ある日、リンドブルムの合成屋一家の元に遠い親戚夫婦の訃報と共に一人の赤子が届けられた。正確には、押し付けられたのだ。
 遠い親戚とこの赤子の住んでいた村が滅んでしまったという。運が良かったのか悪かったのか、生き残ったのはこの赤子と近所の老夫婦だけだった。

「うちには息子もいるし、もう一人養う財力もないんだけどねぇ」

 赤子を引き取らされてからの合成屋の奥さん――メリッサは、毎日ため息をつきながら愚痴をこぼしていた。
 ――そして、その子は愛を知らずに孤独な時を過ごしていくことになる。



※ ※ ※ ※ ※



! お前みたいな疫病神がいたら商売上がったりだ! 夜まで帰ってくるんじゃないよ!」

 合成屋からけたたましい怒声が響き、一人の子供が慌てて飛び出す。とぼとぼと歩くその子は、痩せ細った体には大きめでボロボロに着古さた服を着ていた。清潔感がなく不潔で貧相……とすれ違う人々は眉間に皺を寄せる。にとって、それはもう慣れっこだった。だから表情を変えることなく歩く。ただ、いつになっても心が痛むのは慣れることは出来ず、悲しい気持ちがを襲うのだった。
 お世話になっている合成屋に帰るわけにはいかない。日が暮れたら家に入ることをを許され、ささやかなご飯と寝床を恵んでもらうだけだ。そして朝になったらまた出ていかなければならない……そんな毎日。

 行く当てのないは日がな昨日から一日劇場通りをうろついていた。ついこの前は路地裏にのゴミ置き場の横で時間を持て余していたけれど、夜に帰宅したらメリッサおばさんに「臭い」とこっぴどく叱られた。他の路地裏には悪ガキたちが秘密基地を作っていたり、カラスが占拠していて、つまりに居場所はない。
 劇場通りは華やかだった。少し遠くに見える劇場からは毎日楽しそうな声が聞こえてくる。羨ましく妬ましいとも思ったけれど、その声を聴いていると自分もその中にいるのではないかと錯覚して少し楽しくなるのだ。
 の人生は、楽しいことは何一つなくつらいことばかりだった。トーレスおじさんもメリッサおばさんも意地悪だし、年の離れたお兄さんであるウェインものことが嫌いだ。いつも言われるのは「お前はうちの子じゃない」「疫病神」。幼いにはなぜ自分が嫌われているのかその理由はわからなかったが、自分がいらない子なのだということはわかっていた。
 最初は合成屋一家にとっていらない子だと思っていたけれど、最近は世界にとって自分はいらない子なのではと思うようになった。だけど、無知な子供であるは何をどうしたらいいのかわからず、日々を細々と生きる事しかできない。

「おい、お前!」

 誰かが誰かを呼ぶ。まさか、声をかけられたのだろうか。本当に、自分に?
 まさかそんなはずがない、ありえないと思い、は階段に座り込んだまま空を仰いでいた。

「おいって言ってるだろ!」

 先程の声の主は反応のないに少しだけむっとして強引に肩を掴んだ。そして、吃驚して振り向いたは目を見開く。
 ――金髪碧眼の男の子だ。伸ばした前髪を左右に分けている。髪をさらりと揺らしながら男の子がの顔を覗き込んだ。

「……!」

「……っと、悪い。お前、最近ずっとここら辺をうろうろしてるけど、もしかして孤児なのか?」

「こ、じ……?」

 難しい言葉には首を傾げる。すると男の子は少し考えてその意味をわかりやすいように説明してみせる。

「おとーさんもおかーさんもいない奴のこと! オレもそうなんだけどさ」

 お父さんもお母さんもいない。それならも同じだった。男の子の言葉で、は自分が孤児なのだということを初めて知った。
 ――正しくは孤児ではないのだが、今のはその間違いに気づくことができない。

「……うん、孤児だよ」

 が頷くと、男の子は二カッと笑った。

「やっぱりな! オレ、ジタンっていうんだ。お前は?」

「……

「じゃあ、。オレと一緒に来いよ!」

 突然ジタンに腕を引っ張られ、はよろけた。
 どこに連れていかれるのだろう、どうしてこの子は自分に話しかけたのだろう。そんな疑問がの小さな頭の中でぐるぐると回っていた。
 ジタンに手を引かれながらついていくと、劇場街の中にある一軒の家の中へと通された。初めて知らない家に入って戸惑うも、ジタンは気にした素振りを見せない。

「バクー!」

 ジタンはそう叫ぶと、奥の部屋から大柄の男が腹を掻きながらかったるげに出てきた。この男がバクーなのだと理解したは緊張した面持ちでバクーの顔を見つめる。
 バクーはジタンの後ろにいる知らない子供に気づき、顔を顰めた。

「なんだ、ジタン! そいつはどうしたんだ?」

「バクー! こいつも孤児なんだ! オレたちの仲間に入れてやってくれよ!」

 孤児と聞いたバクーの表情が曇る。その後、の前に立つ。

「いいぜ。タンタラス団はお前みたいな奴を放っておけねぇからな。それにしても、汚ねぇ身なりしてんな。それに髪もぐちゃぐちゃじゃねーか。おい、ボウズ。お前の名前は?」

 バクーの大きな手がぬっと伸び、はビクリと肩を震わせた。しかし、その手はやや乱暴気味にの肩をぽんぽんと叩くだけで終わった。危害を加えられたわけではないと理解したはホッと胸を撫で下ろして口を開く。



 初めての声を聞いたバクーは満足気に頷いた。それを見たジタンも誇らしげに「ニシシ」と笑う。

「とりあえず、服と髪を何とかしてやらねぇとな。話はそれからだ。服はー……ジタンのおさがりでまだ着れそうなのが残ってたはずだな。おい、ジタン」

「わかった、探してくる!」

 バクーが首で探してくるように合図を送ると、ジタンが別の部屋に走って行った。しばらくすると、部屋中を漁っているのか引き出しを乱暴に開ける音や、何かを投げたような音が響いてくる。
 その間に汚れた服を脱がせておこうと、の服に手をかけたバクーの動きが止まった。

「……おいおい、お前、ボウズじゃなくて嬢ちゃんだったのか。何でこんな男みてぇなカッコしてんだ」

 ジタンは何も言ってなかったし、バクーも今の今までを男の子だと認識していた――が、の体は女の子のもの。何故男の子の服を着ていたのか、バクーは疑問に思った。

「このお洋服、ウェイン兄さんのおさがりだって、メリッサおばさんが言ってた。一着しかないから大切に着ろって言われた」

 気になる単語がふたつ。ウェインとメリッサ……確か合成屋のトーレスのところの倅と嫁がそんな名前だったはずだ。

「メリッサ? 合成屋のとこのか? そういえば遠い親戚の子供を押し付けられてメリッサが毎日愚痴を垂れてるって話を聞いたが……もしかしてお前、そこに住んでんのか?」

「うん」

 の肯定にバクーは腕を組んだ。
 家がある子でありながらこの孤児のような身なり。どうやらはあまりいい生活環境ではないことが窺える。

「なるほどなぁ。しかし、メリッサも酷いことしやがるな。これじゃ孤児と変わらねぇ」

 バクーはの体を見て眉間に皺を寄せた。ほとんど皮と骨しかないやせ細った体は健康的とは言えない。いったいメリッサはこの子にきちんとした食事を与えているのだろうか。……いや、与えていればこんなにガリガリのひょろひょろにはならないはずだ。

「…………」

 の不安そうな目を見て、バクーは目を伏せる。
 このままではは長生きできないだろう。それを知った今、放っておくわけにはいかない。

「なぁ、。今日からここで暮らさねぇか? メリッサ達には話を付けておくからよ」

 とりあえずに聞いてはみたものの、既にバクーの中では決まっていた。例えが首を横に振っても、タンタラス団でしばらく預からせてもらって様子を見る。そのままで大丈夫そうならこの子はそのままずっとここにいればいい。劇団に女の子は必要だし、ゆくゆくは盗賊として生きていく道もあるのだと教えてやろう。

「……うん」

 しかし、は首を縦に振った。バクーはそれを確認すると豪快に笑いだす。

「おう、決まりだ! とりあえず、女物の服を用意しねーとな! 可愛くなって、ジタンのヤローをビックリさせてやろうじゃねーか!」

 未だに別室でお古の服を探しているジタンを放置し、バクーはの手を引きながら扉を蹴飛ばした。



※ ※ ※ ※ ※



「……へ? お前、誰?」

 やっとの思いで服を発掘し、いつの間にかいなくなっていたバクーとの帰りを待っていたジタンであったが、帰宅したバクーが連れていたのは知らない女の子だった。
 女の子はバクーの後ろに隠れ、恥ずかしそうにジタンを見つめる。

「ガハハハ! 見違えただろう、ジタン! こいつはお前が連れてきただ!」

「お、女の子……?」

 バクーの狙い通り、ジタンは驚いていた。その表情がたまらなく、バクーは満足そうに笑う。しかし一方では罪悪感を感じていた。

「ごめんね、ジタン。男の子じゃなくて。騙すつもりはなかったんだ」

「い……いや、それはいいんだけど――」

 言葉に詰まってしまう。あの汚い奴がこんなに可愛い女の子だったなんて吃驚だ。
 ジタンは見違えたの顔をもう一度見つめる。すると、何故か胸がドキドキした。よくわからない感情に戸惑い、ジタンはから目を反らした。

「あとな、こいつは合成屋のとこの娘なんだ。孤児じゃねぇ。でも、しばらくはここで暮らしてもらおうと思ってる」

「孤児じゃないのにか? 何で……」

「孤児ではないが、合成屋の本当の子供じゃねぇんだ。だからなのか、ろくに世話してねぇみてーでな」

 バクーがの腕を掴む。そのガリガリに痩せた腕を見て、ジタンは思わず声を漏らした。

「あ……」

 劇場通りでを見つけて引っ張ってきた時は気づかなかった。しかし、改めて彼女の腕を見ると自分の腕に比べてかなり細い。バクーが少し力を入れたら折れてしまうのではないかというほどに。
 女の子なのに、こんな風になってしまう生活をさせる家になんて帰したくない。

「そういうわけだ。ジタン、お前はの兄貴としてしっかり面倒みてやれよ!」

「わかった! はオレが守ってやるからな!」

 そう言ってジタンはの頭を優しく撫でる。は目を丸くした。頭を撫でられることがこんなにきもちいいものだということ、優しくされることがこんなにも嬉しいものだということ、嬉しくても涙が流れるのだということ――。

「……ありがとう」

 この日、は色んな初めてを知った。



※ ※ ※ ※ ※



 がタンタラスで暮らすようになってから数日が経った。
 が来るそれまで、タンタラス最年少はジタンだった。しかも他の団員は少し歳が離れていて、遊びたい盛りのジタンに構ってくれるものはいなかった。だから、同年代のという新しい遊び相手ができたことが嬉しい。
 常にジタンにくっついて歩くに、ジタンは何とも言えない幸福感を覚えていた。妹ができたみたいで嬉しいだけなのだろうか? それとも何か別の気持ち――?

 とにかくジタンは自分を慕ってどこにでもついてくるが可愛くて仕方がない。
 だからこそ、ひとつの疑問が生まれる。こんなに可愛いのにどうして合成屋の奴らはに意地悪をするのだろうと。それを思うとジタンは悔しくて仕方がなかった。

「悔しいよな。あいつら、がいなくなって喜んでるんだぜ」

「トーレスおじさんもメリッサおばさんも、すごく嬉しそうだった。やっぱりわたしが邪魔だったんだ……」

 気落ちしてしまうを見て、ジタンは慌てての頭を撫でる。

「気にすんなよ、! オレは毎日と遊べて嬉しいぜ!」

「ジタン、わたしも毎日ジタンと一緒で幸せだよ」

 ジタンが笑顔を向けると、も笑顔になった。
 彼女は少しずつ笑顔を見せるようになってきた。が笑う度にジタンはドキドキしてしまう。このドキドキの正体はわからないけれど、嫌なものではない。でも、ドキドキするとどうしようもなくを抱きしめたくなるのはどうしてなのだろうか。

! お前ってすっげー可愛いやつ!」

 ジタンは胸がいっぱいになり、人々が行き交う喧噪の中をぎゅっと抱きしめた。もそれに応えてジタンを抱きしめ返す。
 そんな可愛らしいやり取りを見た街の人たちは微笑んでいた。

「……はこんなに可愛いのに。それなのにいじめるなんてありえねーよ。なぁ、! トーレスおじさんとメリッサおばさんを見返してやろうぜ!?」

「見返すって……わたしが?」

「そうさ! が何でもできるようになれば、あいつらだって頭を下げてに戻ってきてくださいってお願いしにくるぜ!」

「でも、わたしは何もできないよ……」

 自信のないを見て、ジタンは口を結んだ。
 どうにかに自信を付けてもらい、トーレスおじさんたちを見返してやりたい。そうじゃないと、ジタンの気がおさまらないのだ。
 そういえば、とジタンは思い出す。先日こっそり敵地偵察に行った時、トーレスが息子のウェインに鍛冶のやり方を教えるのだと話しているのを聞いた。これは使えるかもしれない。

「なぁ、。これは内緒なんだけど、タンタラス団って実は盗賊団なんだ」

「えっ、そうだったの!?」

 驚くをよそに、ジタンは悪戯を思いついたようにニヤリと笑う。

「だから、も盗んでみようぜ。もちろん、オレも協力するからさ!」

「ジタンが一緒なら、やってみる」

 ジタンが何を盗むのかわからないまま、はジタンの後ろをついていった。
 そして辿り着いたのはが少し前まで住んでいた合成屋。ジタンはこっそりと店の裏に回って窓から中を覗く。

「いいか、ウェイン。鍛冶の基本は――」

 丁度トーレスが息子のウェインに鍛冶のやり方を教え始めるところだった。ウェインはやる気がなさそうにぼんやりとしている。一方トーレスはそんな息子の様子に気づかずに道具の持ち方を説明していた。

、覗いてみろよ」

 ジタンはトーレスたちに気づかれないように小さな声でに窓から覗いてみるように促す。は必死に背伸びをして窓から中の様子を除いた。
 それは、いつも自分に意地悪してきたトーレスおじさんの真剣な姿。見たことのないおじさんの表情に、は釘付けになる。

「楽しそう……」

 がトーレスの話に夢中になった事に気づいたジタンは目を瞬かせた。ジタンには、トーレスが何を言っているのか理解できないし、もし仮にあれをやれと言われたらできる自信がない。これはきっと、だから盗めるものなのだと感じた。

 ――それから、は数日の間ジタンとともに合成屋に通ってはトーレスの技を盗んだのだった。



※ ※ ※ ※ ※



 ある日、はジタンについてきてもらいながら合成屋の店内に足を踏み入れた。あの日から帰っていない家に少しの懐かしさを感じながら、恐る恐る奥で作業をしているトーレスにカウンター越しで話しかける。

「と、トーレスおじさん」

「……何じゃ、! お前、バクーのところに厄介になってるはずじゃ……?」

 は怖い顔をしたトーレスおじさんに逃げ腰になってしまい、手を繋いでくれているジタンの顔をそっと見る。ジタンは「言ってやれ」とでも言うように口角を上げた。

「あの……わたしをおじさんの弟子にしてほしいの」

「いきなり何を言いだすんじゃ。お前などには無理に決まっておる!」

「わたし、おじさんの真似できるよ」

 そう言ってはトーレスの前を通り、鍛冶の道具を手にした。トーレスはそれを咎めようとしたが、持ち方は合っていることに気づいた。は材料である金属と鉱石をポケットから取り出し、鍛冶を始める。素人であり子供であるはずののその手際の良さに、トーレスは思わず見入ってしまう。まるで自分が手順をこの子に教え込んだかのような動きだった。
 そしてはひとつの武器を仕上げ、息をついた。

「これは……ダガーか」

  トーレスはの作ったダガーを手に取り、それを細部まで眺める。初めて作ったにしては上出来だ。しかも、息子のウェインよりもずっと筋が良い。

「うん、ダガーを作ったの。こないだおじさんがウェイン兄さんに教えてるのを見て覚えた」

「なんと、見ただけで覚えたというのか……」

 ウェインには実際に手に取ってやらせた。それでも、トーレスの思うよりもずっと出来は悪かった。しかしはそれを見ていただけでここまでのものを作って見せたのだ。もしかしたら、将来この子に合成屋を託した方が安泰なのでは……という考えが生まれた。しかし、血を分けた息子であるウェインのことを思うとその考えを捨てなければならない。
 トーレスが困った顔になり、は慌ててトーレスに駆け寄る。

「わたし、おじさんとおばさんに嫌われたくないよ。仲良くしたいよ!」

……」

「お仕事のお手伝いだっておうちのお手伝いだってやるよ。だから、またここの家の子にしてください」

 どんなに意地悪をしても涙を見せずに従順だったが、涙を流しながら懇願している。トーレスは今までにしてきた仕打ちを思い返していた。
 ただ、厄介なものを押し付けられたと思っていた。だけど、は覚えが早いからきっと腕のいい合成屋になれる。それを今ここで潰すのは勿体ないのかもしれない。

「……わかった。メリッサと話し合ってみよう」

 に向けたトーレスの笑みは、とてもぎこちないものだった。それでも初めて自分に向けてくれたトーレスの笑顔が、は嬉しかった。



※ ※ ※ ※ ※



 が合成屋の家に戻って1年後。
 合成の修行を抜け出し、はジタンのところに逃げ込んでいた。まだ幼いはトーレスに怒られるたびに泣き出してしまう。それでも頑張って鍛冶をするけれど、時々耐えきれなくなってしまう事があった。

「うわーーーん、もうおうちのお手伝いしたくないよーーー」

 大泣きするの頭を撫でながら、ジタンは困ったように笑う。
 何と言って慰めるべきか。もう何十回とを慰めてきたのでそろそろレパートリーに困ってくる。

「でもんちって、武器とか強くするんだろ? かっこいいじゃん!」

「可愛くないからやだ!」

「じゃあ、がオレに強くてかっこいい武器作ってくれよ! オレ、いい素材いっぱい持っていくからさ」

「……やだ。何でわたしがジタンのために作らなきゃいけないの」

 少し生意気になった彼女。それでも可愛く思えてしまう自分を情けなく思うジタン。
 それはきっと、ジタンがに恋をしていると気づいてしまったからだった。だけど、に気持ちを伝えたところできっとわかってくれないだろうし、にはまだ早いよなぁと思う。
 といっても歳はそんなに変わらないのだけど。
 今はまだ恋人同士にはなれないけれど、いつかはそんな関係になりたい……そう思ったジタンは妙案を思いついた。ひとさし指を立てながら片目を瞑り、にその妙案を聞かせる。

「んんー、じゃあこうしよう。オレたち、大きくなったら結婚するんだ。それで、二人でお店をするんだ」

 結婚の約束をしよう。そうすれば大きくなったら自然と恋人になれるはず。それに今だってを慰められるし一石二鳥じゃないか。自分は天才ではないかと思ったジタンだったが、その案は――

「絶対やだ!」

 に一蹴されたのだった。
 しかし、ジタンはなんとしてでもに「うん」と言わせたかった。ここでフラれたままでは男ではない。諦めるわけにはいかない。

「やだって……オレと結婚したら、毎日一緒に遊んでやれるんだけどな~?」

 そう言ってニヤリと笑うジタン。

「えっ、本当? わたし、ジタンと結婚する! おうちのお手伝い頑張る!」

 はジタンと毎日遊べるという言葉に釣られ、首を縦に振る。その答えを聞いたジタンは表情を緩ませた。

 この時はただジタンと遊べればよかった。しかし、その結婚の約束はいつしかジタンへの恋心に気づいたにとって大切なものになっていった。



執筆:17年10月1日