※あんこさん宅のシンク(TOA)夢とのクロスオーバー
※男装名前でシンク夢主の名前変更可能です



 稲妻が光を走らせ、轟音を立てて地に落ちる。黒雲がリンドブルムを包み込み、いつ雨が降り始めてもおかしくはない――そんな空だった。
 商人兼技師である・ポレンディーナは趣味である兵器造りに没頭していた。数日前から着手し、今しがた完成したところだ。名前はまだ、ない。
 は額の汗を右手の甲で拭い、口の端を上げる。

「今までで一番の出来なのです! この子がいればこのあたりの魔物なんてイチコロなのですよー」

 窓の外では雷がピシャリと光り、ゴロゴロと音を立てる。完成した兵器と笑みを浮かべるに不気味な影を作った。恐らくこの光景を見たらの幼馴染である想い人もドン引きするだろう光景である。
 しかし、自身は自分がどれほど怪しい雰囲気を醸し出しているか気づいていない。今、頭の中は兵器の事でいっぱいだった。
 完成したからにはテスト試行をしたい。いつでも実践に投入できるように、いつか再び国を出て冒険に行ってしまうであろう彼の支えになる為に――。

「雨はまだ……降っていないようですね」

 窓の外を眺め、空の色を窺う。どんよりと厚い雲が覆う空は時折光を発している。
 雨が本格的に降り始める前に、そう、15分程度で戻ってくればきっと大丈夫――そう思ったは後にこの選択を後悔することになる。

 新兵器を持ち出し足早にリンドブルムを出て少し離れたところで魔物に遭遇した。早速新兵器を使うと、なかなか調子よく動く。一撃で魔物に大ダメージを与えた。これはすぐに実践投入できると確信した瞬間、空が光る。瞬間、頭上で地鳴りのような轟音が響いた。

「まって――」

 気づいたが手を伸ばしたのも虚しく、雷は無慈悲に新兵器に落ちた。それは魔物を巻き込み感電する。

 ――まずい。

 そう思った時には時既に遅く、新兵器はショートして大爆発を起こした。



※ ※ ※ ※ ※



 桃色の髪を後ろで束ねた少女と、緑色の髪を立てて仮面を被った少年は、特に待ち合わせをするわけでもなくこの場所で逢瀬をするのが日課だった。少女は・アルトリーゼ。ここダアトの教会で下働きをしている。少年はシンク。ローレライ教団の神託の盾騎士団第五師団長であり、参謀総長を務めている。六神将の一人であり、烈風のシンクという異名を持っている。
 明らかに一般人と言っていい程平凡なと高い地位にあるシンクのでこぼこなツーショットはひょんなことから始まる。教会内で二人が一緒にいるところを見て微笑ましいと思う者は多かった。

「シンクさん、今日もクッキーを作ってみたんです! その、今日こそ、大丈夫なはずです!」

「アンタ、また懲りずに作ったの? ……棄てるのは勿体ないから受け取るけど、毎日大丈夫だと豪語する割には硬いままなんだよね」

 が差し出した、可愛いラッピングで包装されたクッキーを受け取りながら、シンクはぼやく。
 とりあえず今日も受け取ってもらえた事に安堵の息を漏らしながら、はにっこりと笑った。それを見たシンクの頬はほんのりと赤く染まる。

 はここ最近ほぼ毎日と言っていいほど手作りのクッキーをシンクに渡していた。最初は助けてもらったお礼から始まったものだが、そのクッキーは何故か硬く仕上がる。それが悔しくて、はリベンジをしては失敗してと繰り返している。シンクいわく、味だけはいいとのこと。問題は硬さだけであり原因は不明だ。このクッキーでいつか人を殺めるのでは……とシンクは密かに思ったことがある。そして、今まで深く考えはしなかったが「歯は大切にしよう」と以前より歯の健康に気を使うようになった。
 いつになったらのクッキーは普通の美味しいクッキーになるのだろうと考えると、シンクはため息をついた。硬いことが分かっていながら食べるのは、味は美味しいから。そして、の気持ちが嬉しいからだ。後者は決して口に出してはやらないけど。

「いただきます」

 シンクはラッピングを開け、クッキーをひとつ摘まんで口の中へ運ぶ。
 どうせ今日も硬いはず。ゆっくり噛もう、そうすれば歯へのダメージは軽減されるんだ。今日はなんて文句を言ってやろう――。
 クッキーを噛む。案の定硬い。もっと力を入れる。やっぱり硬い。まてよ、いつもより硬いんじゃないかこれ。アンタ、どうやったらこんな硬度のあるもの作れるのさ。
 が不安そうに見ていて、シンクはグッと奥歯に力を入れる。クッキーが割れると思われたその瞬間だった。
 突如、シンクの口から光が溢れ出し、シンクは驚いて口を開いた。

「――――!?」
「きゃ!?」

 わけのわからない展開に、二人の思考回路も一瞬停止する。クッキーを食べたら割れたと思ったはずのクッキーが光りだした。それだけでもわけがわからない。それなのに更なる問題が起きる。
まぶしさで閉じていた目を開けた二人はそれを見て驚愕する。

「い、いたいのですー……」

 今までいなかったはずの少女がそこにいたのだ。

「ど、どなたですか……?」

 が無防備に近づこうとし、シンクが咄嗟にを背に庇う。いつでも反撃できるように、少女に拳を向けた。

「アンタ、何者?」

 シンクが拳を構えたのを見て、少女は目を丸くしながら慌てて首を横に振る。

「えと、です……・ポレンディーナと申します! あの、危害を加えるつもりはないのです! 気づいたらここにいたのですよー! どうか、どうか殺さないでくださいですー!」

 少女――の慌てた反応と、敵意がないことを確認したシンクは拳を下ろす。ただし、警戒は怠らない。何故この少女はいきなり現れたのか、先ほどの光と関係があるのか、思考を巡らせながら、仮面の下でを睨み付ける。

さんは、クッキーの妖精さん、ですか?」

 シンクの後ろでが何故かわくわくとした表情でに訊ねた。は目を瞬かせながら「え?」と困った顔をし、の素っ頓狂なセリフに脱力したシンクは思わず後ろに向かってツッコミを入れる。

「あのさ、そんなわけないだろ!?」

「で、ではもしかして! 私が作ったクッキーとシンクさんが超振動を起こしたのでしょうか……?」

「何でアンタさっきからバカなことばかり――いや、そう、なの……か?」

 シンクは「すみません」と身を縮めながら謝るから、少女に視線を移した。まるで自分の身に何が起きているかわかっていないは不安そうな顔でシンクとを見ている。
 は、恐らくクッキーの発した光の直後に現れた。それが仮にも超振動の一種だと決めつけるのは早計ではあるが、可能性がないわけではない。

「――クッキーに何を入れたのさ」

 再び視線をに戻し、シンクはため息をついた。

 一方、突如現れたは自分の置かれた状況に思考が追いつかずにいた。
 新兵器が落雷に遭い、爆発した。そして自分はそれに巻き込まれ、気づいたら見知らぬ場所であるここにいた。状況から察するに、違う場所に飛ばされてしまった。それならリンドブルムに戻らなければいけない。
 今はとにかく自分が今いるこの場所を知る事から始めなければ、とは思った。しかし、目の前にいる人物の一人はとても自分を警戒していて、少しでもおかしなことをすれば殴りかかってきそうな少年。もう一人はほんわかした雰囲気を纏った人のよさそうな少女だ。当然、話しかけるならば少女の方だと思うものの、先程自分に向かってクッキーの妖精かと訊ねてきたことに些か不安が残る。
 結果、は――

「あの、いったいここはどこなのでしょうか……」

 無難な道を選択し、二人に向けて話しかけたのだった。



※ ※ ※ ※ ※



 お互いの話を擦り合せると、どうやらは異世界からやってきたという事がわかった。
 兵器とクッキーが起こしたことからこの事件を「兵器とクッキーの神隠し」と名付けよう――まるで他人事のように現実逃避しかけたがぼんやりとそんな事を考えていると、隣に腰かけていたがふわふわのスカートを揺らしながら勢いよく立ち上がった。胸の前で拳を作り、は興奮気味に声を出す。

さんをこのままにしておけません! 元の世界に戻してあげたいです! シンクさん、なんとかしましょう!」

「なんとかと言われても、ボクは具体的にどうしたらいいかなんて知らないよ。アンタはこの女を助けられる方法を知ってるの?」

「あうぅ……」

 意気揚々と申し出たものの、何をしたらいいかまでは考えていなかったはシンクの言葉で怯んでしまう。そんな二人の様子を見たは笑顔を作り、慌てて二人を制した。

「だ、大丈夫なのです! きっと何か方法はあるはずなのですよ! それがいつ見つかるかはわかりませんが、気長に模索していくつもりです。さん、ありがとうございます。その優しいお気持ちがとても身に染みます。シンクさんも色々教えて下さって助かったのです」

 明らかに作り笑顔だと、とシンクはすぐに見抜いた。シンクはバツの悪そうな顔で黙り込んでしまい、は逆に気を使わせてしまったことに胸を痛めた。
 しかし、は「あ……」と小さく声を漏らした後、腰を下ろしての手を取る。

「あの、方法が見つかるまでは私と一緒にここで働きませんか? そしたら衣食住の問題は何とかなると思うんです。異世界での生活で最初は色々不自由な思いをしてしまうと思いますが、私もお手伝いしますから!」

 そんなの申し出に、は目を丸くする。宛のない旅に出て、路銀を稼ぎながら帰る方法を捜して行かなくてはと思っていた所に、ありがたい申し出だ。拠点があるのとないのでは効率が大きく変わってくる。そして、仮にもは女だ。女の一人旅程危ないものはなく、の戦力もそこまで強くはない。

「まぁ、現状はそれしかないよね。ボクの方でも情報を集めてみるし、安心しなよ。この世界のことに疎いが無闇に動き回って無駄な情報を集めるよりも、早くて正確で信憑性のある情報を得られると思うしね」

 口角を上げながらシンクも協力を申し出てくれた。そして、の方を向いて意地悪な笑みを浮かべる。

「ドジなんだから逆に助けられるようなことにならないように気を付けなよ」

「もう、シンクさん! 意地悪な事言わないでください!」

 はシンクとのやりとりを見て、想い人の顔を思い出した。自分にも身に覚えのあるようなやり取りに懐かしさを感じ、顔がほころぶ。そして、目に涙を浮かべながら深々と腰を折った。

「お二人とも、感謝するですー」

 頭を下げているおかげでの表情は見えないが、の声が涙声だということに気づいたシンクとはお互いに顔を見合わせた。



※ ※ ※ ※ ※



 数日後、この世界と教会の下働きの生活に慣れてきたは洗濯物を干しながらふと自分の気持ちに余裕が出てきたことに気づいた。
 これまでは自分の事でいっぱいいっぱいで考えられなかったが、元々家事ができるはすぐに生活と仕事に慣れた。しかし、元の世界に戻る方法の手掛かりは何ひとつ見つからない。シンクの尽力もあったが、彼いわく一番の頼みの綱であるディストという人物は生憎このダアトにはいないらしい。彼が帰ってくるまではどうすることもできず、焦っても仕方ないという結論に至った。
  そして余裕のできた今思うのは、お世話になっているとシンクに何かお礼がしたいという事。

「わたしが思うに、お二人は少なからずお互いを意識している関係なのですー」

 洗濯物のしわを伸ばしながらが一人呟く。
 二日目に、初めて二人と出会った場所でいつも二人が会っているところに混ぜてもらい、に花の冠の作り方を教わったりシンクに懐く猫に触らせてもらったりしていたが、どことなく居心地の悪さを感じた。それは二人の邪魔をしているという罪悪感からだった。ほんの少しの間見ているだけでも、この二人はそういう関係なのだとは察したのだから、この二人の関係にもどかしさを感じているのはどれだけいるのだろうとは薄く笑った記憶がある。

「そして、さんはわたしが来る前は毎日のようにシンクさんに手作りクッキーを渡していたとのこと……しかしこれがまた硬いのですよね」

 もしかしたらクッキーを作ったら元の世界に戻れるかも!? という希望と願望でにクッキーを作ってもらい、試食させてもらった。しかしそのクッキーは硬く、ひとつでギブアップしたことは記憶に新しい。確かに味はいい。しかし食感がそれを台無しにしている。それをシンクはあれを毎日食べていたというから信じられなかった。つまり、それは愛だ。愛がなければ食べようと思わないし、ましてやあのシンクの性格なら一口食べただけで二度と口には入れないはずだ。
 は一人でシンクとの恋模様に思いを馳せ、自分に何ができるかを考えた。

「わたしがキューピッドになってふたりをくっつけたいところではありますが……そこはお二人のペースというものもありますしね。差し出がましい真似をして逆に関係を壊してもいけないのです。お二人がいい雰囲気かつ喜んで頂けることといえば――」

さーん、お洗濯、終わりましたか?」

 パタパタと走ってこちらに向かってくるに、転びやしないかと内心ハラハラしながらは彼女に笑顔を向けた。

 ――ちょうどいいです。

「はい! たった今終わったところなのですよ! このあと、しばらくは自由時間ですよね?」

「はい、自由時間です! どうしましょうか? 今日もフォニック文字のお勉強の続き、しますか?」

「いいえ、今日はお休みにさせて下さい。それと、クッキーを作りませんか?」

「え……?」

 の口からクッキーという単語が飛び出し、が固まってしまう。というのも、自分の作ったクッキーがを異世界から連れてきてしまったのかもしれないという罪悪感から、あれ以来クッキーを作ることが怖くなってしまっていたのだ。もそれを重々承知していたが、だからこそだ。

「わたしもお手伝いします! わたしもたまに片想いの相手にクッキーを差し入れることがあるので、人並みには作れるのですよー」

「でも、私のクッキーのせいでさんがこの世界に来てしまったのに、そんな――」

「大丈夫なのです! 前回作って頂いた時は何も起こりませんでしたし、そんなクッキーを作るたびにおかしなことが起こるなら世界中大パニックなのですよ。それに、シンクさんもなんだかんだでさんのクッキーが食べたいと思うのです」

 の説得に、は少し考えてからふわりと微笑む。

「――わかりました、私、作ります!」

 の返事を聞いたは一瞬の見えないところでガッツポーズをする。
 あとはクッキー作りを失敗しないようにするだけ。

「ところで、さんの片想いの方のお話がとても気になるのですが……」

「ふふふ、ジタンといってわたしの幼馴染なのですが――」

 は恋バナで盛り上がりながらクッキー作りに取り掛かる。にシンクとの関係を根掘り葉掘り聞かれて赤面したり、もジタンのことを思い出して泣き出したりと忙しくはあったが、こんなに楽しく作るクッキーなら絶対に上手く出来そうだと、二人は確信していた。



※ ※ ※ ※ ※



 クッキーが完成して、可愛いラッピングを施す。味見はしっかりした。これなら絶対にシンクも喜ぶこと間違いなしだ。
 に太鼓判を押してもらい、はシンクに会いに行く。はこっそりとの跡をつけて様子を窺う。
 その場所で、猫と戯れているシンクの姿があった。が緊張した面持ちでシンクに近づくと、今まで大人しくシンクに撫でられていた猫が離れていく。シンクが後ろを振り返ると、と視線が合う。その瞬間、二人は心臓の音が心なしか早くなるのを感じた。
 一方は木に登り、高いところから二人の様子を見守っていた。シンクはその事に気付いてハァッと短い溜息を吐いたが、恐らく害は無いだろうと無視を決め込む。

「クッキー、作ってきました」

 ほんのりと頬を赤く染めたが真剣な眼差しでシンクにクッキーを差し出す。シンクはそれを丁寧に受け取ると、黙ったままクッキーをひとつつまみ上げた。
 が来て以来自分から作らなかったが数日ぶりに作ったクッキー。見た目も匂いも以前のものとは変わり無い。

 色々と思うところはあるけれど。

 シンクはパクリとそれを口の中に放り込む。サクッと、軽い音がした。仮面で表情が隠れていても、シンクが驚いているのは明らかだ。

「……味はいつも通りだけど、普通にサクサクしてる。硬く、ない」

 もシンクの反応に笑顔が溢れる。
 嬉しくて両手を胸の前で合わせながら喜ぶ姿がなんとも可愛くて、シンクは慌ててから視線を外した。

「ふふ、よかったです。さんにも少しお手伝いしてもらったのですが、これからはきちんとしたクッキーを渡せますね」

「ま、まぁ……作ってくれるっていうなら貰わなくもないよ」

「ありがとうございます、シンクさん」

 とシンクはそのまま腰を下ろし、談笑を始めた。

「お二人共、いい感じなのです」

 高い木の枝に腰掛けながら二人の様子を見守っていたは満足げに笑みを浮かべる。これで、はきちんとクッキーを作れるようになったし、シンクとの距離も前より縮んでる。それは物理的にも、心理的にも。

「先程一瞬シンクさんがこちらを睨みましたし、バレているならこれ以上は本当にお邪魔になってしまいますしね……わたしは部屋に戻って兵器でも作りますか」

 が木から降りようと枝に足をかけた瞬間だった。
 猫がの頭を足場にし、はバランスを崩し、落下した。

「あれ……さん?」

 一瞬、の声が聞こえた気がしたが、辺りを見回しても彼女の姿はない。シンクも突然の気配がなくなったことに違和感を感じた。

 それから、彼女を見かけることはなかった。



※ ※ ※ ※ ※



 いつものようにとシンクは秘密の園で逢瀬をする。
 話題は、突然いなくなってしまったの事だ。結局、はどこを探してもいない。それどころか、シンクと以外最初からの存在を知らないというのだ。
 しかし、二人が覚えているのだから確かに彼女はここにいた。
 二人しか知らない、という少女はいつの間にかいなくなっていった。さよならも言えず、は少し寂しげだったから、シンクはどう慰めようかと言葉を探した。探したものの、どの言葉も無意味なのかもしれないと思ったら口には出せなかった。

さんは本当にクッキーの精霊さんだったのかもしれません」

 が、空を仰ぎながら呟く。シンクは一瞬、小馬鹿にするような言葉を飲み込み、代わりに口の端を上げた。

「それはどうかと思うけど、一番近くにいたアンタがそう思うなら、そうだったのかもね」

 シンクが、先程から渡されたクッキーを口の中に運ぶ。クッキーはいつもの硬さに戻っていた。

※ ※ ※ ※ ※



「――、!」

 は強く揺さぶられながら名前を呼ばれる。小さく呻き声を上げて、重い瞼を開いた。目の前に広がったのは天井ではなく、愛しい彼の顔。

「ジタン……?」

! 心配かけやがって! もう目覚めないんじゃないかと思った……!」

 突然ジタンに抱きしめられ、の頬はどんどん赤く染まっていく。

「ご、ご、ごめんなさいなのです! でも、とても楽しい夢を見ていたのですー」

「どんな夢だよ」

「世界一お花が似合いそうな男の子と女の子の微笑ましい恋を間近で見ていたのですよー」

 ベッドの横にある花瓶に刺された桃色の花を咲かせた一輪の花が窓から優しく吹き抜ける風でふわりと揺れた。



執筆:16年8月21日