルヘイムに滞在していた。
コスモキャニオンもここからだと近いということもあった。
滞在し始めて今日で約1ヶ月くらいになる。そして今、オイラはエアリスがくれた薬を飲んだ。
――オイラは決心したんだ。
と同じ人間になっての恋人になるんだ。
エアリスに渡された秘薬は本物だった。みるみるうちに人間になっていったときは体中が痛かったけど、完全に人間の形になったときはもう痛みもなかった。
なんとなく草むらに寝転がってみる。うわ、寝転がるとこんなに気持ちいいんだ。
「ナナキー? どこー?」
ちょうどの声が聞こえた。
早速人間になったオイラを見てもらわなきゃ!!
「! ここ! ここだよ!!」
「ん? ナナキ?」
が近づいてくるのがわかった。草を掻き分ける音がだんだん近くなる。
もう、我慢できない!!
「ーっ!」
「へ?」
オイラは思わずに抱きついた。
「わあああああああああああああああ!!!???」
が悲鳴を上げる。それと同時にオイラを剥がそうとする。
「誰っ!? やめて!! 放してっ!!」
「! オイラだよ! ナナキだよ!!」
オイラが声を上げるとは「え?」と目を丸くする。そしてしばらく硬直してしまった。
「な、ナナキ? あなたがナナキ?」
「うん」
オイラがいつものようにの首筋を舐めたら、は「ひゃ」、と声を上げた。
いつもは「くすぐったーい」と言って笑う彼女。オイラはいつもと違う様子のに首を傾げた。
「どうしたの?」
「あっ……その、何やら緊張しちゃって。ていうか、何で? その姿……ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
はオイラの体を見て絶叫し、そしてあわてて目を隠した。
「え?」
「何故全裸! 服着て! バカーーーー!!!」
は困ったように顔を歪めた。それに顔が真っ赤だ。
「そっか。人間は服を着るんだよね」
忘れてた。オイラ、いつも服なんて着てなかったから。
オイラは立ち上がると、「あ」とつぶやいた。
「な、何?」
「クラウド、服貸してくれるかな?」
「貸してくれるでしょ!」
は今にも泣きそうな声だった。
「は?お前がレッドXlll?」
「うん。オイラ、ナナキ…レッドXlllだよ。」
オイラはクラウドに服を貸してもらうべくクラウドの家を訪ねた。
当然クラウドはオイラを一目見るなり怪訝そうな顔をした。
今更だけど、なんか面倒くさいことになってるかな?でも、を娶るためだ!乗り切ってみせる!
「ああ、確かにそのしゃべり方と声は……。でも一体どうして」
「詳しくはあとで説明するよ。まずは何か服貸してほしいんだ」
「……わかった」
クラウドは部屋から適当に服を持ってきてくれるとじっとオイラを見つめてきた。
「どうしたの? クラウド」
「いや、レッドXlllって人間になると結構カッコいいんだな」
ニっと笑うクラウド。
そんなクラウドの方が、オイラはかっこいいと思う。
「そ、そう? ありがとう」
でも、クラウドにカッコいいって言われたよ!なんだか自信ついてきたな。
オイラは服を着終える……が、やっぱクラウドとは違ってオイラは小さいからぶかぶかだ。
クラウドは着替え終えたオイラを見つめた。そして静かに口を開く。
「何でこんなことになったんだ?」
オイラは微笑し、クラウドから目をそらした。
「それは、に振り向いてほしかったからだよ。知ってるでしょ? オイラ、が好きだ。前にエアリスが人間になる薬を作ってくれたんだ。それで、さっきその薬を飲んだんだ。」
「エアリスが!?」
クラウドはエアリス、と聞いて目を見開いた。
魔晄エネルギーを浴びた証である不思議な色の目がはっきり覗える。目が「もっと詳しく話せ」と訴えているのが、クラウドが言わずともわかった。
「う、うん。エアリス、前にコスモキャニオンで言ってくれたんだ。『私は恋のキューピッドよ。レッドXlllとには幸せになってほしいの』って。それで――」
詳細を話し、クラウドはしばらく真剣そうな顔でオイラの話を聞いていたが、聞き終えると共にふと「エアリスらしいな」と呟きながら微笑んだ。
クラウドは、エアリスのこと大切にしてたからね。エアリスが死んじゃった時は本当に見てられなかったなぁ。
「それで、にはその姿を見せたのか? まさか見せてないよな?」
「見せたよ? だからクラウドに服を借りに着たんだよ」
オイラがそう言うと、クラウドは赤面して大声を上げた。
「ば、馬鹿じゃないのか!? その…裸をに見せたのか!?」
「うん。つい、忘れてて。人間って面倒だね」
「――まぁ、過ぎた事は仕方ないとして。とりあえずに会ってこいよ。せっかく人間になって俺と話しても仕方がないだろ?」
クラウドはため息をついたあと、苦笑するとオイラに「頑張れよ」と言って指輪をはめてくれた。
これはクラウドがいつもつけてた指輪……?なんだかすごく勇気が湧いてきた気がする。
「ありがとう、クラウド! オイラ、絶対を振り向かせて見せるから!」
オイラは笑顔でクラウドの家を出た。クラウドには本当に感謝している。
「っ」
オイラはさっきの草原で草を弄っているを見つけて叫んだ。するとはオイラに気づいて立ち上がった。
「あ、ナナキ。今度はちゃーんと服着てるね」
ぶかぶかだね、と苦笑する。
……まだ、さっきのこと怒ってるかな?
「その、さっきはいきなりゴメン。早くに人間になったオイラを見てほしくて」
オイラが照れくさそうに言うと、は顔を赤くして俯いてしまった。そして首をぶんぶんと振る。
「や、もういいよ。でも、どうして人間になっちゃったの?成長すると人間になるんだっけ?ナナキの種族」
「ううん。前にエアリスに人間になれる薬をもらったんだ。それを飲んだ。もう、じっちゃ……いや、谷の人たちを守らなくてもいいくらい世の中は平和になったし。それに、オイラは人間にならなきゃいけない理由があったからね。それはまだ言えないけど」
「理由は言えないの?残念。でも私に何か手伝ってほしいことがあったら何でも言っちゃっていいよ! せっかくナナキが決心して人間になったんだもんね。何をしたいのかはわからないけど、私も協力するからさっ!」
は嬉しそうに笑った。
だからは大好きなんだ。優しくて、可愛くて。
「ありがとう、」
オイラも笑い返した。するとは照れたように頭をかく。
「じゃあ、まずは何がしたい? せっかく人間になったんだからさ」
「うーん……」
「じゃあ、デートしてよ!」
「で、デート……?」
はデートと聞いて頬を赤く染めた。きっとこれはまだデートを経験したことがないのだろう。
仮に誰かとデートしたことがあるのなら、オイラは悲しいけれど。
しばらく考えた後、は快く頷いてくれた。
「いいよ。じゃあ、どこに行こうか?」
「……って言ってもここらへんじゃティファのお店しかないよね」
ゴールドソーサーも今は閉園中だと聞いているし、平和になったとはいえまだまだ星の傷は癒えていないのだ。
「じゃあ、ついでだからティファにもナナキの人間になった姿を見せてあげよう!」
「そうだね! きっと驚くよ、ティファ!」
ティファのお店でゆっくりお茶を楽しんだした後、オイラ達は村の給水塔に上っていた。
デートは難しい。特に何もない場所だと、どこに行ってどうしていいかがわからない。だけど、一番大切なのはきっと、好きな子と一緒にいるのを楽しむことだ。エアリスのおかげで、オイラは今すごく楽しいし、幸せだ。だけど、この幸せはいつまで続くのだろう?
エアリスはもう獣の姿には戻れないかもしれないといった。『かもしれない』という不確定な言葉。もしかしたら、戻ってしまう可能性もあるということ。
「じゃあ次は何したい?」
が微笑みかけてくれる。
オイラはにどれだけ好かれているかはわからない。だけど、人間である内にしたいことがある。
それは――
「き……」
「き?」
が首を傾げる。
クラウドにはめてもらった指輪に視線を落とし、ぐっと拳を握る。
――オイラに勇気を、ください。
「オイラ、とキスしたい」
「え」
「やっぱり無理だよね! ゴメン。やっぱり今のは……」
「……いいよ。ナナキが望むなら」
「……本当にいいの?」
「うん」
「えへへ。ナナキ、かっこいいから何だか緊張しちゃうよ。それに、私はずっとナナキのことが好きだったから猶更」
「え、はオイラのこと好きだったの!?」
「ま、まあね! 私、子供の頃からずっとナナキが人間だったらなーって思ってたんだよ。だって、私とナナキは違う種族だから……恋なんてできないもん。諦めてたのに、ナナキってば本当に人間になっちゃうんだもの! エアリスは神様だね!」
顔を真っ赤にしながら、オイラから視線を外しながら、必死に照れ隠しをするがすごく愛しくて。
オイラはそっとの小さな身体を抱き寄せた。
「オイラ、が好きだよ。大好きなんだ」
「ナナキ……」
は優しく微笑んだ後、そっと目を閉じた。
こ、これってしちゃっていいのかな…い、いいんだよね?よし。
の顔がだんだん近くなっていき、の柔らかい唇がオイラの唇と重なった。
わわ、オイラたち、本当にキスしちゃったよっ!!
「あの、ナナキ?」
恥ずかしくなって唇を離すとがきょとんとしながら首を傾げた。
「あ、あ、あの……その。オイラ、絶対を幸せにするから!」
「ふふっ、もうプロポーズしてくれるの?」
「えっ? あ!」
オイラが慌てると、はにこりと笑ってオイラにもう一度キスをした。
「よろしくお願いします」
――夢が叶っちゃうなんて。
きっとエアリスは女神さまだったんだなと思った。
執筆:04年2月20日
修正:16年11月23日