※OROCHI2設定



「阿国!何であの時もっと早く助けに来なかった!!」

「やぁ、鍾会さんの困ったお顔がえらい可愛いてつい見惚れたんどす」

「…んなっ!お前よくもそんなことを抜けぬけと…ッ!!」

口では憎まれ口を叩いているけれど、顔は真っ赤になって
満更でもない様子の上司を見ていて私はため息をついた。
鍾会殿の副官を務めて長い私は彼がどんな人間かよく知っている。
今鍾会殿は阿国殿に「可愛い」「見惚れてた」などと普段誰からも言われないようなことを言われて
舞い上がっている…この様子はなかなかお目に掛かれない貴重なものだ。
でも、こんな情けない上司を持った不幸を感じずにはいられなかった。

鍾会殿は女性経験少ないから仕方がないといえば仕方がないんだけどさ。

…とか考えてたら鍾会とのが私に向かって声を荒げた。

「おい、お前もだ!お前が私から離れたから私が敵に囲まれる破目になったんだ!」

まさか私にも白羽の矢が立つとは思わなくて、私は目を瞬かせた。
…というか、あの時鍾会殿は何て言ったと思ってるの。

「先に行って敵将を討ちとって道を開けと仰ったのは鍾会殿ですけど?」

確かに彼はそう言った。私は彼の指示通りに動いただけ。
だからつまり、私には非がない。
私に働かせて腰を落ち着けて休んでいた鍾会殿の自業自得だ。

頭にきた私はふんっと鼻を鳴らして部屋を出ようとした。

!待てまだ話は終わっていない!」

鍾会殿が私の腕を掴もうとしたけれど、するりとかわしてやった。
どうせ話といっても私への罵倒だろう。聞く気にもならない。

「今日は疲れたのでお先に失礼しまーす」

あまりにも鍾会殿がむかつくから、ギロリと睨んで部屋を出てやった。
その時、阿国さんがにこにこと笑っていたことに、私は気づかなかった。









その夜、鍾会殿が私の部屋を訪ねてきた。
昼間の話の続きでもするつもりなのだろう、面倒だけど対応しないわけにはいかない。
適当にあしらってさっさと帰ってもらおうと思い、部屋に入れた。

それまではよかった。

「昼間は、悪かったな」

突然鍾会殿がそんなことを言うものだから、一瞬私の思考が停止した。
いや、待ってよ。何で鍾会殿が謝ってるの?
絶対罵倒されると思ってたのに何だこれは。
この人は自分から謝るなんてこと絶対にしないはずだ。誰だコイツ。

「え、えっと…」

どんな反応をすればいいかわからず、私は固まってしまった。
なかなか何も言わない私に痺れを切らしたのか、鍾会殿が舌打ちをする。

そして、私の両肩を掴んだ。

その直後、信じられない事が起こる。
今起きていることは夢なんじゃないかと思った。だとしたらこれはとんでもない悪夢だ。
お願いだから早く目を覚ますんだ、私!

「んん…っ」

夢のはずなのに、息ができなくて苦しい。
うわあ、夢じゃない…これは、現実だ。

鍾会殿にキスされてるというまったく意味不明な現実。

どうしてこうなった。

とりあえず私は鍾会殿の胸をありったけの力を込めて押した。
一度は離れた唇。
しかし、鍾会殿はまたキスを迫ってくる。

「ちょっと!?な、何するんですか、鍾会殿ぉぉぉおおお!」

頭に来た私は鍾会殿ご自慢の整った綺麗な顔を掴んで無理矢理引きはがした。
すると鍾会殿の顔が面白く歪み、ブフゥと笑いそうになったけれど今はそれどころではない。

「貴様、私の顔を掴むとは…!」

「しょ、鍾会殿が変なことしてくるからですよ!」

一体何なんだ…!
何故恋人でもない人とキスしなきゃならんのだ。

鍾会殿が私の手を払い落とし、ようやく身を引いた。
だけどジロリと私を睨みつけてくる。

「お前、嫉妬していたのだろう?」

そして自信たっぷりにふふんと笑った。
な、何?嫉妬だって?意味わかんないし。

「どういうことですか」

「この私が阿国と話していたから、機嫌を悪くしたのだろう?
お前の気持ちに今まで気づかなかったが、この鍾士季、お前の気持ちに応えてやる。ありがたく思え」

なんだそれ。
つまり鍾会殿は私が鍾会殿を好きだと勘違いしているのか。
どうしてそんな恐ろしい勘違いをしてしまったのかは知らないけど、まずは誤解を解かなくては…。

「あのですね、鍾会殿、私は別に貴方のことを好きではありません。
何を勘違いなさったかは知りませんが、嫉妬とかしてないんで!」

「なっ…!?」

私の言葉に鍾会殿が驚愕する。

「だが…っ、阿国は…お前は私のことが好きだから怒って出て行ったのだと言っていたぞ!」

そ ん な ば か な !

阿国さんめ、いらんことを鍾会殿に吹き込んでくださりやがって。
それを信じる鍾会殿もとんだ阿呆だ。何故そこで信じるのか…!

「私はただ、鍾会殿が理不尽だから機嫌を悪くしただけです!あなたが、先に行けって言ったから…」

だから私は鍾会殿のために、頑張って道を拓いたというのに。
あなたはいつのまにか後詰の敵兵に囲まれていて、阿国さんに助けられていた。

「私だって、苦戦していたんですよ。ずっと、鍾会殿が助けに来てくれるって、信じてたのに…!」

あれ、私、何を言ってるんだろう。
それに、何で泣いてるんだ私!

「…なっ、泣くな、私が悪かった」

「ああもう、やだ!鍾会殿は私にばっかり働かせてピンチになっても助けに来てくれないし、
阿国さんに助けられてるし、私のことわかってくれないし、いきなりキスしてくるし最悪です!」

おろおろしている鍾会殿を横目に、私は涙を手の甲で拭いながら文句を言ってやる。
普段の鍾会殿ならここで「この英才教育を受けた私を愚弄するのか」とか怒声を飛ばしてくるだろうけれど。

「…本当に、悪かったと思っている」

ふわりと、優しく抱きしめられた。
瞬間、私の身体はビクリと反応して、心臓のドキドキが激しくなる。
やだ、ドキドキしてるのがバレたりしたら恥ずかしい…!

なんで、抱きしめてくるの。
私のことなんて放っておいてよ…なんで、こんなことするの!

「やだ!鍾会殿…いい加減に」

「好きだ」

抵抗しようとしたけれど、鍾会殿の言葉で私の動きは止まった。
好きだ…?

「は?」

鍾会殿が?私のことを?

「な、何度も言わせるな!私はお前が、が好きだ!
だから、阿国からお前が嫉妬したと聞いたときは嬉しかったのに、お前ときたら…」

そう言って私の顎を持ち上げて視線を合わせる鍾会殿の顔は真っ赤だった。

「鍾会殿が、私を好き…」

今まで、そんな素振り見せてこなかったのに。
気づけなかったのが悔しい。そして、今ときめいてしまっている私自身も悔しい。

「だからその、こ…これからはちゃんと私がお前のことを守る。お前は私の傍にいてくれればいい!」

まさかの鍾会殿からのプロポーズ、なのだろうか。
いや、でも私はここで屈したりはしない。
だから対して私はフンッと鼻で嘲笑って返してやった。

「まぁ、仕事ですからね!副官として、鍾会殿の傍にいてあげますよ。
ただ、あなたは一応軍を率いているのだから考えて行動してください!兵たちが可哀相です!」

ぐっと鍾会殿の肩を押し、私はニヤリと笑った。
私も鍾会殿を意識し始めちゃってるなんて、好きになりかけてるなんて、口が避けても言ってあげない。

すると鍾会殿はプルプルと身体を震えさせながら私に向かって怒鳴った。

「う…うるさい!そんなの私の勝手だろう!」


いいから私の妻になれ!




(今はまだ嫌です!お断りです!!)
(くっ、私に逆らうのか?今に見ていろ、すぐに骨抜きにしてやるからな!……ん?今は、まだ?)



執筆:12年5月14日