「お前の国には春になると咲く、桃色の木があったな」

曹丕様は顎に手を当てて、考え込む。
私は「春に咲く桃色の木」を思い浮かべ、それがとある木であることに気付いた。

「桜の木、ですね」

「ああ、それだ」

曹丕様の眉間の皺が減るのに気付き、私は少しだけ口元が歪んでしまう。
しかし、曹丕様はそんな私に気付かなかったのか、話を進めた。

「先程、桜の花言葉を子建から聞いたのだが、それがお前に合う花言葉だと思った。」

「桜の花言葉ですか?知りません、何なのですか?」

私が訊ねると、曹丕様はニヤリと笑い、答えた。

「淡白だ」

「淡白…?」

「性格や態度がさっぱりしていることだな」

「へぇ、そうなんですか…」

私ってさっぱりしてたかなぁ。そう思いながら曹丕様を見つめた。
ああ、そういえば司馬懿様に呼ばれていたんだった。

「では、曹丕様。用事が御座いますので、失礼しますね」

私が部屋から出て行った後、曹丕様が呟いたことは誰も知らない。


サクラノハナ




(愛しいお前に面と向かって「優れた美人」だなんて恥ずかしくて言えるわけが無いだろう)



執筆:06年