「過去に帰っても、お元気で」

「はいはい、骸は心配性なんだからー。私なら大丈夫だよ」

私より顔ひとつ分くらい背の高い骸に頭をくしゃくしゃと撫でられた。

「骸こそ、元気でね。それと、いい加減子ども扱いやめてくださいな」

「クフフ、昔からは僕の可愛い子供みたいなものですからね」

「十年後の私も子ども扱いしてるなんて…やめてあげてよね」

はぁ、とため息をついた後、私は骸の隣にいるフランに目を向けた。
フランは、いつもと変わらない表情でじっと私のことを見ている。
ツナたちと十年後の世界に来てしまった私は復讐者の牢獄で
骸を出所させる作戦に加わって一緒に行動をともにしたフランに恋をしてしまった。
ほんの少しの間しか一緒にいなかったけれど、彼が…フラン大好き。
だけど、白蘭を倒した今、私たちは十年前の世界に戻らなくてはいけない。
私だけこの時代に残るわけにはいかないんだ。

「フランも、元気でね」

最後だから、せめて笑顔でお別れをしよう。
そう思って、私は最高の笑顔を作ったつもりだった。
だけど、私の意思に反して流れ出る涙。

…」

「うわぁ、やだな。私って意外と泣き虫だったみたい」

とめどなく溢れてくる涙に困惑しながら、私はそれでも笑顔を作ろうと努める。
ああ、きっと私の顔ぐちゃぐちゃだぁ。
こんなみっともない顔、見られたくなくて私は俯く。
折角、笑顔でお別れしようと思ったのに、台無しだ。
それでも、フランも骸もこんな私を優しく見守ってくれていた。
そして、フランは「よしよし」と言って私の頭を優しくなでてくれる。

「ミーは、こんなに可愛いを帰したくないですー。
この時代のはミーのことをガキ扱いしかしませんでしたからー」

「そうですね、十年後のはフランを弟のように可愛がっていましたからね。」

フランと骸の言葉に私は驚愕した。
え、だって。フランってばこんなに大人っぽいのに?
何そんな羨ましいもといおこがましいことしていやがるのさ十年後の私!

「う、うっそ!私が…フランを!?だって、私は骸から子ども扱いされてるからてっきり…」

「きっと師匠がのこと子ども扱いばっかしたから、そのツケがミーに回ってきたんですよー」

師匠のせいですー。とフランが頬を膨らませた。
確かにそうかもしれないなぁ、なんて私は思う。
過去に帰れば、フランは私より小さいんだもんね。
だけど、私より小さいフランなんて…どんな感じなのかな。
きっと、毒舌だけど可愛いんだろうなー。

「あはは、私はこの時代のフランしか知らないから小さいフランなんて考えられないやー」

そう言うと、フランは「あ」と小さく声を上げた。

、涙が止まってますー」

「あれ…ほんとだ。いつの間に」

クスクスと笑えば、フランが口の端を上げて私の涙を拭ってくれた。
フランがすごく近くにいるせいで、私の心臓はドキドキいってる。
どうか、フランに私の心臓の音が聞こえませんように。
頭ではそう願っているけれど、心では…本当は幸せを感じていた。

「フラン、。そろそろ時間のようですよ」

骸の声でフランが私から離れていく。
少し残念に思いながら、私はフランを見つめていた。
だから、フランが一瞬だけ悲しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
…私が過去に帰ったら、この時代の私が戻ってくる。だから寂しくないとは思う。
だけど、私が過去に帰ることを、少しは寂しいと思ってくれてるのかな。
そうだったら、嬉しいな。

「…。過去のミーを可愛がってあげてくださいねー?」

「うん。めーいっぱい可愛がってあげるから」

「それじゃ」と言い、踵を返した。

もう、行かなきゃ皆が待ってる。

「…………。」

帰りたくない。フランと別れたくない。ずっと一緒にいたい。
どうして私はフランに恋をしてしまったのだろう。
過去に帰っても、フランはいない。どこにいるのかもわからない。会えない。
別れがこんなにも辛いなんて思わなかったし、知らなかった。
何よりも、気持ちを伝えられないのが、切ない。
そう思ったとき、突然後ろから抱きつかれて、私の足は止まった。

「愛してます」

耳元で、囁かれた。

「フラン…っ」

私も、愛してる。
そう伝えられたらどんなに楽だろう。
だけど、私はもういなくなってしまうのだ。
だから、今は――

「ありがとう。さようなら」

私、過去に戻ったらフランを探しに行こう。
そして、いつか気持ちを伝えるんだ。













どんな貴方でも愛してます。











(実はこの時代のはミーの恋人だって言ったら、どんな顔をしましたかねー)
(それはそうと、僕の前でイチャつくとは…おチビ、あとでおしおきです)
(だってー師匠、昔のも可愛すぎるんですよー)



執筆:10年8月10日