タンタラスの一員である私は日々演技に磨きをかけていた。
発声練習だって欠かさないし、体力づくりだって欠かさない。
舞台に上がること、それは私にとって最高の瞬間。
注目を浴びる瞬間っていうのは、失敗があってはいけない。
だけど、私はその緊張感がたまらなく好きなんだ。

「あー、あ゛―――。あああああああ!!!!!」

喉が枯れないように調整しながらの発声練習。
練習で声だしまくって本番で声が出ないなんて、ばかばかしいからね。

「よ!今日も頑張ってるな、

「ジタン…」

ジタンはしっぽを揺らしながらニッと笑った。
私とジタンは幼い頃から一緒に稽古してた仲だ。
親友と思っているし、良きライバルだとも思っている。
…まぁ、私たちの本業は盗賊なんだけど。
とにかく、ジタンは女好きで、しょっちゅう女の子たちを口説いている。
私は、ため息をついてジタンを睨んだ。

「稽古をサボって今日もナンパ?」

「まーな。レディたちがオレを待っているからな」

「意味わからないし。どんだけ女好きなんだよ」

幼い頃からずっと一緒だったせいか、ジタンは私に甘い言葉すら囁かない。
それって、私のことを女の子として見てくれてないってことなのだろうか。
…それはそれでちょっとショックだったりする。

「そうだ、ブランクがジタンのこと探してたよ。例の、チャンバラの練習がしたいとか」

「ああー。今朝そんなことも言われたっけな」

ブランクの誘いも忘れて女の子に夢中になってたわけか。
私はわざと大きくため息をついて、ジタンに促した。

「ブランク、待ってるよ。早く行ってあげて?」

「はいはい。じゃあな、

めんどくさそうにタラタラと歩いていくジタンの後姿に、なんだかイライラした。
どうしてそう、女の子のお尻ばっかり追いかけるのかな。
私だって、一応は女の子なのにな。










お芝居が終わった後、私はルビィに声をかけられた。

、どうしたん?今日の演技、何やしょぼくれてたで?」

演技中だというのに、ちっとも集中できなかったこと、ルビィは見抜いてしまったらしい。
私はもやもやとした感情をルビィに打ち明けてみようかと考えた。

「ねぇ、ルビィ」

「なんや、

ルビィが私の顔を覗き込んだ。
ルビィの整った綺麗な顔が目の前に…。
ああ、私もこれくらい綺麗だったらジタンにナンパされたのかな、なんて思う。

「私って女の子っぽくないのかな」

私の言葉に目を見開いたルビィは、直後にぷっと吹き出した。

「深刻な話かと思えば、可愛らしい悩みやな!」

「わ、笑わないでよ。割と真剣に悩んでるんだから…」

舞台に上がるとき以外はメイクもしてるかわからない程度だし、髪もあまりいじらない。
服装だって身軽なものを好むし…改めて私って女の子っぽくないのかも。

「んー、はそのままで十分女の子っぽいと思うで。元々の顔のつくりが可愛ええから、ほんま羨ましいわ」

うちなんてなー、と語り始めるルビィに、私は相槌を打った。
でも、私から見れば、ルビィの方が羨ましい。
服装も素敵だし、メイクも上手、髪型だってバッチリだし、色っぽい。
ジタンとも普通に仲がよさそうだし…。

「ねぇ、ルビィはジタンにナンパされたことある?」

俯きながら呟いた私に、ルビィは目を瞬かせた。

「まぁ、あるけど…初対面のときだけだったで。ははーん、なるほどな、そういうことねぇ…」

私の言いたいことがわかったのか、ルビィはニヤニヤと笑いながら私を凝視した。

「えっと、深い意味は無いんだけど…!」

はジタンにナンパされたことないんやな?」

なんだか、私がジタンに片思いしていると勘違いされているみたいだから
慌てて言葉を付け足そうとするも、ルビィは嬉しそうに笑ったままで…手遅れだった。

「ジタン、喜ぶと思うで!」

「え?」

私が首を傾げるも、ルビィは私の背中をぽんぽんと叩いた。

「こういうんはな、本人に直接言うのがええんや!」

そう言って、ニッと口の端を上げると、舞台で後片付けをし始めたジタンに振り返った。

「ジタン!が話ある言うとるで!」

大声を上げてジタンを呼ぶルビィに、私は慌てふためく。
ちょ、あの、何を言えばいいの!?

「おう、どうしたんだ?!」

ゆらゆらとしっぽを揺らしながらこちらへ駆け寄ってきたジタン。

「いや、あの…」

「何でジタンはにはナンパせんの?」

私の代わりにズバッと質問したルビィ。
私は冷や汗をかいた。
ジタンに至っては、目をぱちくりさせて私を見ている。

「な、何でって…ああもう。、こっち来い!」

「え!?」

いきなりジタンに腕を引っ張られ、私は一瞬バランスを崩した。
ルビィは楽しそうに笑いながら「頑張りやー!」と手を振っていた。










「じ、ジタン。何で私だけこんなところに?」

ジタンに引っ張られて連れてこられたのは、ジタンの部屋だった。
何も答えようとしないジタンに痺れを切らした私は「ねぇ!」とジタンの手を引いた。

。オレのこと、どう思ってる?」

滅多に見ることの無いジタンの真剣な表情に、私は息を飲んだ。
どう、思ってるって…。何で、そんなことを聞くんだろう。

「はぁ、いきなり何を言ってるの」

そんなこと、好きだなんて、恥ずかしくて答えられるわけが無い。
ジタンは大きくため息をついて、私を見つめた。

「じゃあ、質問を変える」

「何?」

「オレが他の女の子たちをナンパしてて、どう思ってる?」

ジタンの目が、うるうるとしていた。
な、何だこれ。すごく可愛いんだけど…。
でも、これはいい機会なのかもしれない。
ビシッと言ってやれば、ナンパをやめてくれるかもしれない。
私は腕を組んで、鼻で笑って見せた。

「バカバカしいね。一人の女の子を大事にできないんだなって思ってる」

私の答えに、ジタンは悲しげに微笑んだ。
ジタンは何を思って女の子たちをナンパするの?
私には理解できないよ。

「そっか。オレがどうしてナンパするかわかってないんだな」

私としては、ナンパなんてやめて欲しい。
ジタンが他の女の子に声をかけるのを見るたびに胸が締め付けられる気がする。

「わからないよ、そんなの。趣味なんじゃないの?」

やめて欲しいけど、そんなこと直に言える訳ない。
惨めだから、嫉妬してるって思われたくない。
だって、私はもしかしたらジタンに女の子として見られてないのかもしれないから。
女の子として見てくれているのなら、私にもナンパしてくれるはずだもん。

「違うさ。オレがナンパする理由は…に嫉妬させるためなんだよ」

「………はい?」

嫉妬、させたいだって?
ジタンは、私に嫉妬させたくてナンパをしいていたと?

「ったく!いい加減気づけよな!オレは、のことが好きなんだよ!」

逆ギレされた…。
ちょっと待て。何で私が悪いみたくなっているのよ。

「い、意味わかんない!それならそうと言ってよ!」

「言えるか!」

こんなことなら、嫉妬してるんだよオーラをもっと出しておけばよかった。
我慢しないで、大放出しておけばよかった。

「もう…私、ジタンに女の子として見られてないんだと思ってたよ!」

悔しいから、ポカポカとジタンを殴ってやる。
しかし、ジタンは軽々と私の攻撃を避けていった。

「そんなわけあるかよ!本命にナンパできるかよ。遊びじゃなくて、本気なんだからさ…」

「ジタン…」

私は攻撃の手を止め、俯く。

「わ、悪かったな。こんな話しちゃってよ。てっきり、が嫉妬してくれたんだと思って、告白しちまったぜ。」

ジタンは苦笑しながら踵を返した。
私は部屋から出ようとするジタンの服を引っ張った。

「…嫉妬、してたんだけど」

「…そ、そうなのか?」

「うん、私も…ジタンのことが好きだよ」

勇気を振り絞って、精一杯の告白。



ごめん、ジタン。









素直になれなかった












ちゃん、もっと早ぉウチに相談しとればよかったんや)
(そ、そうだね…)





執筆:09年7月13日