書庫に調べ物のために必要な書物を忘れたので、書庫に戻る。
すると、書庫にはぽつんと一人、誰かが残っていた。
すでに日も落ち始めているため、暗くて誰だかはわからない。
目を細めて、その人影を凝視する。

さん?」

ミン・ジョンホだった。
この世代の兵士で一番頭のいいと言われているミン・ジョンホは女性の憧れの的。
でも、私はどうもミン・ジョンホのことは好きになれない。
八方美人で、偽善者くさくて、見ててムカつく。
成績もいいし、運動も出来る。容姿も家柄もいい。
こんな完璧な奴、どう好きになればいいんだ。
どうして女性というのは完璧な男性が好きなのだろうか。
私も女ではあるが、私には全くわからない。
まず、一緒にいるだけで息が詰まりそうでイヤだね。
私としては、能力が同じくらいで、気軽にバカやれるスロの方が好きだ。
スロなら一緒にいて楽しいし、気も使わないから苦にならない。

ミン・ジョンホがこんな時間に一人
書庫で何しているのかと気になりはしたが、どうでもよかった。
書庫の門前には一緒に宿舎まで帰ろうと約束したスロを待たせている。
早く棚から書物を引っ張り出して、戻らなくては。

私は躊躇わずに書庫に踏み入り、目的の棚に向かって歩く。
そして、書物を取り出す。

「………。」

ミン・ジョンホとは特に親しいわけでもないので、
私は彼を空気のようにその場にあって気にも留めることなく書庫から出ようとした。
しかし、ミン・ジョンホはそのまま私を行かせてくれなかった。

「少し、いいだろうか。」

椅子に腰掛けていた彼が、いつ立ち上がって私の後ろに来たのかはわからない。
ミン・ジョンホは真面目な表情で私をじっと見ていた。
私は目をそらし、そのまま俯く。

「…ごめんなさい、チャン・スロを待たせてるんです。」

そう言って、書庫を出ようとした。

さん。」

私は呼び止められて、手を引かれる。

「…付き合ってください。」

今、私の目の前で、信じられないことが起こっていた。

「え…?」

私の目の前にいる、このミン・ジョンホが…
私に向かって「付き合ってください」…?
ということは、彼は私に好意を持っているということ…?
一瞬、自分の耳を疑った。そして、首をブンブンを振ってもみた。
そうだ。「付き合う」というのはそう意味ではないのかもしれない。
どこか勉強でわからないところがあるから、一緒に解いてほしいとか
そういうことなのかもしれない。

「それはどういう意味ですか。」

そう私が訊ねると、ミン・ジョンホは一瞬目を丸くして、そしてクスクスを微笑んだ。

「ずっと、貴女が好きでした。そういう意味ですよ。」

不意に、頬に熱が加わる。
告白されたのなんて初めてで、どう対応していいのかわからない。
それに、「好き」なんて言われ慣れてないから…。

「…………あ…あの…。」

何か言わなきゃいけない。わかってる。わかっているけれど…。
何て言ったらいいか、本当にわからなかった。
何か言う代わりに、ミン・ジョンホを見る。
すると、ミン・ジョンホは右手で口を覆いながら笑いをこらえている。

「…何…?何で笑ってるの?」

「いや、まさか本気にしてくれるとは思わなかったから。」

彼の言葉に、私は目を見開いた。
今のは……嘘?

「なに、それ…」

「ただ、さんの反応を見てみたかったんだ。
いつも、私のこと見てくれてなかったみたいだったから。」

一人、小さく笑うミン・ジョンホ。
私は彼の言っている意味が理解できなかった。

「意味わからないんですけど。」

「…さんは他の女性とは違って、一緒にいたら面白そうだったので。
一緒にいられる…いや、友達になれるきっかけが欲しかったんです。それだけです。」

「………そうですか。」

私はそのままミン・ジョンホに背を向けて、
チャン・スロの待つ書庫の門前に歩み始める。
ミン・ジョンホは慌てて私の前に立ち、私を制した。
私はため息をつき、ミン・ジョンホを睨み付ける。

「私は、あなたのような完璧で、八方美人で、真面目な人と友達にはなれませんから。」

それでは失礼します。
そう言って私はミン・ジョンホの制止を振り切り、前へと進んだ。
ミン・ジョンホは無言のままだった。


散った花びら




(本当はずっと前からあなたが好きでした…でも、私は臆病なのです。)


告白したものの、片想いを選んだジョンホ様

執筆:10年1月16日