前の戦にて、私は羅針盤で空飛んでる人間を見た。正直すごく驚いてしまった。
人が空を飛ぶなんて、なんてステキなんだろう。私も飛んでみたい。

後に、羅針盤で飛んでいた人物は織田軍の竹中半兵衛と聞いた。

可愛いらしい外見とは裏腹に腹が黒くなかなかやり手の軍師だと、
半兵衛とやり合ったという大殿が仰っていた。

そして今回の戦には幸いまた竹中半兵衛も出陣していると聞き、開戦してすぐに私は半兵衛の姿を捜した。

「見つけた!」

なんだかもう空飛ぶ羅針盤に夢中で、私は敵である半兵衛を追いかけた。
もちろん討ち取るのが目的ではなく、羅針盤に興味があるからである。

兵達は突如戦線離脱した私を見て混乱したけど…気にしない。
こんなことを大殿に知られたら怒られるかもしれないけど、もうそんなことはもうどうでもよかった。

「ああああの、空を飛ぶというのは気持ちよいものですか!?」

戦の真っ只中、私は半兵衛に目を輝かせながらそう訊ねた。
すると、半兵衛は不敵に笑いながら私の前に降り立つ。

「君も飛んでみる?」

帽子に手を当てながら、もう一方の手で私の手を取る半兵衛。
私は嬉しくて、何度も頷いた。

「いいんですか!?」

私が嬉々としていると、半兵衛は軽々と私の身体を持ち上げて羅針盤を動かした。
ふわりと浮かぶ、半兵衛と私の身体。
どんどん地上から上へと上がっていき、私は興奮した。

「ひゃあああ!すごい、本当に飛んでる…!」

そして、半兵衛がぼそりと呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

「このまま、キミの事を攫っていっちゃおうかなー?」

「え?」

今攫っていくとか言ったかな?
しまった!私、このまま半兵衛に攫われて捕虜にされちゃうの!?

私の表情が強張ったのを見た半兵衛が可笑しそうにクスッと微笑む。

「安心してよ。べつに捕って食ったりするつもりはないよ。ただ、俺のお嫁さんにしたいなぁって思っただけ」

「お、お嫁さん…!?」

なななななななに!?プロポーズされたぁ!?
どういうことなの、何で、こうなった!

私が目をくるくるさせていると、半兵衛がぶっと噴出して大笑いを始める。

「あははは!冗談だよ、可愛いなー。
でも、俺と一緒に来てくれるならいつでもこうやって空を飛ばせてあげるんだけどな」

半兵衛はとても真剣な表情で私を見つめてきた。


欲望≧理性




(このまま帰っても大殿に怒られるだろうし、ついていっちゃおうかな!)
(まさか前の戦で一目惚れした彼女が俺の武器に食いついてくるなんて、運命としか思えないなー)



執筆:12年5月14日