破壊活動のススメ



学校が終わり帰る支度をしていると、不破があたしのクラスの教室を覗いてあたしの名前を呼んだ。



「不破…?何ー?」

「今度は、サッカーというもの極める」

「はァ?サッカー?」

廊下であたしは気の抜けた声を出してしまった。




あたし、
クラッシャーこと不破大地の幼なじみである。
その為、小さい時から不破の破壊活動の手助けをしている。
勉強を一緒にしたり。バスケや野球の相手をしてあげたり。その他色々。
不破は破壊してるつもりはないらしいけど、
結果的にそうなっているからあたしはそれを破壊活動と呼んでいる。

「で、今回も練習に付き合えと?」

「そういうことだ。何でもできるを信用しているのだ」

「あたしは何もできないよ。何でもできるのは不破でしょ?」

はやる気がないだけであろう?というか、皆の前では自分の実力を見せないタイプだけだろう」

「……。」

お見通しですか。流石不破、伊達に幼なじみやってないわね。
確かに、あたしは成績もよければ運動もほぼできる。
でもこれは親があたしをそうできるように無理やり仕込んだから。
そのおかげで、不破と破壊活動ができるようになったことは感謝してる。
だけど、あたしはそういう「なんでもできる」と言われ、周りから期待されるのが苦痛だ。
おかげであたしは毎日プレッシャーに押しつぶされそうになる。
だからあたしは不破と一緒に破壊活動を続けているのが本当に楽しい。
破壊活動は一種のストレス発散だ。

「仕方ない、付き合ってあげるよ!」

他人が傷つくのを見るのは、正直あんまり見たくない。
だけど、不破と一緒にいたい。だってあたしは、不破が好き。
不破のやりたいことを、サポートしてあげたい。

「恩にきる」

「いつものことじゃん」

あたしは笑顔で言った。
すると不破は優しく微笑んでくれた。

「今日はこのあとお前の家に行く」

「わかった!じゃあ庭掃除して待ってるよ」

そう言って不破と別れて、帰る支度を再開する。
教科書を鞄に詰め込み、鞄を持ち上げて教室を出ようとしたときだった。
あたしの前に3人のクラスの女子が立っていて、あたしを見つめていた。

「どうかしたの?」

あたしが首をかしげると、3人の女子の中の一人が口を開けた。

さんは、クラッシャーと仲がいいみたいだけど、さんはクラッシャーといて平気なの?」

「え…?」

あたしは一瞬何を言われたのかわからなくて、再び首を傾げる。

「だから、さんはクラッシャーにプライドズタズタにされないのかってこと!」

じれったいのか、大声で言う女子。あたしは冷汗をかきながら答えた。

「されてないけど…。たまにバカとか言われるくらいで…」

「ふーん。クラッシャーって、さんのこと特別視してるよね」

特別視?

「あ、それだけだから。ごめんね、引き止めちゃって。バイバイ」

そう言って3人の女子はあたしに手を振って教室の端で談笑し始めた。
あたしはとりあえず教室を出た。







学校から帰り、家に着くと、使用人のヨシノさんが出迎えてくれた。
ちなみに今は両親とも仕事で海外に行っている。
今、この大きな家にはあたしと使用人のヨシノさんしかいなかった。

ちゃん、おかえりなさい」

「ただいま、ヨシノさん」

あたしは使用人のヨシノさんに軽く会釈をすると、部屋に向かって走った。
部屋に入り、鞄をベッドに放り投げ、制服を脱ぎ、私服に着替える。
そして部屋を出て庭にある倉庫に入った。

「サッカーボールは…っと」

サッカーボールを見つけ、あたしは少し蹴ってみた。

「よし!」

そして倉庫から出ると、あたしはまずリフティングから始めた。
膝でボールをトスし、またトスを繰り返す。

「いち、にぃ、さん、しぃ…」

「相変わらずだな、

あたしは声のした方を向くと、そこには不破が立っていて、楽しそうに見ていた。
いきなり声を掛けられて、あたしは動揺した。

「あ、不破…ってうわ!」

バランスを崩し、あたしはボールと共に派手に転んだ。

「何してるんだ」

不破は呆れながらあたしに手を差し伸べてくれた。
あたしは不破の手を借りて立ち上がると「どーもッ」と会釈した。

「リフティングしてたんだけど…いきなり声かけないでよね」

はぁ、と溜息をつきながらあたしは膝についていた砂を掃った。
不破は「すまん」と言って頭を掻いた。

「じゃあ、練習始めよっか!」

あたしがそう言うと、不破は「ああ」と頷く。
今回の破壊活動、一体誰を破壊するんだろう?

「ね、不破。何でサッカーやる気になったの?」

あたしがそう訊ねると、不破は一瞬止まり、口を開いた。

「2-Aの風祭の笑顔の真相を究明したいからだ」

2-Aの風祭って、あたしと同じクラスのあのちっこくて可愛い子?
たしかこの前、サッカーの名門武蔵野森とサッカーやってゴール決めたって言ってたっけ。

「風祭くん、ね」

なんだか少し風祭くんが哀れになってしまった。
そういえば、さっきクラスの女子が言ってたっけ。不破があたしのこと特別視してる、って。
本当に、なんであたしをどん底に落とさないのだろうか?

「不破、もう一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「何で不破はあたしのプライドはズタズタにしないでいてくれるの?」

すると不破は相変わらずむっつりな表情のまま答えた。

「お前が壊れたら誰がオレの相手をしてくれる?」

どこかで、期待していた自分がいた。
そうだよ、不破はあたしのことを幼なじみで、使える人材、としてしか見てないんだよ。
クラスの女子に「特別視されてる」って言われて、浮かれてた自分がバカみたい。
でも、あたしは不破に「特別視」はされている。
だけどそれは「不破があたしを好きだから」してるんじゃなくて「幼なじみで使える人材だから」してるんだ。

「それが、どうした?」

「何でもないよっ!じゃ、いくよ!!」

あたしはボールを地面に置き、ゴールの前に立っている不破目掛けてボールを蹴った。










「はぁ、はぁっ」

練習を始めて何時間経ったか。
既に日は暮れ、あたりは暗くなっていた。

「…どうした?がこんなことでバテるなんて珍しい」

あたしは自分は不破の何か、ということを考えながら不破の相手をしていたので
つい力みすぎてしまい、バテてしまったのだ。

「べつに」

「初めから力みすぎていたからな」

不破はあたしを見て、ふぅ、と溜息をついた。
なんだか、ホントあたしってバカみたい。
考えても不破に聞かない限り答えなんて出ないのに。

「ごめ…ん」

そう言ってあたしはよろけた。倒れる…。
しかし、痛みはなく、その代わりに暖かいものがあたしを包み込んだ。

「倒れるまで無理するからだ。つらかったのなら言えばよかっただろう」

暖かいものの正体は不破だった。不破があたしを抱きとめてくれたのだ。
あたしは無気力な表情で首を横に振った。

「だって、あたし、どうしても不破の役に立ちたかったから。
不破に喜んでもらえればそれでよかったから。だから、あたし…」

不破のことが大好きだから、役に立たないと不破はあたしのこと…。

「バカ、だな。自分の利益と引き換えに好きなヤツに怪我させる男がどこにいるんだ」

「え?」

今、なんて。

「だから、オレはのことが好きだったんだ。ずっと、昔からな」

不破があたしの耳元で、確かにそう呟いた。

「不破…」

あたしは不破の腕の中で脱力した。
でも、不破があたしのこと好きだっただなんて、夢みたい。

「あたしも…不破が好き、大好きだよっ」

あたしは不破の右頬に軽く唇を落とすと、不破はあたしを強く抱きしめた。

一緒にいてくれてありがとう。
不破のおかげで、あたしは苦痛から逃れられる事ができたんだよ?
そして、これからも一緒にいてください。



執筆:03年11月13日
修正:11年1月6日