魔法とか召喚とか異世界とか…本当にあるものだと思ってた。
だけどそれは小さい頃の話。
年をとるにつれて、現実を見るようになっていった。

だから、今は召喚とか異世界とかって、ゲームや漫画でしかないと思ってる。

でも、ときどき思う。

私も、そういう『異世界』に行ってみたい。
『魔法』使ってみたい。美少年を『召喚』したい…ってね。
いわゆる現実逃避。それでも、憧れてる私。
そんなの無理だってわかってるけど、憧れを持つのは大事なことだと私は思う。











「チョコチップのメロンパンって邪道じゃない?」

「…そ、そう?」

「そうなんですー。勇人のバカ。メロンパンの「メ」の字もわかってない!」

「ていうか…メロンパンなんかあんまり食べないもん、俺。」

私、はいつもどおり、とても気の合う親友である新堂勇人と談笑をしながら下校していた。
高校生活が始まって、もうすぐ2年が経つ。
高校に入学して、私と勇人はクラスが一緒になって、互いに話をしてみたら素晴らしく気が合うではないか。
勇人とはそれからの付き合い。
恋人未満、友達以上…とりあえず今は親友って感じだ。
宿泊研修も、文化祭実行委員も、ずっと行動を共にしている。
周りの人からは「付き合ってるんじゃないか」という声もあるけど、私と勇人は否定し続けてきた。
私も勇人も、お互いをそんな目で見たことも無い。
例え私と勇人が恋人になったとしても今の生活とはあんまり変わらないかもしれない。
だから、今のままでいい。少なくとも、私はそう思っていた。
きっと、勇人もそう思ってると思う。

「しょうがないなー。最近移動メロンパン屋がこの近くに来てるから奢ってあげるよ。
そこのメロンパンがまたおいしくてさー!勇人もきっとはまっちゃうよ?」

鞄の中から財布を取り出し、にっと笑って見せる。
すると勇人はいかにも嬉しいという表情で「マジでっ!?」と微笑んだ。

「いやー、悪いね。この埋め合わせは、またいつか。」

「おう。楽しみにしてるよ。」











公園の外にある移動メロンパン屋でメロンパンをいくつか購入し、
私は勇人の待っている公園の噴水の前まで走る。
ああ、メロンパンって大好きだよ。
あの甘さ、匂い、形、網目模様…どれをとっても大好き。
メロンパンも好きだけど、私は勇人の笑顔も大好きだ。
なんだか、一緒にいるだけで癒される。
うん。勇人って、癒し系だ。本人は全然自覚してないみたいだけど。
彼の所属しているバスケ部でも勇人は結構人気もあるし、女子にも結構モテる。
改めてそう考えると、勇人と私って、不釣合いなのかも。
私、勇人の親友でいいのかな。迷惑じゃないのかな?
でも、勇人はゲーマーだし、すっごく話しやすくて話も合うし。
私のことをこんなにも理解してくれるのは勇人だけ。
だから、もしも隼人に彼女なんてできちゃったら、私はきっと立ち直れないかもしれない。

私がある程度勇人に近づくと、勇人は私に気づいて「おっ、買ってきたか」と笑った。
私も反射的に微笑み、メロンパンを紙袋からひとつ取り出して勇人に手渡した。

早速、勇人はメロンパンを頬張った。
そして、にぱぁと笑顔になる。

「うわー、おいしいじゃん、このメロンパン!」

「当然!この巷でも有名なメロンパンマニアの様がオススメするんだもん!!」

「そういえば学校でそんな呼び名があったね。」

勇人は苦笑しながらメロンパンを再び頬張った。
頬張るたびに笑顔になる勇人を見ていて、嬉しさがこみ上げてくる。
やっぱり、自分が勧めたものを喜んでくれるなんてすごく嬉しいものなんだね。

私も、メロンパン食べようっと。
そのためにこんなに買ってきたんだもんね。
あ、このメロンパンの数を見せたら勇人、驚くかな。
私はニヤリと笑いながら、勇人にメロンパンの入った紙袋を見せてみた。

「見てよコレ!メロンパン買い溜めしちゃった。」

「うっわ!何そのおぞましい数のメロンパンは!!一人で食べるのかよ!?」

メロンパンの数は15個。
勇人は目を見開きながら食べていたメロンパンを落としかけた。
予想通りの反応。勇人ってわかりやすいなぁ。

「保存用にね。夜のおやつとか明日の朝とかに食べようかと思って。」

「尋常じゃないな。」

勇人は怪訝そうに私を見つめる。
しかし、私は気にせずに紙袋から一つメロンパンを取り出して頬張った。

「んー。やっぱおいしいなぁv大好きだーっ!!」

私たちは、しばらく黙りながらメロンパンを食べていた。

今日もまた、いつもどおり。
いつもどおり二人は、二人の時間を過ごしてから家に帰る。

これからもずっと…こうしていられるのかな。
この幸せな時間が続いてくれるのかな。
そう思っていた矢先だった。

『た…けて…』

不意に、誰かの声が聞こえた気がした。
辺りを見回してみるけど、この公園には私と勇人以外誰もいない。
何て言ってたのかはわからない。空耳だろうか?
勇人は私の様子に気づくと、眉を顰めた。
そして、怪訝そうに私に問いかける。

にも聞こえたのか?」

「え?」

にも」ということは勇人にも聞こえたのか。
ということはやっぱり空耳じゃない?

『助けてくれ…このままじゃ…』

「「え?!」」

声がはっきり聞こえて、同時に声を上げた瞬間、目の前が真っ白になった。


















何も見えない。
一体何がどうなってるの?
勇人は何処?

次の瞬間、明るくなったのを感じてゆっくりと目を開けると、見た事のない景色が広がった。
さっきまでいた公園とは明らかに違う景色。
まるで外国の映画でありそうなどこまでも続く荒廃した岩場。
そして、目の前には人が。
知らないオトコノコだ。

…ん?
どうしてこの人は浮いて見えるのかな。

ていうか、私が浮いてんじゃんっ!
目の前の少年は、綺麗な藍色の目を見開きながら私を見つめる。

そんな場合じゃないでしょう少年!!
避けなきゃ私、君の綺麗なお顔の上にズッシンよ!

「あぶなっ…!」

私がそう言いかけたけど、時は既に遅し。
私は難なく落下した…と思ったけど、少年は意外にも私をしっかりと受け止めてくれた。

あ…ぎゃあああ!!!
お、お姫様抱っこってヤツだよこれ!!
ど、ど、ど…どうしよう!見知らぬ少年にー!!
恥ずかしさMAXえ死にそうだ!

「き、君は…?」

少年が私を抱えながら問いかけてきた。
いや、まずは自分から名を名乗れよ、なぁんて心の中で訴えてみる。
とにかく落ち着こう。落ち着いて答えよう。

「私はメロンパンマニアなですが何か?」

第一印象って大事だよね。
うん、落ち着けなかった。見事に頭が混乱しています私。
自分でも何を言ったのかよくわからなかった。。
やはり少年は頭上に「?」を浮かべている。

「は…はぁ。」

本当に申し訳ありませんでした。
しかし、この少年ずいぶん無表情だなぁ。愛想とかなさそう。学級委員タイプだね、こりゃ。
やっぱ、こういうタイプの人って少し苦手かも。

「た、助けてくれてありがとう。で、君は?」

少年は一瞬眉を顰めたが、すぐに無表情になった。

「…キール。」

「そっか、ありがとね。キール。おかげで痛い思いしなくて済んだよ。
でも、いい加減重たいでしょ?重たいよね!!」

「いや、君は軽いから平気さ。」

キールはそう言ってゆっくりと私を降ろしてくれた。

うわ、不意打ちではありませんか?コレ。
年頃の女の子がそれを言ったら99.9%ときめいちゃうんじゃない?

ていうかここ何処?
そう思って周りをよく見渡せば、死体の数々。

「………うっ。」

私は眉間に皺を寄せて、その場に膝をついた。


メロンパンから始まる物語


(一体何がどうなってんのさ)


執筆:04年7月5日