都内有数の進学校。高縄中。
ここの学校は妙にプライドの高いお坊ちゃま、お嬢様方でいっぱい。

そんな学校のサッカー部マネージャーをしている私、
私はサッカーが本当に好き、愛しちゃってるからマネージャーをやっている。
男装してサッカーをやる。そういう漫画みたいな手もあるけど、私にはそんな勇気がなかった。

本当は私もサッカーがやりたい。
でも、先生が女だからという理由でサッカー部への入部を拒否した。
女子部員が一人もいない。やはりこれでは話にならなかった。
世間一般的にもサッカーは男子がやるものだと、そういう考えが根付いている。
私がおかしいのかな。






それでも、せめて少しだけサッカーに近づいていたかった。











「マネージャー、俺、コーラ飲みたい。」
「マネージャー、俺も。」
「オレはウーロン茶だな。」

部活の時間、私はいつも走り回っていた。
部員の世話をしているから、だ。

「はーい!今買って来ます!」

私は顧問の先生に人数分のお金をもらい、学校前にある自販機へと向かった。
流石金持ちの坊ちゃん・お嬢様中学。ぱっとすぐお金を出してしまうなんて。
そんな私も実は父親が貿易関係の会社に勤めるお嬢様なんだけど。
でも、そんな気全然ない。小学校の頃までは普通の人と普通に接してたから。
だからぶっちゃけこの学校は嫌い。
うざいくらいプライド高くて親と金の力で生きてるへろへろした奴ら。嫌になってくる。

「はぁ。疲れる。今日でこれ何回目だろう。」

私がぼやきながら自販機に向かって歩いていると、後ろから声が聞こえた。

さん!」

「あ、杉原くん。」

声の主は杉原くんだった。
杉原くんはこのサッカー部で1番頼りがあって信頼も厚い。
それに、すごいプレーをして2年生ながら一人だけ選抜に選ばれたんだ。
理由は、妙なプライドを持っていないし、精度の高いパスを出せるからだと思う。
私も、杉原くんだけは好きかもしれない。ちょっと苦手だけれど。

「またパシリ頼まれたんだね。ぼくも手伝うよ。」

「え、いっいいよ!杉原くんは選抜に選ばれてみんなよりも練習して疲れてるだろうし、
休んでおいたほうがいいって!私なら平気だから!!」

私はブンブンと横に首を振りながら言った。
すると杉原くんはいつもの笑顔であはは、と笑いだす。

「さっきパシリしてて大量の缶を持ちながら転びそうになったのって誰だったっけ?」

それは私だ。

「さらに、それを助けたのって誰だったかな?」

それは杉原くんだ。
そうなのだ、さっきもパシリをしていて足元がグラついたのを杉原くんに支えてもらって
最悪の事態を免れたのだっけ。

「…お願いします。」

私は杉原くんの気迫に負け、杉原くんにも手伝ってもらうことにした。
杉原くんは快く「うん」と言って私の隣を歩いた。

そして暫く会話のキャッチボールが続く。
前から苦手だと感じていた杉原くんはとてもいい人だった。

さんっていつもマネージャーの仕事頑張ってるね。」

「うん、私、サッカー好きだから。近くで見ていたいんだ。」

「そっか。女子はサッカーできないんだもんね。この学校は。」

「そうなんだよね。先生にも言ってみたんだけどやっぱりダメだって。」

「じゃあさ、日曜日ぼくと二人でサッカーやらない?」

ガクッっと、私は動揺のあまり何も無いところで躓いた。

「どあああ!?」

「危ないっ!」

何も無いところで躓いた私を助けてくれた杉原くん。
だ、だって、いきなりおかしなこと言うんだもん。

「大丈夫?」

杉原くんが私を支えてくれてる。
私は慌てて杉原くんから離れた。

「平気。ごめん。」

私は缶ジュースを握り締め、杉原くんに頭を下げた。

は、恥ずかしい!本日2回目だ。

「無事でよかった。それで、返事は?」

笑顔のまま首を斜めに傾げる杉原くん。
その動作が女の私から見てもとても可愛らしくて、つい恥ずかしくなってしまう。

「ほ、本当にいいの?選抜は?」

私がソッポ向きながら言うと、杉原くんはクスクスと笑う。

「その日は選抜の練習無いよ。そんなにぼくとやるのが嫌?」

「ううん!!違うの!私みたいなのが杉原くんにお相手してもらえるなんて思ってもみなくて。」

高縄中1上手い人とサッカーできるだなんて夢にも思ってなくて。

「うん。それじゃあ、日曜日にココでね。」

「え?学校で?」

「うん。」

「わかった。ありがとね!」

私が満面の笑みで言うと、杉原くんもにっこりと笑ってくれた。
杉原くんの笑顔、癒されるなぁ。

「遅いぞ、マネージャー!何やってんだ!」

「あ、すぐ行きまーす!」

えへへ、嬉しいな。またサッカーができるだなんて。
杉原くんに感謝しなくちゃ。
















日曜日、私は軽装で学校に向かった。
家からは2分もかからないからすぐに着いてしまった。
携帯の時計を見ると約束の時間の10分前。

早く来すぎたかな。

そう思いながら校門からグラウンドを覗く。
やっぱり誰もいない。

「いるわけない、か。」

「ぼくならここにいるけど?」

突然聞こえてきた声。
とっさに後ろを見ると杉原くんの顔がうにょっと出てきた。

「ひゃああああああああああ!?」

私は驚き奇声を発しながら身を引くと、杉原くんは困ったような顔で微笑んだ。

「ぼくは怪物じゃないんだけどな。」

苦笑する杉原くん。
あ、いや、怪物って。

「い、いや。いきなり出てきたからちょっと驚いちゃって。」

「ちょっとどころじゃなかったと思うけどね。」

杉原くんはクスクス笑うと「始めようか」と言ってボールを鞄から取り出した。
それにしてもちょっと意外。
杉原くんの私服、けっこう男らしいのだ。
もっと少女趣味に走っちゃってるのかなって思っちゃたりもしたんだけどな。
顔が綺麗で女の子っぽかったから。

今思ったこと言ったら、きっと何かされるに違いないな。

「上手いね、さん。サッカー、やってたの?」

「うん、小学校のころはよく男子に混じってやってたよ。」

私は杉原くんからボールを奪うと、ゴールに決めようと足を後ろにあげた。

「そうだったんだ。」

しかし、杉原くんはすっとボールをとってしまい、私の足はバランスを崩した。

さんっ!」

とっさに杉原くんに体を抱きとめられて、私は転ばずにすんだ。

す、杉原くんの腕、めっちゃ細ー。

「ありがとう、杉原くん。」

「よく転ぶね、さん。」

杉原くんはくすくす笑うと私を放した。

「ち、違う!昨日のはたまたまで今日のだって。」

「はいはい。」

わかってくれてない。

「もー、いいですよ!!」

「はいはい。」

ていうか私、遊ばれてる?
杉原くん、酷い。

「杉原くん!!」

私はボールを片手に持ち、杉原くんに当ててやる体勢をとった。

「なーに?」

振り返った杉原くんはとても笑顔で。
本当に楽しそうに見えた。

そのおかげで持っていたボールを落としてしまった。

「どうしたの?」

杉原くんがボールを拾いあげる。

「杉原くん、笑顔が綺麗だなって思って。」

「そう?ありがとう。」

杉原くんはボールを蹴ると、ゴールに入れてしまった。
すごい。コントロールが上手い。
ここからゴールまで30メートルはあるのに。

「コントロール、上手すぎだよ杉原くん。」

「サッカー、好きだから。でも、ここまでできるようになるのに苦労したけどね。」

杉原くんは苦笑した。

杉原くんもサッカーを愛してるんだ。
私だって、愛してる。
杉原くんに負けないくらいに。

「杉原くん、私、諦めないから。」

「え?」

「私、将来Lリーガーになる!今決めた!」

杉原くんはきょとんとしてしまった。

そうだよね。突然言われても困るよね。
ていうかそれ以前に杉原君に私の人生事情なんて関係ないし。

謝ろう。

しかし、私が口を開く前に杉原くんはボールを拾いに走った。
そして戻ってくると、ボールをぎゅっと抱きしめて私にボールを差し出した。

「これ、預けるよ。ぼくの今一番大事なボール。」

「え?」

「今、さんが絶対Lリーガーになれますようにって願いを込めたんだ。
Lリーガーになったら返しにきてね。それまで待ってるから。」

「杉原くん…。」

私を励ましてくれてるんだ。
杉原くんなりに応援してくれてるんだ。

私はボールを受け取った。
すると杉原くんは優しく微笑んでくれた。

「私、絶対Lリーガーになるから!」

絶対、なってみせる。
そしていつかこのボールを杉原くんに返すんだ。



君と私の約束




(約束、必ず守るよ。私自身のため、応援してくれた杉原君のために。)




執筆:04年02月28日
修正:11年1月6日