「は可愛いなぁ、抱きしめてしまいたくなるよ」
「ねぇ、田村くん。やめてくれないかな」
田村くんにプロポーズされてから数日。あれからあたしは毎日のように田村くんから求愛されている。それは時と場所を考えないものなので、学園中に知れ渡ることとなってしまった。
はっきり言って超迷惑。殴って黙らせてもいいレベルだと思う。
でも彼だって腐っても忍者のたまご。そう簡単にはいかない。友人達は「ほら、やっぱり田村はのことが好きだったんじゃない」って勝ち誇った顔をしやがったけれど、それは違う。田村くんはあたしが好きなんじゃなくて、あたしの叔父である「照星さん」が好きなのだ。あたしと結婚すれば、彼の敬愛するあたしの叔父(不本意だけど父でもある)と家族になれると考えているだけなんだよ。そこに、あたしに対する愛はない。だから――
「はぁ、は柔らないなぁ」
「やめろっつってんだよ」
この、田村くんに抱きしめられている状況をなんとかしたいのだけど。
「断る。離したら逃げるじゃないか!」
田村くんは断固として離れようとしない。
「あのねぇ……」
あたしは拳を握り、田村くんの頬に一撃食らわせた。
メメタァ!
顔を歪ませてキレイな弧を描いて倒れる田村くん。
「ここは食堂なんだよ! 人の目もあるし、鬱陶しいし、食べづらいし、鬱陶しいんだけど!!」
「あはは、ちゃん、鬱陶しいって二回言った」
目の前の席で昼食を共にしていたタカ丸さんが笑う。おかしいよね、さっきまで田村くんはあたしの隣にいたのに、いつのまにか移動してあたしに抱きついてたんですよ。どういうことだコラ。
「鬱陶しいんですもん。そろそろいい加減にしてくれないといくら沸点の高いあたしでもブチ切れそうです」
「またまたぁ! 照れなくてもいいんだぞ、!」
驚異的な早さで復活を遂げた田村くんがあたしに抱きついてきた。
「はぁ、照れてないんだけどな……オラァ!」
何度剥がしてもすぐに抱きついてくる田村くんは不死身か。石仮面被っちゃった超人か。
くそう、それもこれも、タカ丸さんのせいだ。タカ丸さんが田村くんにおかしな助言をしたせいで、田村くんは変わってしまった。それまであたしと田村くんは普通に良好な友好関係を築いていたというのに!
田村くんの暴走対象はこれまで火器、平くん、叔父上だけだったのに、あたしまで追加されてしまった。田村くんの暴走は傍観するのが楽しかったけど、巻き込まれるとハンパなくウザい。殺意がわくくらいウザい。
ご飯を食べ終えて、ひっつく田村くんをなんとか剥がして席を立つ。
「タカ丸さん、あたしはこれから授業があるので田村くんをお願いします」
しかし、タカ丸さんは「えっと……」と困った顔であたしの隣に視線を向けていた。
「あら、奇遇! 私もこれからと一緒にくのいちの授業を受けるのよっ! というわけでタカ丸さんにお願いされても困るのよねー!」
隣にはいつの間にか女装した田村くん。声色を変えて可愛らしく「うふっ」と笑い、あたしに向かってウインクを飛ばしてきた。
な……なんだよ、田村くんの女装を初めて見たけどすごく可愛いじゃないか。あたしなんかよりずっと可愛い。
「…………」
どうしてそんな田村くんがあたしなんかに構うんだよ。あたしなんかじゃなくても、もっと他に可愛い子はいっぱいいるじゃん。お前、顔だけはいいから実はモテるんじゃないの? ねぇ?
もしあたしが「照星さんの娘」じゃなかったらどうだったんだろ。田村くんは他の女の子に恋していたのかな。あたしとは友達のままでいてくれたのかな。
「……、大丈夫か? 思いつめた顔をして……私の女装が美しすぎたか?」
「そうだね、あたしより田村くんが可愛いから女としてのプライドをズタズタにされたわ。もう再起不能だよ、今日あたしは女をやめる。だからつきまとわないで欲しいなぁ」
「なっ、何を言っているんだ!! の可愛さに比べたら私なんてカスだ! だから、そんなこと言わないでくれよ!」
あたしがジト目で田村くんを睨めば、田村くんが慌てて忍装束に着替えて首を横に振る。田村くんは本気であたしの方が可愛いと思ってるの? いやいや、鏡を見てみなよね。ああ、腹立つ!
「とにかく、いくら女装してもダメ。本当にくのいちの教室までついて来たら怒るからね?」
ドスのきいた声で忠告をすると、田村くんとタカ丸さんは息を飲んだ。
「しかし、私は片時もと離れたくないんだ……!」
それでも田村くんはぎゅっと袴を握りながらあたしに訴えてくる。
よくわからない。田村くんは叔父上の義理の息子になりたいだけなんでしょ? それくらい叔父上のことが大好きなんでしょ? だったら、あたしのところにいないで叔父上のところに行けばいいのに。ちょっと頭が足りてないのかしら? 可哀想に。
「正直言うと、食事のときはもちろん、授業中、放課後、寝るときも風呂のときも一緒にいたい!」
風呂、という単語を聞いてあたしは眉間に皺を寄せた。
そういえば昨日お風呂に入っている時、視線を感じた気がしたんだよね。くのたまの友人達がよく胸の大きさを競っているから、犯人はどうせくのたまの誰かだろうと思っていたんだけれど。
「……ねぇねぇ田村くん。あたしの裸、どうだった?」
「もちろん最高だったよ!! は着やせするタイプだったんだな! はぁはぁ、可愛いよ~! 早く抱かせておくれよ! あ、私初めてだから……優しくしてね?」
大変なことを、大勢の人がいる場所で、大声で告白した田村三木ヱ門こと変態野郎。普段にぎやかな食堂は彼の言葉ひとつでしーんと静まり返った。
「死ね! 変態! お前なんか絶交だ、二度と近寄るなこのチェリーボーイが!!!!」
あたしは怒りとも悲しみとも言えないよくわからない感情のまま叫び、食堂から逃げ出した。なんだよこの公開処刑! 田村くん、実はあたしを忍術学園から追い出したいんじゃねぇの!?
「ちょ、待ってくれ!! 今のは……うわあああああ謝るから許しておくれええええええ!! ーーーーー!!」
執筆:13年04月26日