隣人が接近なう
休み時間、前の授業だった数学の疲れを癒すためにポッキーを口に咥えながらスマホを弄っていると隣の席からため息が聞こえてきた。
「、ツイッターばっかやってないで勉強したらどうだ」
田村三木ヱ門。こいつは成績優秀でスポーツもできちゃうし可愛い顔をしてるから一見モテ男だけど一部挙動がクソだから女子たちから相手にされない残念な奴だ。というか、田村自身あまり女子に興味がないように思える。普段自分でモテるとか言ってるけど、マジで口だけなんだよな。つまり、ただの自分大好きナルシストである。
「んー、仕方ないよ私ツイ廃だから。ツイッターないと生きていけない」
「そんなだからお前はバカなんだ。さっきの数学だって落書きしかしてなかったじゃないか」
なんだよ。自分だって授業中にサバゲーの掲示板ばっか覗いてるくせにさ。私は知っているんだからね。
「……隣の席の人が説教してきた、マジうぜぇなう」
ツイートボタンをぽちっと送信完了。ちなみに私は鍵垢なので今の言葉を検索されたところで見つかりはしない。
「なうとかもう死語だろ」
「死語じゃないよ、そんなこと誰が決めるんですか。使ってる人がいればその言葉はまだ死んでない、生きてるんですー」
「まったく、人が折角心配してやっているというのに」
やれやれと肩を竦める田村。
てゆーか、何で田村に心配されなきゃならなないんだ。なんか下に見られてるようで気分悪いな。
「へぇ、心配してくれてたの? そりゃどーも! サバゲーの事しか頭にないのに成績優秀な人は羨ましいですね! 人の心配する程余裕たっぷりか!」
悪態をついて頬を膨らます。すると田村はそんな私を見て大きなため息をついた。
「本当にサバゲーの事だけを考えられたら苦労はないのだがな」
へぇ、田村がサバゲー以外にも興味がある、と? それはちょっと気になる。恋愛についてとか言い出したら笑えるんだけど。
「何、田村でも悩みがあるの?」
ニヤニヤしながら田村の顔を覗けば、田村は顔を真っ赤にして首を横に振る。
「お前だけには絶対に言わない!」
「あっそ」
まぁ、田村だしね。そこまで拒否られればこちらもそこまで踏み込んでいこうとは思わない。
すっかり田村への興味を無くした私は再びスマホに意識を移せば、田村は不思議そうに目を丸くする。
「え、聞きたくないのか?」
「言いたくないならいいし。別にそこまで興味ないわ」
「……はぁ」
恨めしそうに私を睨む田村よ……お前は聞いて欲しくないのか聞いて欲しいのか、どっちなんだよ。
これ以上関わるのが面倒になった私はスマホのホームボタンを押して席を立った。しかし、田村の次の言葉によって私の歩みは止まる。
「のことが好きだと言ったら、は私に興味を持つか?」
振り返って田村の顔を見ることができない。どんな顔して、そんな事を言ったのだろう。
「――嘘でしょ」
「本当か嘘か、私に興味を持てばわかるんじゃないか?」
何言ってんだこいつ、と思って振り返って睨んでやろうと思ったのに――田村の顔は真っ赤で、それはそれはわかりやすい反応であった。
執筆:20年10月16日
※途中まで13年くらいに書いてたもの