飲み会から帰ると、英才教育様が私を待ち伏せていた。やだこれストーカー!?
理由は今朝鍾会殿から「一緒に飲みに行こう」という誘いを受けたのを断り、司馬昭殿、元姫、トウ艾殿飲みに行ったからだ、と思う。
「お前、この私の誘いは断ったくせに他の奴らと飲みに行くとはどういう了見だ」
案の定、そうだった。
「元姫たちとの約束が先だったからですー」
頬を膨らましながら答えれば、鍾会殿は私の膨らんだ頬を人差し指で押した。私の口からブッと下品な音を立てながら空気が漏れた。私と鍾会殿は互いに睨み合う。
「何故私を誘わない」
司馬昭殿の言葉を借りよう。めんどくせ。だいたい、私は鍾会殿も誘ったってよかったんだよ。でもあんた、トウ艾殿と元姫のこと、めっちゃ敵視してんじゃん。雰囲気悪くなるじゃないか、折角のお酒の席が楽しくなくなるじゃないか。
そう不満を胸のうちでつぶやいていると、鍾会殿はため息をついた。
「なるほどな」
「え、何ですか」
鍾会殿はニヤリと笑って私の肩を抱いた。
「つまり、私と二人で酒を飲みたかったのだろう」
何故そうなった。どんな錬金術使ったらそう解釈できる。
「は、違っ」
「私の部屋で飲むぞ」
鍾会殿の腕を振り払おうとしても、びくともしない。やべえ、こいつ本気だ。
「やめろください」
「何語だ」
鍾会殿が余裕の笑みを浮かべる。そして抵抗も虚しく、私は鍾会殿に強制連行された。
※ ※ ※ ※ ※
「…………」
一人で延々と自慢と愚痴を吐露し、すっかり酔い潰れて勝手に眠ってしまった鍾会殿を見ながら、取り残された私は出されたつまみを黙々と食べていた。
こいつ、何がしたいんだ。
全く楽しいと思えない上に、グッタリと疲れた。私も自分の部屋に帰って寝よう……。
そう思って席を立つと、服の裾がぐいっと引っ張られた。
「……」
鍾会殿がむにゃむにゃ言いながら私の名前を呼ぶ。
……仕方ないな、このまま放置して風邪でもひかれたら明日の執務は私が全部こなすことになるからね。
「ほら、鍾会殿。寝るならベッドで寝て下さいよ」
寝ぼける鍾会殿を何とか椅子から引きずり出して、ベッドに寝かせる。
よし、今度こそ部屋に……と踵を返した瞬間、鍾会殿がまた私の名前を呼んだ。
「おい、」
「何ですか鍾会殿、私はもう部屋に戻りますから」
振り向いた瞬間、背後から抱きしめられた。
「好きだ」
耳元で囁かれ、思考が停止する。
「しょ、鍾会殿……!?」
予想だにしない事態に私はパニックになった。
そんな、鍾会殿が私を?
次の瞬間、鍾会殿の身体がフラリと揺れ、ベッドの上に倒れ込む。
あ、れ……? 寝ぼけてただけ……?
「信じらんない……!」
私はそのまま寝こける鍾会殿を放置し、自分の部屋に戻った。寝ぼけてたとはいえ、あんなこと言うなんて……もしかしたら鍾会殿は本当に私のことが好きなのだろうか。そう考えたらなかなか眠れず、次の日私は寝坊した。
酒は飲んでも飲まれるな
(、何故勝手に帰った!?)
(鍾会殿が寝ちゃったからじゃないですか、ばかー!!)
(顔が赤いぞ……?熱でもあるのか?)
執筆:12年1月16日