「お前がか」
焔硝蔵の屋根の上からそう問われてあたしは上を仰ぎ見る。逆光で顔がよく見えないけれど、彼は鋭くこちらを睨んでいるように見えた。あの装束は忍たま四年生…あたしと同じ学年のものだ。
「はーい、そうですけどー?」
「私と手合わせを願いたい!」
そう言って彼は突如カノン砲を取り出して銃口をあたしに向けてきた。
……ええええ!? どうしてあたしがいきなり狙われなきゃならないの!
そうパニックになっている間にドーンと大きな音を立てて砲弾が発射された。それは咄嗟に避けたあたしの腕を掠め、ズキンと痛みが走る。
うわ、こいつ本当に撃ってきやがった! これは逃げなきゃ腕だけでは済まなくなる。
忍たまとはあまり関わりが無いあたしにとって、どうしても狙われる理由が思い浮かばない。いつもお世話になっている火薬委員会のみんなとしか面識は無いはずだ。しかも、その火薬委員会のみんなとは仲良くやっているはず。今日だって今から焔硝蔵の整理のお手伝いに来ただけで――それなのに、何故。
誰かに助けを求めたくても生憎まだ火薬委員たちは誰も来ていない。
ていうか、焔硝蔵の近くで発砲するなよ! 屋根の上とはいえ火気厳禁だぞ危ないなこいつバカか!? こうなったら…!
「いきなり攻撃してきたあんたがいけないんだからね!」
愛用の火縄銃、 ひな子ちゃんを懐から取り出し、構える。
敵が次の砲弾を撃ち込んでくる前に、仕留める!着火して、瞬時に狙いを定めて……よし、発射!
「うわっ……わわわ、うわあああああああ!!」
よし! あたしの ひな子ちゃんの弾が敵の足を掠めた!敵はバランスを崩して呆気なく屋根から転がり落ちてきた。ろくに受身も取れなかったのか、敵は鈍い音を立てて地面に衝突する。
「いたたた……くそ、噂通りなかなかやるな」
「……はい? 噂?」
「そうだ! この火器を扱えば忍術学園ナンバーワン! 教科も実技の成績も優秀、学園のアイドル四年ろ組会計委員田村三木ヱ門をも凌ぐ実力を持ったくノ一がいると聞いてな!」
ぴしっとポーズを決めて名乗りを上げた後、あたしを睨みつける田村くん。
ああなるほど、彼が田村三木ヱ門。自惚れ屋で火器オタクで、関わらない方がいいってくのたまの友人達が言っていた。こうして会うのは初めてだけどアイドルを自称してるだけあって、きれいな顔してる。
しかし本当に自惚れの強い人だな、恥ずかしくないのか、大丈夫かこいつ?
「この私がくノ一なんぞに劣る……そんな噂があっては私の面目が丸潰れだ! お前なんか私の手で消してやる!」
「や、殺る気満々だなオイ」
「当たり前だ! くノ一なんかに負けてたまるか! ナンバーワンはこの私だっ!」
確かにあたしは火縄銃が得意で、くのいちの中で一番火器の扱いに長けていると言われているけれど、正直そういうのはどうでもいい。
話し合いで解決できれば一番いいんだけど……残念ながら田村くんにはその気はなさそう。
そもそも田村くんは納得してくれないんだろうな。
ああ、やめて。カノン砲をこっちに向けないでよ危ないな!
「そんなこと言われても、あたしは火縄銃が好きなだけなんだよ! 別に田村くんに勝ちたいとか、そんなこと思ってないし寧ろ同じ火器を扱う者同士仲良くしてほしいくらい!」
「……仲良く、だって?」
あたしの言葉に、呆けた声を出した田村くん。
あ、あれれ? もしかして好印象?話し合いで解決できちゃいそう? よし、こうなったらもう一押しだ!
「うん、仲良くなりたい! 忍術学園ナンバーワンの実力者とお近づきになれたらとても光栄! とにかく田村くん最高!」
思いっきり田村くんを褒め称えると、彼はほんのりと頬を赤く染めながらもニヤっと笑う。
うわ、なんだその顔気持ち悪っ。
「ふっふーん! そうだろうそうだろう! 何だ、意外と話のわかる奴じゃないか! いいぞ、特別に私が友達になってあげようじゃないか」
上から目線かよ。
そうツッコミを入れたい衝動をなんとか押さえながらあたしは田村くんに微笑みかけた。
「う……うん、ありがとう。すごく嬉しい」
まぁ、そんなに悪い子じゃないのかな。ちょっと頭がおかしいだけで。火器の扱いが得意な者同志仲良くなれたらいいなっていうのは本心だし、とりあえずこの場を収めることができてよかった。
そろそろ火薬委員会のみんなも来るはずだし、これで一安心かな。
「どうだ、今から私と火器について語り合わないか!?」
「えっ」
田村くんはあたしの手を取り、ぐいぐいと引っ張って歩き出した。
いや、あの、あたしは今から焔硝蔵の整理を……。
何だかよくわからないけれど、どうやらあたしはこの田村三木ヱ門に気に入られたらしい。それはありがたいんだけど……焔硝蔵の整理が。
「あの、田村くん……」
「そうだ! ユリコの散歩も一緒に行こう!」
田村くんは瞳をキラッキラさせながらあたしの手をぎゅっと握る。
……うん、もういいよ。火薬委員会のみんなには明日謝ろう。
執筆:13年04月10日