「てゆーかさぁ、って鍾会のことどう思ってるの?」

鮑三娘と恋バナをしていたら…いや、正確には聞いていたら、突然そんなことを聞かれた。
今まで黙って関索とのノロケ話をぼんやりと聞いていただけで、
まさかこちらに話を振られるとは微塵にも思っていなかった私は目を丸くした。

「…てゆーかさぁ、何で鍾会さん?」

鮑三娘は私を見て「はぁ?」と目を細めた。お、怒っておられる…!
真似をされたことになのか、私が何故鍾会さんなのかを理解していないからなのか。
私はただただ鮑三娘の言葉を待つことしか出来なかった。
すると鮑三娘は呆れ顔で、口を尖らせながら目線をある方向へと向ける。

「…あいつ、いつものこと見てるじゃん」

鮑三娘の視線の先には鍾会さんがいて、私は鍾会さんとばっちり目が合ってしまった。
その瞬間、鍾会さんが慌てて目を逸らす。
いやいやちょっと待ってくれ。それって…

「い、いつも…なの?いつも私を見てるの!?」

「うっそ、気づいてなかったの!?ありえないんですけどっ!」

「え…!うん、あはは…」

鮑三娘が教えてくれるまで今の今まで全く気づかなかったんだけど…!
鍾会さん、何で私のこと見てくるんだろう。私、何かしたっけ、うーん…。
あまり話をしたことがないからよくわからないけれど、
あの人は他人とのコミュニケーションが下手そうだからなぁ。
正直、何を考えているのかもわからないからちょっと怖いかも。

「とりあえず、ちょっと怖いかもしんない…」

「確かに性格に難はあるけど結構イケメンじゃんー?どーんといっちゃえば?」

いっちゃえいっちゃえ!と笑う鮑三娘。
イケメンだから、どーんといく?どゆこと…?

「えっと、鮑三娘は何が言いたいの?もしかして、鍾会さんと付き合えってことなのかな、ねぇ?」

私が恐る恐るたずねると、鮑三娘はニッコリと笑った。

「その通り!どう見ても鍾会はのことが気になってるし、から告っちゃえばいいじゃん!
もしかしたら、あたしと関索みたくラブラブになれちゃうかもしれないじゃーん!」

ウフフフと怪しく笑う鮑三娘をよそに、私はため息をついた。

まさかの事態である。

気になってるって、何で私なんだ?私があの人に何をしたと言うの?
でもって、相手が鍾会さんというのはものすごく考え物だ。
何せ私は今の今まで全く彼に興味を持っていなかったのだから。

「わ、私は鍾会さんのこと何も知らないし、いきなり付き合うのはちょっと…」

「そうだよねー。あいつと付き合ったら色々めんどくさそー」

推してるのか止めようとしてくれているのかどちらなのよ鮑三娘…!

「う、うーん…よくわからないや。まずは鍾会さんと仲良くなってみないと」

とりあえず、もし本当に鍾会さんが私のことを気になっているとしても
お付き合い云々はやっぱり仲良くなってから、だよね。
…と言っても今まで鍾会さんから私に話しかけてくれたことは片手で数えるくらいしかないし…
私から絡むべき、なのかなぁ。









そう思ってから数時間後、私は視線を感じて振り向いた。
そこにはやはり鍾会さんがいて、私が振り向いた瞬間にぱっと顔を背けてしまう。
んー…これは向こうから話しかけてくれる気はない、よね。
私は鍾会さんに近づき、挨拶をしてみる。

「鍾会さん、こんにちは」

鍾会さんは私が近づいたことに気づかなかったのか、驚いた顔をしてビクリと身体を振るわせた。

「なっ…何の用だ!」

「いやー、よく目が合うので、鍾会さんは私とお友達になってくれるのかなぁと思いまして」

にこっと微笑みかけると、鍾会さんの顔がはみるみるうちに赤くなっていく。
えっ、えっ…この反応ってやっぱり鮑三娘の言う通りだったりしちゃうのかなー…?
いや、まだそうと決まったわけじゃないよね!
きっと対人恐怖症で恥ずかしくて赤くなってるとか、そんなんだよね。
鍾会さんが他の人と話してて赤くなってるのを見たことがないけど…ッ!

「ふ、ふん…この英才教育を受けた私がお前ごときと友になるだと?」

いきなり上から目線…!やだ何この人。
やっぱり、勘違いだよ鮑三娘!この人は私のことなんて好きじゃないよ!

「い、いやぁ…なんか、すいません。やっぱり無理ですよねー…失礼しました」

苦笑いを浮かべながら退散しようと踵を返す。
すると、鍾会さんがガシっと私の腕を掴んだ。

「な、何ですか!?」

びびった私の声が裏返る。
すると鍾会さんは一瞬怯んで申し訳なさそうな顔をしたけれど、すぐに怖い顔になった。

「な、何故逃げるんだ。無理だなんて私は一言も言っていないぞ!!」

んもー、どっちなんだよ、疲れる人だなぁ。
だけど、鍾会さんと絡んでみてわかった。つまりこの人は…

「鍾会さんって、素直じゃないんですね!」

ニヤっと笑えば、鍾会さんは口をぱくぱくさせる。
更に真っ赤になった顔がなんとなく可愛いと思った。

「失礼な女だな!お前みたいな奴…」

「あれ?友達になってくれないんですか?」

「…ッ!」

鍾会さんが唇を噛み締めながら悔しそうに私を睨みつけてくる。
からかい甲斐があるなぁ。友達になったら、楽しそう。

鍾会さんが本当に私のことを好きなのかは定かではないし、付き合うとかはまだ考えられないけれど
友達になるくらいだったら全然大丈夫。ばっちこーい。

「嘘だよ。よろしくね、鍾会さん」

手を差し出し、握手を求めた。だけど、鍾会さんがその手を取る事はなく。

「わ、私は、お前と友達になりたかったのではなく、妻に迎えたかっただけだ…!」

突然、抱きしめられた。

「きゃあああああああああああ!!!!」

驚いた私は鍾会さんを全力で突き飛ばす。
そのまま壁に激突した鍾会さんはギロリと私を睨んできた。

「貴様…この私を突き飛ばしておいてタダで済むと思うなよ」

鍾会さんはすぐに私の両腕を拘束し、壁際へと追いやった。
そして、服に手を掛ける。

「鍾会、さん…?」

「大丈夫だ、抵抗しなければ優しくしてやる」

ちょ、あの…マジで怖いんですけど!


彼の目は本気だった



(嫌ああああああ!この変態!鍾会さんなんて大嫌いー!!うわあああんっ)
(なっ!泣くほど私のことが嫌いなのか…)



執筆:12年5月3日