「四年ろ組の田村三木ヱ門はアイドルだと騒いでいるくのたまがいるらしいよー」

友人と食堂で朝食をとっていたら、そんな話が耳に入ってきた。
それまで友人との会話に花を咲かせていた私だったけれど、
そんな話が耳に飛び込んできたものだから気になってしまった。
友人の憧れである立花仙蔵先輩の武勇伝の話はそっちのけで、
噂をしている後ろの忍たまたちの話に耳を傾けた。

「そんな…!本当にそんなくのたまがいるのですか、タカ丸さん!
三木ヱ門がアイドルだというのは、本人が自惚れで言っていただけではないのですか!?
というか、名前の聞き間違えでは?この平滝夜叉丸がアイドルと言っていたのでは?」

「そういえば私も、昨日穴掘りをしていたら三木ヱ門の話をしているくのたまの声が聞こえてきた気がする」

あ、すいませんそれ私のことじゃね?
というのも、私は密かに田村くんのファンをしていた。
確かに彼は自意識過剰の自惚れ屋ではあるけれど、本当に実力だってあるし、見た目だって悪くない。
私は彼のことをアイドルだと思う。いや、彼こそが本当に忍術学園のアイドルだ。
五年生、六年生の先輩も確かにみんなかっこいいけど、田村くん程じゃないね。
なんてったって彼は真面目に仕事をこなしている時はすっごくかっこいいんだから。
石火矢にだらしなくデレデレしている時のギャップもまたステキ。
ああー、田村くん最高。ずっと見ていたいくらい。
しかし、本人の前では恥ずかしくて騒げないし、ファンです!とも言えるわけがない。
ただ田村くんを見かけたら逐一友人に報告してキャッキャするだけに留めているだけで…。

「そ、そのくのたまの名前は…?」

私のすぐ後ろで、聞き慣れた大好きな彼の声がした。
たたたたたたた田村くん!?いつのまにいたの!?
私は動揺のあまり持っていたひじきの小鉢を落とした。

「ほんと立花先輩ってばかっこいい…って、何してんの。ちゃんとわたしの話聞いてた?」

うるせー黙れ今それどころじゃないんだよこの立花厨。
だって今私の背後にはアイドルが…アイドルがいらっしゃるのだよ!
ああああああああど、どうしよう。落ち着かなければ!落ち着くってどうすればいいんだっけか!
ていうか、名前ですって…!?私のこと探る気ですか田村くんやめてえええええええ!!

「さぁ…噂に聞いただけだし、ぼくは髪結いはしてあげるけれど
くのたまにちゃんとした知り合いはいないから…わからないなぁ」

「私も三木ヱ門なんかをアイドルだと言う奴がいるなどと今初めて知ったぞ!」

どうやら私のことは知られていないようだ。本当にただの噂で終わりそうだ。ふぅ、危ない危ない。
目の前の友人は今私の背後で起こっていることを察したのか、ニヤリと笑っている。
お前、言うんじゃないぞ!しゃしゃり出るんじゃないぞ!
言ったら殺すからな!逃げても地の果てまで追っかけてやる。

「今三木ヱ門の後ろにいる子だよ、ねぇさん」

飄々としながら私を指差す、穴掘り小僧。名前を綾部喜八郎といったかなぁ。
何て余計な事をしてくれたんだ貴様。
そして私のすぐ後ろでガタンと大きな音が聞こえた。
きっと田村くんがこっちを見てるんだ。いや、そんな、やめてください。
振り返るのが、とても怖い。

「君が…私をアイドルと言ってくれているのか…?」

ぽんと私の肩に置かれる田村くんの手に、私はビクリと反応した。
田村くんが、あの超アイドル田村くんが私に触れてる!!
そして、私に話しかけてくださっている…!!!

「あっ、あの!!なんと申しましょうか、その…
ウワアアアやめてくださいそんなステキな瞳で私なんかを見つめないでください!!
好きです!いつもカッコイイと思って見てましただから触らないでくださいいいいいいいいい!!」

私は混乱した。
田村くんが田村くんが田村くんが田村くんが!!!
とにかく田村くんから離れて土下座をする。

落ち着け!何気にお前告白しちゃってることに気づけ!」

「はっ…!ご、ごめんなさい!好きっていうのは田村くんがアイドルだからで、
別に田村くんとどうこうしたいとかそんなつもりは一切ないというか、
そう考える事自体おこがましいと言うか!!やましい気持ちはございません!お許しを!」

正直、あわよくば恋仲になれたらなんて考えちゃった事もあるけれど秘密にしておこう。
ああ、田村くんその困惑した表情もステキです!

「そ、そうか…」

田村くんの顔がほんのりと赤いのは気のせいだろうか。
とにかく必死に弁解する私を見て、周りはドン引きだ。

「…よかったね、三木ヱ門」

綾部くんが口角を上げた。
その隣で田村くんが嬉しそうに表情を緩ませていて、私は胸の辺りがきゅんとするのを感じた。
胸に手を当てながら田村君を見つめていると、田村くんが私の手を取り、私を見つめ返してきた。

「本当に、私をアイドルと思ってくれてた子がいたなんて…!」

どどどっどどうしよう!田村くんの熱い眼差しに焼き殺されてしまいそう!

「そんな…田村くんはカッコよくて優秀で顔もよくて本当にアイドルですよ!自信を持ってください!
私は田村くんを応援してます!これからもずっと…!」

お互いに見つめあいながら瞳をキラッキラさせる私たち。
そして友人が一言。

「あー…お前らもう結婚しちゃえよ」

そして外野と化していた平くんが怪訝そうに私に尋ねてきた。

「そもそも、三木ヱ門のどこがアイドルだというのだ!私の方が美しい!教科はもちろん実技の成績も…ぐだぐだ」

「滝夜叉丸くんのことは置いといて、ぼくも気になるなー」

ぐだぐだと自分の話をし始めた平を遮り、タカ丸さんがへにょっと笑った。
思い返せば…田村くんとの出会いはドラマチックだった。

「私、以前忍たまとくのたまの合同演習で綾部くんと組んだ事があるんです」

学園長の思いつきで、裏裏山の山菜を多く採って来た者が高く評価されるという内容で、
くじ引きの結果私と綾部くんが組む事になった。
だけど綾部くんは穴を掘ってばかりで、山菜なんて興味なし。
それに耐えかねた私は一人で山菜を採っているとまさかの崖からの転落。
綾部くんは穴掘りに夢中だし、途方にくれていたら通りかかった田村くんが助けてくれた。
それから、私は彼のことを意識して見てきた。
いつも彼は輝いていて、アイドルってこの人のことを言うんだなって思った。

そう熱弁したら、何故か田村くん以外の全員がにやにやとしていた。
いつの間にか私の話を聞いていた平くんが若干呆れたように口を開き

「…それは、つまり」

「恋、だよね」

タカ丸さんが続いてにこーっと笑う。
こ、恋ですって…?私が、田村くんに!?
というか、田村くんご本人を目の前にしてそんなこと言わないでよあんたら!
いや、私先ほど勢いで告白とかしちゃってたけどね!?

「いや、これは恋じゃなくただの憧れで…!」

「いやいや、恋でしょ」

友人が怪訝そうな目で私を見てくる。
え…え、えええええええこの気持ちは、恋だったの!?

「で、三木ヱ門はさんのことをどう思ってるの?」

綾部くんが田村くんに問いかけた。
ストップストップストーップ!!
なんでこんなことになった!どうしてこうなった!
いいよ、田村くんの答えなんて聞かないでもわかるよ!だって私たちあれ依頼一度も話したことないんだよ!

「じ…実は私は、合同演習前からのことは知ってたんだ。
くのたまのくせに火器の扱いが上手いと評判だったからこっそり見に行った事があって…そのときに、一目ぼれを…」

「え」

「だから、合同演習でと組めた喜八郎が羨ましかったんだよ。なのに喜八郎は穴掘りばかりしてるから」

「ちょ」

「しかし今こうして私をアイドルと思ってくれてる子がいると、しかもそれがと知って私は…私は!!」

「あの」

!」

「は、はいぃ!?」

突然名前を呼ばれ、私は反射的にぴんと背筋を伸ばした。
すると、次の瞬間田村くんの身体が私を包み込む。
あ、あれ…これって、抱きしめられている…?

「好きだ、私と恋仲になってほしい!」

そして、私はアイドルに告白された。






アイドルと恋仲の関係へ









(あ、アイドルと両想いになれるだなんて!!)
(片想いの子と両想いになれるだなんて!!)





執筆:13年3月25日