「プリニーになりてぇ。」

は自分の部屋で呟いた。
プリニーになれば、自分もプリニー隊に入って、大好きなラハール様の傍にいられる。

そう考えていた。

自分はいつも城内の守りを任されている。
そのため、ほとんどラハールと会えることがないのだ。

ラハールが将来自分の妻にする者。
つまり、を傷物にさせたくないと考えているのは本人にもわかっていた。
しかし、はいつもどこかへ出かけてしまうラハールに不満を持っていた。
いつも一緒にいたいのに。
は頬を膨らませると爆発したように突然暴れだした。

「プリニーになりたぁぁぁいっ!!」

「アホか。」

いつの間に部屋に入ってきたのか、ラハールがため息混じりにを怪訝そうに見た。
は眉間にしわを寄せて、目尻には涙をためる。

「ふん、ラハール様はいつも私に城内の守りを任せますよね。
それってやっぱり信用されてないってことでしょうかー?」

の不満に、ラハールは目を細めた。
そして、愛しげにの頭をなでる。

「違う。お前はオレさまの妻になる女だ。
そんなヤツを戦場に放り出してキズモノにするわけにはいかんだろう。」

「でも、はラハール様がいないと寂しゅうございますです。」

よよよ、と泣きまねをする
ラハールは大きくため息をついた。

「あのな…。」

「私も連れてってくださいよ!エトナさんやフロンさんやプリニーだけずるいですっ!」

「ま、また今度な。」















はぐらかされた。

は、またもやラハールに置いていかれた事に嘆いていた。

また今度、なんて不特定な言葉。
いつになるかわかったものじゃない。
自分は一秒でも多くラハール様といたいのに。

「ラハール様、酷い!」

はふと、自分の隣にいる雇っているプリニー、セバスチャンに視線を移した。

「何すか?サン。」

「セバスチャン、ちょっとだけ…ちょっとだけ体を見せてね。」

そう言って、はセバスチャンの体をぺたぺたと触る。
自分の雇い主に触られているセバスチャンは、「きゃああ」と叫んだ。

「何するっすか!!」

「参考に。」

の余裕な笑みを見て、セバスチャンはハっとした。

自分の雇い主の得意技。
それは確か変身能力を使った術。

はその能力を生かして他人を騙したりするのが趣味だった。
だから、ラハールはその極悪さに惚れ込んだのだ。

サン…まさか…。」

「そのまさか。でも、私だってバレたくないから、精密かつ慎重に変身しなきゃ。」

セバスチャンが「ダメっすよ、そんなの」を叫んだ。
しかし次の瞬間、の体は発光して形を変えていく。
次にセバスチャンの瞳に映ったものは、自分とまったく同じ姿の雇い主。
プリニーに変身しただった。

「ど?」

「…流石サンっす。完璧プリニーっすね。」

もう何も言うまい、とセバスチャン。
そんなセバスチャンにはお構いなしには鼻歌を歌い始めた。

「さって。早速ラハール様のところにいかなくちゃ。」

小さな羽根で、ぱたぱたと羽ばたき始めた。
相変わらずご機嫌そうに鼻歌を歌う雇い主に、セバスチャンはただただ呆れていた。

「じゃあ、セバスチャン。留守番は任せた!
ラハール様が帰ってくる前に帰ってくるつもりだから。」

「わかったっす。健闘を祈るっすよ」

「ありがとう!」

満面の笑みを浮かべて、は魔王城を飛び出した。











「あ、いた!」

空を飛びながらラハールたちを探していたは、ようやくラハールたちの姿を発見する。

と、ラハールたちはバイアス…中ボスを戦闘中だった。
エトナ、フロンはもちろん、ラハールでさえ苦戦している様子だ。
まわりの(エトナの雇っている)プリニーたちは瀕死状態。

「中ボスさんって妙に強いのよね。アホだけど。
…そしてどことなく、雰囲気がクリチェフスコイ様に似てるのよね。」

だから、ちょっとだけやりにくい。

は深呼吸をし、中ボスに向かって急降下した。

「ラハール様今お助けします爆弾!!」

周りの大きな岩が粉砕するほどの大きな音を立てて、は中ボスを巻き込んで爆発した。

プリニーは投げると爆発することができる。
そこまで再現しておいてよかったと思っただったが、やはり自爆するのは結構イタかった。
死ぬことはないけれど、やはり体は痛い。

しかし、痛い思いをしただけあり、中ボスのダメージも大きい。

「なっ!プリニーだと!?」

「今…っす!ラハール様!」

は「チャンスっす!」とラハールを急かす。
思わず、いつもの調子でプリニーの特徴である語尾の「~っす」を忘れそうになった。

ラハールは不審に思いながらも、爆炎ナックルで中ボスを吹き飛ばした。

「とりあえず礼は言っておく。」

ラハールは微笑みながらに礼を言った。
は思わず赤くなってしまう。

「い、いや、そんな…。」

「だが、オレさまの言うことを聞かなかったな?
何のために留守を任せているか、本当にわかっているのか?
こうして、怪我を負わせてしまいたくなかったから留守を頼んでいるのに。」

「へ?」

ラハールの言葉に、は自分の耳を疑った。

まさか、自分の正体がバレているのだろうか。

「…これ以上、オレさまを心配させるな、。」

やっぱり。

「ラハール様にはわかっちゃうんすね。」

は苦笑しながら術を解く。
プリニーの姿から、本来の姿へと戻る。

「当然だろう。お前は、オレさまの惚れた女だ。
惚れた女のこともわからないで、夫になれるものか。」

それに、そんな術も見破れないようでは魔王失格だしな。

「流石、ラハール様です!」

はラハールに抱きついて、嬉しそうに微笑んだ。



プリニー大作戦!





「殿下、本当はちゃんが殿下のことを「ラハール様」って様付けで呼んだから気づいたくせに。」

「そうですね、プリニーさんたちはラハールさんのことをさん付けですしね。」

エトナとフロンの会話は、ラハールとの耳に届くことはなかった。

どうやらまだまだラハールの魔王への道は遠いようだ。



執筆:04年11月05日