冗談



「好きだよ、ちゃん」

林斗先生の言葉に、一瞬ドキリとする。
突然「好きだよ」と言われれば、驚かずにはいられないだろう。
だけど、林斗先生のその言葉が冗談であることに気付かない私ではない。

「林斗先生、私も先生のこと好きですから、いい加減にしてください。」

そう何度も何度も冗談を言われ続けていれば、嫌でも自然と免疫がついてしまうもので。
最初は焦ったりしたけれど、今ではもう、先生にからかわれたら、適当にあしらうことができる。
それを承知していながら、それでも、林斗先生は懲りずに私を毎日のようにからかう。

「そなの?でも、その割りには素っ気ない態度じゃない?
俺のことが好きならさ…もっと、こう、甘えてくるもんじゃない?」

もう、林斗先生の戯言に振り回されてたまるものか。

「林斗先生の冗談には免疫ができましたから」

諦めて下さいね。と言って、笑顔で威圧してみる。
しかし、林斗先生は動じる事なく、にこにこと笑っていた。
私はそれを悔しく感じた。

「…なるほどね。でも、残念ながら冗談じゃないよ。俺がちゃんのことを好きなのは事実だからね」

「り…林斗先生?!」

それって…こ、告白…!?
え。そんな…冗談じゃなくて、本気で?! そんな事…急に言われても!!

「くすくす…」

林斗先生が小さく笑う。
なんだ、やっぱり冗談なんじゃないか。
ドキドキして損した…。でも、ちょっと残念、かな。

「林斗先生、紛らわしいですから!冗談はホントやめてください!
私、林斗先生の冗談には免疫できましたけど、本気か冗談かよくわかんないです!」

勝手に勘違いして、勝手に空回りなんて、嫌すぎる。

「だから、さっきから言ってるじゃない。俺は本気だって」

そんな言葉に対して、すごく笑顔な林斗先生。
告白って、そんな簡単に言えるものなの!?
だから、林斗先生の言葉が私には信じられない。

「…信じられません。だって、林斗先生はいつも冗談言うし…」

私は、林斗先生のことが好きだ。
だけど、私は林斗先生のことを理解できない。
林斗先生の言葉のどれが本気で冗談なのか、わからない。
それが…とても悔しい。
林斗先生はいつも私を好きだと言ってくれる。
私はそれを本当に信じていいのだろうか。
その言葉を信じて、先生に飛びついてもいいのだろうか。
だけど、もしその言葉が冗談だったならどうだろう?
…そう考えると、怖い。

「…ね。ちゃん」

突然、林斗先生が私の頬に触れた。
林斗先生と目が合って、じっと見つめ合う形になる。
私は恥ずかしくなり、顔を背けようとするも、林斗先生に制止されてしまう。

「な、何ですか、林斗先生…!」

自分の心臓がドクドク脈打つのがわかる。
頬が熱を持ったのがわかる。
林斗先生に、見つめ殺される…。

「君のその困った顔がすごく可愛いから、それが見たくてついからかっちゃうけど…
俺は本当にちゃんのことが大好きなんだよね」

林斗先生の柔らかい唇が、私の頬に触れる。
あまりの出来事に、私の体は硬直した。

「林斗先生…!」

「俺が、ちゃんのことを本当に好きだっていう証拠だよ。こんなこと、好きじゃない子にはしないさ。
ちゃんだからできるんだ。…あ、それとも唇の方がよかったかな?」

ニコニコと笑いながら私の肩を抱く林斗先生。
何気に強い力で、離れようとしても、離れられない。

「く、唇は…!!」

仕方なく、私は林斗先生に肩を抱かれながらそのまま首を横に振る。

「あ、そ。…ま、それはいいとして。俺の気持ち、信じてくれたかな?」

「…ッ!」

こんなことされたら、信じるしかないじゃない。
私は微かに頷いた。

「そか」

林斗先生は満足気に微笑んだ。



執筆:07年1月5日