※テイルズオブデスティニーネタ盛り込んでます


同じクラスの。ただ地味で目立たないヤツだと思ってた。



ある日の給食中に聞こえてきたとその友達の山崎の会話に俺は胸躍らせた。

「嗚呼、麗しき美少年リオン!」

「はぁ?、あんたまた何かのゲームにはまったのね?今度は何てゲームなのよ?」

「テイルズオブデスティニー…。」

そう、今俺もはまっているゲーム、それがの言った「テイルズオブデスティニー(TOD)」なのだ。
TOD2が出て、前作のTODもやりたくなったから、最近中古ゲーム屋で買ったんだ。
自分の好きなゲームの話をされていると、自然と耳がそっちに傾いてしまうんだ。
しかも、TODは最近TOD2が出たものの昔に流行ったゲームだから、なかなかこの話題に触れる人はいない。

のやつ、今ごろTODの話してるぜ。ダッセーよな。やっぱ今の時代、D2だろ!な、結人。」

「……。」

「結人?」

「あ、ああ、そうだな。」




















放課後、俺はどうしてもTODの話がしたくてに話し掛けてみようと思った。
今やってるところの攻略法が全くわからないからだ。
そんなの、攻略本を買えばいい。けど、古本屋へ行っても攻略本はなかなか置いてない。
でも、もしかしたらならわかるかもしれない。
それに、友達に訊くにも「今更ダサイ」って言ってたから訊けるハズもねぇし。

俺は意を決してに話し掛けた。

!」

「…あれ、若菜くん。なら今さっき帰ったよ?」

山崎に言われ、俺は廊下を見た。
すると、廊下を歩いているの姿があった。

「わりぃ、サンキュ、山崎!」

俺は山崎に簡潔に礼を言ってを追う。
俺が教室を出ると、肩まである髪を左右に揺らしながら歩いているを追いかけた。

!」

俺に名前を呼ばれて立ち止まって後ろを振り向く
は驚いたような顔をして俺を凝視した。

「…え、何?」

「あ、いきなり悪いな。給食の時、テイルズの話してただろ?」

「…はあ。」

俺と話し慣れてないせいか、躊躇いつつ返事をする
元が大人しいせいか、よほど仲のいい人間以外とはあまり喋らないという感じだ。
それ以前に、がゲームやってるっていうのも意外ではあったけど。

「それでさ、ちょっと教えてほしいとこあんだけど。」

「…いいけど、何?」

「うーん、オベロン社秘密工場、だっけ?そこのベルトコンベアをどう使うかわかんねえんだ。」

は「あぁ、あそこ…」と小声で呟き、人差し指を顎にやった。
そして、両手を鞄の上に置き、もじもじし始めた。

「ごめん、口で説明できそうにないんだけど。」

「じゃあ、今からん家行っていい?」

当然、は驚いていた。
そりゃ、さっきまで話もロクにしなかったようなヤツが突然「家に行っていい?」だからな。
こんなこと言うなんて変だとわかってる。
けど、俺はゲームとサッカーに一生を捧げているから、今どうしても知りたい。

「あの、家、すごい散らかってるから…ごめん。」

は申し訳なさそうに俺を見ながら言った。

「じゃあ、俺ん家でいいよ。時間、平気だよな?」

俺がそう言うと、はまた驚く。
そして、「うん」と呟きながら小さく頷いた。
もしかして、嫌だったのかな?はっきりしないな。
どうせ、教えてもらったらもう話すこともなくなるだろうからいいけどな。

「今から?」

が不安げに首を傾げた。

「そうだぜ?」

当然じゃん。

「制服のままだけど…?」

「構わねぇだろ。」

時間の無駄だし。

「…そっか。じゃあ、行かせて貰うね。」

さっきより明るくなったの表情。
何か、今のの表情がすげー可愛く見えたのは気のせいか?
気のせいだな。だって、いつも目立たなくて、地味なヤツだぜ?
俺がにときめくなんて…ありえねぇよ。










「えっと、ワカメ君、だっけ?」

「若菜、だって。名前も覚えてないのかよ。」

「ごっ、ごめん!!」

帰り道でのことだった。団地に入ったところでが話し掛けてきたとき。
が俺の名前を「ワカメ」だなんて間違えやがった。
話してないからって同じクラスメイトなのに名前も覚えられてなかったのかよ。
でも、あんまり必死に謝ってくるを見て、なんだか怒る気もしなくなった。

「…で、何?」

「若菜君も、TODやってるんだねって思ったの。」

「やっちゃいけない?」

「そんな事無いよ!なんか、嬉しいんだ。ほら、今みんなTOD2の方ばっかりやってるじゃん。
でも、私はTOD2よりもTODの方が好きだから、やってくれてる人がいたなんて思ってなかったから。」

「ふーん…。」

本当に嬉しそうに話す
こいつ、本当にTODが好きなんだな。
はたから見ればゲームなんか興味ない、私は勉強一筋~ってカンジなのにな。

「ん?どうしたの?若菜君。私の顔に何か?」

気が付けば、俺はじっとを見てた。

「あ、いやっ、なんでもないっ。あ。俺ん家すぐそこ。」

「へぇ~。じゃあ、意外と私の家と近いんだね。」

は、「私の家、この裏の方だし」と言って微笑んだ。
気が付かなかった。案外近くだったんだな。

「あ、ここが俺ん家。」
「あ、この裏側が私ん家。」

俺とが同時に、同じ方を指差した。
…って。が指してる方って、俺ん家の裏側!?
ということは、どういうことだ?

「あれ?若菜君の家がここってことは、私の家と若菜君の家ってお隣さん?」

「そうみたい、だな。」

「気が付かなかった。」

「俺も。」

暫く沈黙が続いた。
けど、俺は無言のまま家の玄関の扉を開けて、を中に入るよう言った。
は玄関に入ると「お邪魔します」と言って丁寧に靴を脱ぎ始めた。
俺もの後に続き、「ただいま」といいながら靴を脱いだ。
すると、母さんがリビングから出てきて、を一見するなりあんぐりと口を開けた。

「あらあら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね。結人、あんたいつの間に彼女できたのよ!
いつも家に連れてくるのは英士くんと一馬くんばっかりだから母さん吃驚しちゃったわ。」

そう言って母さんが俺を肘で小突いた。

「ち、違ぇよ!は彼女じゃねぇよ!!」

「あら、そうなの?」

俺が必死に否定すると、母さんはに話を振った。

「はい、私は結人君のただのクラスメイトですから。
あの、結人君の彼女だなんて、そんな私ごとき不釣合いですから。」

は冷静に、きっぱりと否定した。
俺はの手を引っ張り、急いで階段を上り始めた。
俺に手を引っ張られているは母さんに軽い会釈をしていた。

部屋に入り、ドアを閉める。ついでだから、鍵も閉めた。
また何言われるかわからないから。

「ごめん、。」

「え?」

本当に何のことを言っているのかわからない様子のはきょとんとしていた。

「母さんが変な事言って。」

すると、が笑い出し、「いいよいいよ、面白いお母さんだね」と言った。
俺はプレステとテレビの電源を入れながら溜息をついた。
…あんな母さんだから女子を連れてきたくないんだって。

OPムービーをカットして、自分の記録をロードする。
そして、昨日やって終わったところの画面が現れた。

「ここがわかんねぇんだ。」

俺はにコントローラーを手渡した。

「戦闘の時どうする?私がやっていいんならアイテム使ってもいい?」

「うん、に任せるよ。」

俺はに「ガンバレ」と言うと、は笑顔で「うん」と答えてくれた。
そして、迷うことなくスムーズにやってのける
俺がわからなかったところなんてすぐに終わって、次のフロアに入ろうとしていたところだった。
は急に俯いた。

「ごめん、若菜君。私、ここからはできないんだ。」

は俺にコントローラーを差し出しながら苦笑した。
俺ができないところをいとも簡単にこなしてみせたができない?
確かに、ここからは何か出そうだ。ボス戦突入?はここのボス倒せないのか?

「ごめん、私、帰るね。」

「待てよ!」

「帰る」と言い出して立ち上がったの手首を掴む。
は一瞬何かを言いかけたけど、首を横に振って再び俺の横に腰を下ろした。

「塾とかあるのか?」

「ううん、違うよ。ごめん。何でもないよ!」

明らかに作り笑いだった。それに違和感を覚える。
…ていうか俺、どうしてを引き止めたんだ?
もう俺がわからなかった所は終わったじゃんか。
がいなくたってボス戦なんてなんとかなるじゃんか。
いや、ボス戦と決まったわけじゃないけど。
俺は再びコントローラーの十字キーを押し、次のフロアに入った。
次の瞬間、画面にはが好きだと言っていたリオン達が映った。
どうやらリオンがここのボスらしく、何とかリオンを倒した。
リオンが死亡するシーンに少ししんみりとする。
結構リオンって使えたんだけどな。戦闘ではすっごい役に立ってたし。
そういえばはどうしてこんなに簡単に倒せたリオンと戦わなかったんだ?
ふと、を見てみた。
否、見なければよかったのかもしれない。
そこには必死に声を殺して泣いていたがいたから。

「…!?」

「ごっ、ごめ…っ。わたしっ…ふ…っ。」

は泣きながら俯いた。
そっか。がリオンと戦えなかった理由がやっとわかった。
はリオンに愛着がありすぎてリオンと戦えなかったんだ。
ていうか、見るのも嫌だったから帰ろうとしてたんだな。
ゲームだけど、自分の好きなヤツが死ぬとこなんて見たくないよな。
なのに俺、無理矢理を引き止めて、わざわざこんなところを見せて。

、俺。」

「…ごめんね、変なところ見せちゃって。キモいだよね、私。キャラが死んだくらいでめそめそしちゃってさ。」

は涙を拭いながら苦笑した。

「いや、そんなことない。」

「え?」

「だって、それくらいは優しいってことだろ?
ていうか、好きなやつが死んだら悲しいのは当然だろ!」

「若菜君…。」

「ごめんな。俺、わけもなくを引き止めた。でも信じてほしいんだ。それは、への嫌がらせじゃないから。」

「うん、わかってる。ありがとう、若菜君。」

は濡れそぼった目で優しく微笑んだ。
なんか、その笑顔はすごい輝いて見えた。









その夜、俺はの家の方の窓から、の家を見ていた。
なんだか無性にに会いたくて、さっきから「出て来い!」と心の中で何度も叫んでる。
あのあと、はリオンのことを中心にいろいろと話してくれた。
学校で見ていたと、俺とTODの話をしていたときのはまるで別人で
話してみれば結構可愛くて、素直で、明るくて。一緒にいて、楽しいと思えた。
英士と一馬といる時、までとはいかないと思うけど、それに匹敵するくらい楽しかった。
今度、髪を弄らせてもらう約束もした。
思い切って、名前呼んでみよっかな。

ーっ。」

ある程度小声で、電気のついている部屋に向かって呼びかけてみた。
すると、暫くしてその部屋のカーテンと窓が開かれて、が姿を現した。

「わ、若菜君!?」

「よっ。やっぱ、部屋そこだったんだな。」

俺は屋根を伝って窓からの部屋に入った。
は俺が入ってきたのに目を丸くして驚いていた。

「なんだ、部屋きれいじゃん。」

初めて入るの部屋を見回し、ニカッと笑ってみせる。
するとは「いやー、そんなことないよー」と照れながら笑った。

「俺たちさ、互いの部屋行き来してるわけだし、お互い名前で呼ばない?」

「へっ?」

「俺はこれからって呼ぶから、は俺のこと結人って呼べよ!」

俺が人差し指を立てながら言うと、は曖昧そうに笑顔を浮かべた。

「うんー、わかったよ。でも、まさか…結人が私の部屋に来るなんて思ってなかった。」

は自分のベッドに腰掛けると、膝を抱いて俺を見つめた。
そんなの仕草に、胸が高鳴る。

「だ、だってまさか家が裏側だった、なんて思ってもいなかったし!」

「ううん、違うの。昨日まで会話もしなかった私達が今はこうやって
近くにいて、会話もして、お互い名前で呼び合って、お互いの部屋にも行き来してる。
結人と、こんなに親しくできるなんて、昨日までちっとも考えてなかったからさ。」

「俺も、それ思ったよ!まさかとこんなにまで仲良くなれるとは思ってなかった!
それに、って思ってたよりもイイやつだしな。もっと、暗い感じだと思ってたけどな」

俺が「暗い」と口にした途端、は腹を抱えて笑い出した。

「ふ、はははははは、やっぱそう見えた?
私ねー。なんか趣味が合わない人とかにはどうしても暗めに接しちゃうんだ。」

「そして名前すら覚えていない、ってな」

俺がそう言ったら、はさらに笑い出した。
俺も下校の時に「ワカメ」と言われたのを思い出して笑った。

「ワカメ、なんて言われたの初めてだった。」

「や、あれは…。何かもう恥かしいっ!!」

ギャーという奇声を発しながらは頬を隠した。
ていうか、こんなに騒いでて平気ってことはの家、今親はいないのか?

、親はいないの?」

「今日は両親とも夜中すぎるまで帰ってきませんよー。」

は手をひらひらとさせて、嬉しそうに笑った。

「結人の家は大丈夫?無断で来たんでしょ?」

「当然無断だけど、俺ん家はたぶん大丈夫だよ。」

そう言って俺はガッツポーズを作ってみせる。
するとは「そういえば結人はもうご飯食べたの?」と訊ねてきた。

「まだだけど?」

俺がそう答えると、は「ふーむ」と唸り始めた。

「じゃあ、バレないうちに帰った方がいいんじゃない?」

「そう、だな。」

俺はの部屋の窓に足をかけて再び屋根を伝って自分の部屋に戻った。
と別れるのが少し名残惜しかった。
できれば、もっと一緒にいたい、もっと話をしていたかった。
俺が無事に部屋に戻ったのを見て、は微笑んだ。

「それじゃあ、また明日ね。結人。」

「うん、それじゃあな、。」

俺はが窓とカーテンを閉めたのを確認すると、俺も窓とカーテンを閉めた。
と、同時に部屋のドアが乱暴に開かれた。

「結人!さっきから呼んでたのに!聞こえなかったの?!」

母さんだった。
うわ、に帰るよう言ってもらってすっげー助かった。ギリギリセーフじゃん。

「あ、ああ。悪ぃ、ちょっと話しててさ。」

「誰と?」

まさか、と話してたなんて言ったらまたからかわれるに決まってる。

「お、お星様。」

「あんた、熱でもあるんじゃない?」

母さんは呆れ顔で俺を見ると、「ご飯だからね」と言って部屋を出て行った。










翌朝、俺は団地の入口付近でが登校してくるのを待っていた。
なかなかこないに痺れをきらせながら、なんとか待ちつづけている。
ようやくきたのは俺がここに来てから15分後のことだった。

「あれ?結人?おはよー。」

「おはよー、じゃねえよ!散々人を待たせておいてよ!」

「え?私を待ってたの?」

そういえばそうだった。俺が勝手に待っていただけだ。
それは、早くに会いたかったから。
そんなこと、本人に言えるはずもなく、俺はなんとか誤魔化した。

「あ、その、に訊きたい事とかあったしな。」

「訊きたい事?」

はきょとんとしながら俺を見つめた。
うわー、俺のバカ!!訊きたい事なんてねえし!

「そ、その…。」

「ん?」

って、好きなやつとか、いるのか?」

って何訊いてんだよ俺。いきなりこんなこと言われたら誰だって変に思うよな。

「べつにいないよ。あ、もしかして結人、好きな人いるんでしょ?」

はそう言って楽しそうににやけた。
確かに、俺は好きなやつはいる。

「いるよ。」

「えっ!マジマジ!?誰なの?」

俺が「いる」と言ったら、俺に喰いつく勢いで迫ってきた
俺は一瞬心臓が跳ね上がった。けど、俺が好きなのは…。

「いいじゃん、そんなの。早くしないと遅刻するぜ?」

俺はしつこいくらいに訊いてくるを制して苦笑した。

「あ、そうだった!じゃあ今度教えてね!!」

「気が向いたらな。」

にっこり笑うを横目で見て、俺は再び苦笑した。
これは諦める気がなさそうだ。

「今日、体育あるねー。男子はサッカーだっけ?」

が溜息交じりで言った。
サッカー?ああ、そうか!忘れてた!

「そうだっ!サッカーだったな!!よっしゃ!」

「へー、結人ってサッカー好きなんだ?」

「ま、まあな。」

こいつ、本当に昨日俺の部屋に入ったのかよ、と思うくらいの質問だった。
俺の部屋はサッカーとゲームとヘアメイクに使う道具で溢れていた、ハズ。
ってことはやっぱ俺が選抜に選ばれた事も知らないだろうな。
そうだ、に俺のサッカーテクを見せ付けてやればいいんだ。

、今日女子の体育何?」

「私は見学だけど、持久走だよ。」

「じゃあさ、サッカーのとき俺のこと見て置けよ!絶対損はさせないぜ!」

「うーん、わかった。見るよ!」










「きゃー!若菜くぅーん!!」

体育の授業の前の休み時間、俺と数人の友達で一足早くグランドに出てサッカーを始めた。
それを見物にきた数人のクラスの女子が黄色い声を出して俺を見つめている。
俺は、その中でと、の友達の山崎の姿を見つけた。
そして、山崎と目が合う。
俺は恥ずかしくなってぱっと目をそむけた。山崎が俺のこと見てた!?
そう、俺は山崎にほのかな恋心を抱いていたのだ。
授業開始のチャイムが鳴り響き、
女子はグランドの外側へ、男子はグランドの真中へそれぞれ集まる。
見学者は朝礼台の上に座らされ、授業の様子を見学させられていた。
そこに、もいる。そのの隣に、クラスで一番美少年といわれる伊藤が座っていた。
伊藤が、何かに話し掛けてる。
も、楽しそうに伊藤の話を聞いてる。
あの顔だ。がリオンの話をしてるときのあの楽しそうな顔。
なんか、ムカツク。

「若菜ー!前っ!!」

「え?」

振り向いた直後、俺の顔面に、ボールが直撃した。
俺は顔を抑えながらしゃがみこむ。

「先生!若菜が!鼻血・・・」

「だ、大丈夫か若菜!?おい、見学者!!!お前若菜を保健室に連れて行け!
今日は保健の先生も出張でいないから手当てしてやってくれないか!」

すると、しばらくして誰かに腕を触れられる感触がした。

「結人、歩ける?」

だった。は俺の顔を覗き込んで心配そうに俺を見ている。
歩けなかったらどうなんだよ。

「…平気。」

俺はそう言って片方の手での手を払った。
しかし、も負けじと俺の手を引いて保健室へ向かう。
鼻血、ついたって知らねえぜ?

保健室への道のりが妙に長く感じる。
サッカー部でしょっちゅう怪我してるから保健室にはよく行く。
いつもなら、すぐに保健室に着く気がするのに、今は…。

「保健室、ついたよ」

が保健室のドアを開けて、まず俺を椅子に座らせた。
俺は鼻を抑えながらの行動をじっと見ていた。

「はい、ティッシュ。鼻に詰めて。」

からティッシュを受け取って、鼻に詰めた。
正直こんなところ誰にも見られたくなかったけど。

「あ、顔、泥ついてる。」

が水道でティッシュを濡らし、それを俺の顔に当てて俺の顔を拭き始めた。

「いっ、それくらい自分でできるって!」

俺はからティッシュを取り上げると、自分で顔を拭いた。

「結人、さっきから変。怖いよ?私、何かした?」

「べつに。」

不安そうな顔の
確かに、は何もしてないけど…なんか、イライラする。

「もしかして、私が山崎さんの隣にいたから?結人の好きな人って、山崎でしょ。」

「な、なんで!!」

どうしてが知ってんだよ。

「やっぱね。さっき、休み時間に見ててそう思った。
よかったね。山崎さんもね、結人のこと好きだって言ってたよ。両想いじゃん。」

マジ、かよ。
こういう時って、普通嬉しいはずだよな?
でも、俺は何で嬉しくないんだよ。
何でのことばっかり考えちゃうんだよ。

、俺、さっきからホント変だよな。」

「うん。」

きっぱりといって頷く
鼻血が止まった。俺はティッシュを取り出して丸めてごみ箱に捨てた。

「俺、山崎のことが好きなはずなのに全然嬉しくねえんだ。」

「…え?」

この気持ちって、やっぱ…アレだよな。

「俺、伊藤に嫉妬してたみてぇなんだ。」

俺が、今好きなのは

が、あいつと楽しそうに話してて」

なんだ。

「だから、の顔見るとイライラしてた」

俺のことを「ワカメ」と呼んで恥ずかしそうにしてた
好きなキャラが死んで泣いてた優しい
楽しそうにゲームの話をする
俺が窓から小声で呼んだら出てきてくれた
俺に冷たく接されて悩んでいた
どの顔もみんな忘れられないくらい俺の脳裏に焼き付いている。

、俺、のことが好きなんだ。いつのまにか好きになってたんだ。」

何て思われたって構わない。
に、勘違いされるよりは、この想いを伝えておきたかった。

「………。」

さっきからずっと黙ったまま立ち尽くしている

「な、何か言えよ。」

するとは顔を赤くしながら答える。

「あ、その。私も結人のこと、好きかもしんない。」

俺は一瞬自分の耳を疑った。
マジ、かよ。
今度は、嬉しかった。嬉しいなんてもんじゃない。
体の中から、何かがこみ上げてくる感じ。

「夢じゃ、ないよな?」

「夢じゃ、ないよ?」

が俺の頬を軽くつねる。
痛いってことは、夢じゃ、ない。

「何すんだよ、このやろっ。」

俺はお返しせんと、を保健室のベッドに押し倒す。
「きゃー」と笑いながら俺に押し倒されるがとても愛くてたまらない。
しばらく見詰め合って、互いに微笑みあう。
そして、ゆっくりと顔を落としていく。
触れ合う唇と唇。
何秒か経って、唇を離す。
すると、が目尻に涙を溜めていた。

?」

「あ、ごめんね。何か、すごく嬉しくて。」

俺はを抱き起こして、すぐさま抱きしめた。

「可愛い。」

「ゆ、結人っ。」

外から、クラスメイトの声が響いてくる。

「ごめんな、俺のカッコイイプレー、見せられなくて。」

「う、ううん。いいよ。もう、結人のカッコイイところ、少しだけど見たし。
さっき、伊藤くんと話してたんだよ。結人、サッカーしてるときが一番かっこいいねって。」

「なんだ。そうだったのか。
…よっしゃ!それじゃあ今からでもまたオレのカッコイイプレー見せてやるよ!!」

俺はを開放してベッドから降りた。
そして、の手を引く。

「で、でも大丈夫?」

「平気だぜ。それに、大好きなに早く見せたいんだ!」

「わかった。無理はしちゃダメだからねっ!!」

そう言って心配そうな表情をしたを抱きしめた後、俺はの手を引きながらグランドに向かった。



さぁ、ゲームをしようか





数日後、東京選抜の帰りに英士と一馬にを紹介して羨ましがられたことは言うまでもない。





当時は攻略サイトとか携帯とかなかったんですー。

執筆:03年11月26日
修正:11年1月6日