ヤバイです、ヤバイです。
私きっと今日死んでしまうかもしれない。ベル先輩の手によって。

「わ、あぁ…あ…っ」

いつものように、お茶の用意をしていた。
ベル先輩のお気に入りのティーカップを手を滑らせて割ってしまったのだ。
粉々になってしまったカップを見て、ベル先輩が「これ、超高ぇーんだぜ」と自慢していたのを思い出す。
ぺーぺーである私の給料なんかじゃとても弁償できない代物なのだろう。
まぁ、殺されずとも…何をされるかわかったもんじゃない。

「フラン先輩ー!」

怖くなって、とりあえずフラン先輩に助けを求める。
何故かわからないけれど、フラン先輩なら…なんとかしてくれるはずだって、直感した。
長い廊下を疾走して、勢いよく扉を開けてフラン先輩の部屋に飛び込む。

「フラン先輩!フラン先輩!フラン先輩ーっ!!」

「なんですかー、。もうお茶の時間ですか?」

任務が終わって帰ってきたばかりなのか、返り血を浴びた隊服を脱いだところらしいフラン先輩。
着替え中で申し訳なく思いながらも、フラン先輩に駆け寄った。

「は、はい…そうなんですけどっ、問題が起きました!」

「何があったんですかー?」

「お茶の用意してたら…ベル先輩のティーカップを割っちまいました!」

一瞬固まるフラン先輩。
空気が冷たくなるのを感じた私はもう泣くしかなかった。

「……へぇ、結構やりますねー、も」

「故意でやったわけじゃないんです!事故なんですよ!」

泣きながらフラン先輩に訴える。
しかし、フラン先輩は両腕を組んで、面倒くさそうに私を見た。

「で、ミーにどうしろというんですー?」

「私の代わりにベル先輩に殺されて下さるのが一番ありがたいんですけど…ど、どうしたらいいかなーって。接着剤で…アロンアルファなんかでくっつきますかね!?でも、アロンアロファと紅茶が化学反応起こして、それをベル先輩が飲んでしまったらそれこそヤバイですよね!?めった刺しですよね!串刺しですかね!?色んな意味で!」

「落ち着いてくださーい。言ってる意味が良くわからないですー」

明らかに変人を見るような目で私を見ている。
私はすー、はー、と深呼吸をして落ち着こうと努めた。

「な、何か解決策があるんですか!?」

期待しながらフラン先輩の言葉を待つ。
しかし、フラン先輩はふっと鼻で笑って呟いた。

「お前がおとなしくベル先輩に殺されれば何の問題もないだろ」

「ちょ、フラン先輩酷い!」

それが嫌だから相談しに来たんだっての!このキチガエル!

「ミーも先日、ボスの肉を横領したら半殺しで済みましたし…大丈夫ですよー」

ボスの肉横領とか…勇者だぜフラン先輩。
心の中で親指を立てながら、フラン先輩の伝説を心に刻んだ。
これ以上、フラン先輩に聞いたって何にもなりそうにない。
はぁ、ベル先輩に素直に謝ろうかな。

「もう、いいです。ちゃんとベル先輩に謝ってきます」

「ところで、どうしてミーに相談しに来たんですかー?オカマ先輩の方が役に立ちそうじゃないですかー」

ホント、フラン先輩の言うとおりだ。ルッス先輩のとこに行けばよかった。
何でフラン先輩のとこに来ちゃったんだろう。時間の無駄だったな。
任務のときはいつも私のことを助けてくれるから…プライベートでも、なんて無意識に思っちゃったのかも。

何だかんだ私はフラン先輩のことを信頼しているんだ。

「そんなの、私がフラン先輩を一番信頼してるからです!」

期待外れでしたけど!

「…そうなんですかー」

少し照れくさそうに私から視線を逸らす、フラン先輩。
私はフラン先輩に背を向けて部屋から出ようとしたけど、フラン先輩が私の手を掴んで引き止めた。

「…ミーもついていきますー。一緒に謝れば、受けるダメージも痛みも半減ですよ」

「フラン先輩…っ!」

やっぱり、私の直感は間違っていなかったんだ。

「フラン先輩は私にとって頼れるカッコイイ先輩です!」

「今更わかったんですかー」

「いえ、わかってたからここに来たんですよ!」

私がにこっと笑うと、フラン先輩はほんのりと頬を赤く染めた。







ありがとう、大好きな先輩











てんめー…よくも王子のカップを…!お仕置きだな)
(いえ、あの、その…じゃあ、私のカップもカチ割りますんで!)
(ガシャーン!)
((こいつ、バカだ!))


執筆:10年8月19日