それは気持ち次第



「…だからって、何で僕なんですか」

溜息混じりに私を睨付けるのは、高城大和。
生徒会長。
この天城寺学園が男子校から共学になる前、
共学反対を唱えていた人物だと、友達である恋ちゃんから聞いている。

「あ、や…大和くんと一緒なら一番安心だと思ったから…」

「…安心?」

「うん」

休日である今日。
私は街に出て買い物に行きたいと思っていたのだ。
しかし、私は地方からこの学園に転校してきたばかり。
土地勘のない場所を一人で歩く勇気など持っていない。
恋ちゃんが付き合ってくれる約束だったけれど、
雅哉くんとの約束があったことを忘れてたらしく、ドタキャンされてしまった。
大和くんに頼めば安心できると紹介してくれたのは恋ちゃん。
確かに、大和くんなら…と私も納得したのだ。







「…わかりました。一緒行ってあげましょう」

大和くんが眼鏡の縁に触れる。
私は、大和くんの言葉に目を丸くした。
確かに大和くんが一緒なら安心だけど、
大和くんが一緒に行ってくれるか、というのは難しかったから。
断られるのを覚悟してたけれど、そんな覚悟、必要なかったみたい。
…自然と笑みがこぼれる。
大和くんは笑っている私に気付くと、怪訝そうに私を見つめた。

「何を笑っているのですか」

「うん…一緒に行ってくれるのが嬉しくて。ありがとう、大和くん」

「特に予定もありませんから。…支度はできていますか?」

「もちろん」

私は、手に持っていた鞄を大和くんに見せると、ニッとはにかんで見せた。






恋ちゃんと行くはずだった買い物。
それが今、こうして大和くんが隣りを歩いている。

以前、テレビか何かで見た事がある。
デートで歩道を歩く時、男性が女性を守るように、車道側を歩くのだと。
大和くんも、車道側を歩いてくれている。

「大和くん…」

「…なんですか?くん」

私に話し掛けられ、きょとんとした大和くんから視線を外して、呟く。

「なんだか、デートみたいだよね」

そう言い終えた後に、後悔した。
そんな事言ったら、意識しちゃうじゃん!!
謝ろうと思い、慌てて大和くんを見る。
怒ったかな…?
しかし、大和くんは顔を赤く染めながら、黙っていた。

「や…大和くん、ごめんね。変な事言って…」

私が謝ると、大和くんは我に返ったように目を見開き、驚いた顔をした。

「えっ!いや…平気です!」

「…そ?」

大和くんの歩くペースが微かに速くなる。
私は不思議に思いながら、大和くんにおいて行かれないように小走りをした。
大和くんはそれに気付いてくれたのか、すぐに歩くペースを遅くしてくれた。





「今日はありがとう」

日も暮れて、暗くなった帰り道。
学園の寮までの道のりはまだあるけど、大和くんと一緒なら、
すぐに寮に着いてしまいそうだと感じながら、大和くんにお礼を言う。

「いえ。こちらこそ、楽しかったですよ。
以前、雅哉くんに女性の買い物に付き合うと大変な目にあうと聞いていましたが、認識を改めました」

微笑みながら、そんな嬉しいことを言ってくれる大和くん。

「それって、荷物を持たされたりするからなのかな。私の場合、今日は買うものが少なかったから」

男性は女性よりも力があるから、と言ってみる。
だけど、大和くんは真剣な表情で首を横に振った。

「…好きな女性と一緒だったから、ですよ」

大和くんの言葉が小さすぎて、聞こえなかった。

「え…?」

「なんでもないですよ」

聞き返してみるも、大和くんは微笑むだけ。
それで納得できない私は、何度も大和くんに聞き返すのだった。



執筆:07年1月5日
修正:07年1月8日