※名前変換、要男装名
初恋の唄
オレは。
生まれた時に手違いで男だと判断されて、今まで男として育ってきた女だ。
黒銀学院高等学校。
それがオレの次の学校。
前の学校で、実は女であることが一部の生徒にバレた。
先公にバレる前にさっさと退学。
だから、今度は黒銀学院高等学校へ転入することになったんだ。
もちろん、試験は受かった。
明日は初日。
オレは3年D組らしいけれど…どんなクラスなんだろう。
雨が降っていた。
は煩く鳴る目覚まし時計代わりの携帯に手を伸ばし、アラームをオフにする。
冴えない頭で「今日は初日だっけ」と思い出す。緊張していた。
できれば行きたくない。ズル休みしてしまいたいと思い、仮病のネタを考える。
しかし、やはり初日は休めないだろうと考え直してゆっくりと、ダルそうに目を開けた。
そして、窓の外から聞こえる雨の音に、気分はさらに沈む。
突然、携帯が鳴り出した。
この着メロはアラームの音ではなく、着信音。しかも家族からの着信。
なかなか起きてこない娘を起こそうと、 の母親がかけたのだった。
は携帯を無視してゆっくりと起き上がる。
季節はもう秋で、少しだけ肌寒さを感じた。
「おはよう」
リビングのドアをあけて、母親に挨拶をする。
の母親は、テレビを見ながら朝ごはんを食べていた。
「おはよう。今日もズル休みしようとしてたでしょう?
ダメよ。今度は毎日行かなきゃ。出席日数足りなくて卒業できなくなるわよ?」
「うーん。」
はテーブルに置いてあった菓子パンを手に取り、袋を破いて黙々と菓子パンを頬ばる。
の母親は娘のやる気のない返事に呆れたのか、「まったく」と呟いて溜息を吐いた。
外は相変わらず雨が降っていて、一向に止みそうにはない。
初日だというのにこの天候の悪さは最悪だ、とは眉間に皺を寄せた。
「ねー。今日雨降ってるから新しい制服汚れるじゃん?車で送ってって?」
が母親に懇願すると、母親はしばらく考え込んで、頷いた。
「そうね。」
母親の答えを聞いて、は内心でガッツポーズをとった。
菓子パンも食べ終え、洗面台で歯を磨き、朝シャンをする。
10分ほどドライヤーで乾かし、サラサラな髪を櫛で丁寧にとかした。
その後、自分の部屋に戻り、新しい制服に着替える。
買ったばかりの制服は、いかにも新1年生が着ているような真新しさだ。
首元についている黒銀学院の校章を見て、緊張が増した。
今日から黒銀学院の生徒。
友達はできるのか、勉強はついていけるか。
何もかもが不安だった。
しかし、時間は過ぎていく。
は時計を見て、溜息を吐いた。
「もう、時間か…」
新しい鞄を持ち、自分の部屋を出た。
足が、錘をつけられたかのように重たかった。
車で母親に送られたは校門を見上げて傘をさし、車を降りた。
いってきますと母親に言い残し、車のドアを閉める。
一歩ずつ歩みだす。その度に緊張が高まる。
ふと、横を見るとまるでお化け屋敷のような建物が目に付く。
よくみると改造された教室で。そこから聞こえる騒ぎ声。
…今の時間はどのクラスもHRのはず。あれは一体なんなのか。
昇降口前で、一人の教師が傘をさしながら立っていた。
その教師は何故だか小さく震えていたが、の顔を見てホッと胸を撫で下ろし頭を下げた。
は何故教師が震えていたのかと疑問に思いながら頭を下げた。
「君が 君?」
教師はまだ若く、20代後半といったところだ。
しかし、いかにも頼りなさそうな雰囲気を醸し出している。
は「そうです」と短く答えた。
「大変真面目そうな子だ。何故猿渡教頭はこんな真面目な子を3Dに…」
「3Dがどうしたんですか?」
教師の独り言に不安を覚え、は訊ねる。
すると教師は慌てて「なんでもない」と答えて傘を閉じ、昇降口に入っていった。
は眉間に皺を寄せながら傘を閉じ、教師の後に続いた。
薄暗く、長い廊下が続く。そしてだんだん騒ぎ声が大きくなっていく。
あきらかに、先ほど目に付いたお化け屋敷のような教室に向かっている。
まさかと思い、は教師に聞こえぬような小さいため息を吐いた。
教師はその教室に入っていってしまう。
は仕方なく教師の後に続いて教室に入っていった。
教室の中には、不良しかいない。
ボールで遊んでいる者もいれば、雑談している者もいる。
机は無造作に置かれていて、どこが自分の席になるのか見当もつかない。
転入生である
が教室に入ってきたことで、教室内はしんと静まり返ったがまたざわざわとし始めた。
「転入生の… だ…みんな…仲良く…な…?」
教師は小さな声で生徒たちに語りかけた。
やはり教師は不良たちであるこのクラスの生徒が怖いのだろう。
体が震えていた。
はそんな教師を見て、さらに恐怖心を煽られた。
もしかしたら自分も何か言われたり、されたりするんじゃないかと。
ただ、黙っていることくらいしかできなかった。
しかし、沈黙をやぶったのは扇子を持った背の高い不良だった。
「俺がツッチーこと土屋光だ!よろしく、転校生!」
席を立ち、扇子で扇ぎながら、を指差してウインクをする。
すると、土屋に続いて今度は前髪をヘアピンでとめている背の小さい不良が席を立った。
「俺は武田啓太。みんなからタケって呼ばれてっから!
タケって呼んでよ。のことは何て呼べばいい?」
は二人の行動に安心し、ほっと胸を撫で下ろした。
不良というのはみんな恐ろしいものだとは思っていたが思ってたよりもずっと優しい奴もいる。
そうだ、第一印象が一番大切だ…そう思いながらは笑顔で答えた。
「オレのことはって呼んでよ。よろしく!」
するとタケは嬉しそうに笑った。
「ていうか、って何気に可愛くね?!」
タケの言葉に、教室内は一斉に静まり返ってしまった。
そんな様子に、タケは焦ったように「あれ?」と苦笑いを浮かべる。
「オイオイ、お前同性愛?うわ、ヤッベー!」
タケの言葉に、ツッチーが笑いながら裏手でツッコんだ。
その様子に一度静まり返ったクラスの全員が爆笑した。
も混じって爆笑する。
タケはそんな を見て照れ臭そうに微笑んだ。
は笑うのを止め、初めて呼ぶ友達の名前に戸惑いながらタケに言った。
「…タケのが可愛いじゃん。その母性本能擽る可愛らしい瞳で何人の女を落としたんだよ?」
そんなの言葉に、クラスはどっと爆笑した。
中には「確かに」と言う不良もいる。
タケは顔を真っ赤にしながら「うるせー!」と叫んだ。
タケの隣ではツッチーが扇子で扇ぎながら笑っていた。
「 は…後ろの方の空いている席だ。…まぁ、適当に座ってくれ。」
教師が力なく、をも怖がるように声を震わせながら後ろの方を指差した。
タケとツッチーが、ちょうど後ろの席にいて、こっちこっちと手招きをしている。
はタケとツッチーに指定された席に腰を下ろした。
緊張もなくなり、だいぶ落ち着いた。
しかし、腰を下ろしたはいいが、まわりを見れば
腰を下ろしてもあまり意味がないとも思える。
授業中のはずなのに、立ち歩いたりしている者もいれば、
ボールを投げ合っている者もいる。
ここは学校なのに、こんなやりたい放題でいいのだろうか。
そんなことを考えていると、タケがの机に肘をついて、微笑みかけた。
「ね、 。」
は「何?」と首を傾げる。
するとタケはにっこり笑っての肩を軽くぽんと叩いた。
「仲良くしような。」
「うん、もちろ…」
が返事を返そうとすると、今度は後ろから背中を押される。
その勢いで思わず机に顔面をぶつけそうになったが、
咄嗟に机に両手を置き、くいしばり、なんとかそれは免れた。
反射的に後ろを見て、自分を押した犯人を睨みつける。
「ツッチー…」
犯人…ツッチーは「俺も仲良くしてくれよ」と笑った。
はツッチーの笑顔に怒る気も失せ、「もちろん」と短く答えた。
結局授業は開始されないまま下校時刻がやってきた。
いつのまにか雨は止んでいて、すっかり太陽が顔を出している。
はタケとツッチーに囲まれながらだらだらと歩いていた。
3Dの教室に入るまではキチンと整っていた制服も、
今現在はところどころだらしなく乱れている。
学ランはボタンを全てはずして全開にし、Yシャツを第2ボタンまで開けてみたり。
Yシャツをズボンから出して見たり。
すっかり3Dに馴染んでしまったのだった。
しかし、それでもは不思議と嫌な気分ではない。
不良となんか仲良くできそうにないと思っていたのに、隣にはちゃんと不良の友達がいて。
は嬉しそうに笑った。まさか自分が不良と友達になれるとは思っていなくて。
「そうだ。俺、隼人ん家行って来るわ。昨日隼人ん家行って携帯忘れてきちゃってさ」
ツッチーが苦笑いを浮かべた。
「そっか、そういえば隼人たち今日学校休んでたな。」
タケが「いってらっしゃい」と言いながら「じゃあな」と手を振るツッチーに手を振り返した。
隼人という名は、タケやツッチーの話の中でよく出てくる。二人の話では仲のいい友達らしい。
しかし今日は学校に来ていなかったらしく、は残念に思った。
「じゃ、今日は二人で遊んで帰ろうか?」
「そうだな」
タケの提案に、は縦に頷きながら答える。
するとタケは嬉しそうに笑った。
「男同士のデートっていうのも悪くないと思わない?」
「まあな」
は楽しげにニカッと微笑み返してみせた。
しばらく見慣れない道を歩く。その足取りはどこかおぼつかない。
そんな不安そうなに気付いたのか、タケはふと微笑んだ。
はタケの笑顔に安心したのか、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「 といると、なんだかすっごい楽しい」
「はっ?」
「なんか、何もしてなくても隣にいてくれるだけで…安心するっていうかさ」
タケの突然の言葉に、は息を呑んだ。
「なんか、それって告白みたいじゃね?」
「…ごめん。でもマジでそう思ったんだ。おかしいよな。
あーあ、が女だったら俺絶対と付き合うんだけどー。」
残念そうにハァとため息を吐くタケ。
は目を見開きながらその場で立ち止まった。
バレたのか
そう思い、瞬きさえも忘れてしまう。
目が乾いて、じんじんと痛み出してようやく瞬いた。
「何?あ、もしかして引いた?ごめん!冗談だって!」
明らかに様子がおかしいに、タケは焦りながら両手を合わせて謝った。
はバレてはいないと悟り、ため息を吐いた。
「す…素で引いた。何気色悪いこと言ってんだよ」
「が可愛いから悪いんだって」
「何でオレのせいになってんの。ていうか、可愛いなんて言われても嬉しくねーよ」
「確かに」
タケとは互いに苦笑しあう。
そしてしばらく沈黙が続いた。
車道で行き交ういろんな車。車の音しか聞こえなかった。
二人は黙々と何処に向かう目的も無く歩いた。
その間、は先ほどのタケとのやりとりを思い出す。
女だとバレたと思って焦ったが、タケは自分のことを可愛いと言ってくれたし
自分が女だったら付き合うとも言ってくれた。
考えれば考えるほど、今隣にいるタケのことを意識してしまう。
そして、つい見惚れてしまう。
個性的な髪型、乱れた服装。
タケの何もかもが愛しかった。
自分が女であることを伝えたらタケはどうするだろうか。
そんなことを考える。
付き合ってくれるか。
拒まれてしまうのか。
どちらにせよ、今は友達のままで良かった。
今はまだ……。
執筆:05年06月06日
修正:05年07月08日