| ありえない事が起こりました。 キールの話によると、どうやら私は異世界「リィンバウム」というところに召喚されたらしい。 しかも、私は召喚の儀式の失敗による事故で召喚されたのだという。 さらに、キールはその儀式の生き残りなのだそうだ。 じゃあ、キールを恨むのかといわれたら答えはNO。 何故か恨む気にはなれなかった。 というか、まだこれをリアルに起こっている事だと認識していない。 もしかしたら夢なんじゃないかって、疑っているんだ。 こんなのありえない。 そう思って自分で自分の頬を抓ってみる。 …痛ぇ。 どうやら夢じゃない。 こんな漫画チックなことがあっていいのか。 いや、個人的には長年夢見ていた魔法やらなんやらなんだけど、 私はこれからどうやって生きていけと? ゲームも漫画もない、そしてメロンパンもあるのかわからないこの世界で。 今は嬉しさより、不安の方が大きかった。 一番ん強く思うこと、それは「帰りたい」。 …でも、やっぱりちょっとこの世界を遊んで回ってみたいかな。 折角来たんだから、楽しまなきゃ損かな。 ポジティブに考えよう。うん。 今、私はビクつきながらキールと一緒に街を目指して歩いている。 道中、死体ばかり転がっていて、いっぱい目を背けた。 この死体の数々は、召喚の儀式に失敗した召喚師たちの死体なのだそうだ。 キールは平然としながら歩いてるけど…私には無理。 ていうか、どうしてキールはこんなに平然としていられるか不思議だ。 だって、死体だよ?しかも一人だけじゃなく、複数だよ? 私は泣きそうな顔で死体を踏まないように必死だ。 何にせよ、もうこんなところ歩きたくは無かった。 「キール…、もう嫌だよぉ!!」 「もうすぐ街だから、我慢してくれるかい?」 キールは優しく私の手を取ると、離れないようにがっしりと握る。 すると、何故だか、不思議と少しだけ恐怖心が和らいだのを感じた。 すごいや、なんだかキールの手は魔法の手みたい。 私もそれに応えて、がっしりと握り返す。 ねぇ、何気に汗が滲んでるよ、キール。 やっぱり、キールも平気ってわけじゃないんだよね。 やっとの思いで街に辿り着くことができた私たち。 ここは本当に異世界なんだなと改めて思わされた。 古風な家の作り、遠くに聳え立っているお城。 コンビニもスーパーも何も見当たらない。 道を行く人々の服装は、漫画やゲームなんかに出てくるようなものばかり。 言うならば、民族の服のようなものだろうか。 実は少しだけ「本当は日本だよね?そうだよね?」って期待してたんだけどな。 とにかく、もしも私一人だけだったら絶対に街まで辿り着くことなんてできなかった。 ごめん、キール。冷静に考えれば私、すっごくキールに迷惑かけまくってたわ。 泣いたり、ゴネったり、手を引いてもらったりと。 私はそっとキールの顔色を伺った。 やっぱりキールは無表情で、むっつりしている。 む、最初に出会った頃の勇人にちょっと似てるかも。 勇人、か。今頃どうしてるかな。 私と同じく、この世界召喚されたのかな? それとも、勇人は召喚されなかったのかな? もし、そうだったら私のこと、探してくれてるかな? 「勇人はどうなったんだろう。勇人もこっちに来てるのかな…。」 「ハヤト?」 私が小声でボヤいたのがキールに聞こえたらしく、キールは怪訝そうに私を見た。 な、何でそんな顔で見るの。 もしかして、何か勘違いしてる? 勇人は危ないヤツじゃないよ。 「勇人は、私の親友だよ。私が召喚されるときに一緒にいたはずなんだけど…。」 「そうか。」 キールは興味なさそうに返事を返すと、スタスタと足早に前へ歩いていってしまった。 私は慌ててキールを追いかける。 「あーもう、待ってよ!これからどうするの?」 とりあえず、これからのことを話し合うために、落ち着ける場所に移動することになった。 やっぱり私の服装が珍しいのか、すれ違う度に人々は私を物珍しそうに見てくる。 「ねぇ、キール。私ってそんなに魅力的?」 「は?」 「だって、人々の視線は私に釘付けなんだもん。」 「気のせいじゃないのか。それよりも着いたよ、ここで話そう。」 どうやら、キールには冗談が全く通じないらしい。 キールは冗談を流された私を置いて、一人さっさとお店の中へと入っていってしまった。 お、女の子を放っておいて自分はさっさと行っちゃうなんて。 紳士じゃないなぁ、キールは。 「キールって、ホント無愛想。」 私もお店の中に入ると、無愛想なキールがムスっとしながら私を睨んでいた。 「遅いじゃないか。」 キールはそう吐き捨てると、踵を返してさっさと席についてしまった。 何だかな。 こういう態度を取られるってコトは、嫌われてるのかな。 よくわからない。 だけど、私が今頼れるのはキールだけなんだ。 仕方ないから一緒にいるだけ。 とりあえず、腹の中でキールの悪口を延々と呟きながらキールの隣の席に着いた。 キールははぁ、とダルそうにため息をつき、私を見た。 …ヤなカンジ〜。 「僕は君を元の世界に帰す方法を探す。その間、君は僕と行動を共にしてもらいたい。 いろいろと厄介ごとに巻き込まれては、こっちが困るからね。」 「それは、私はこれからずっと…帰る方法が見つかるまでキールと一緒に生活しろっていうことなの!?」 何かの果物のジュースを啜っていた私は、キールの発言に思わず大声を上げてしまった。 キールは迷惑そうな顔をすると、「そういうことだね。」と言った。 えぇ、待ってよ。 ていうことは、私… キールと一緒にお出かけして キールと一緒にご飯食べて キールと一緒に寝て キールと一緒にお風呂に入…ってそれは流石にないだろうけど 年頃の男女二人がそんなことしていいと思っているのか!? 「他に何か質問はあるかい?」 「き、キールは彼女いないの!?」 「…そういうことじゃなくて。」 「はい!好きな人はいないの?」 「…だから。」 「キールの好みの女性…」 「いい加減にしてくれ!僕のことはどうだっていいんだ!!」 キールは忌々しそうに私を怒鳴りつけた。 一瞬だけシーンと静まり返る店内。 私はぐっと唇を噛んだ。 ほんと、私とキールって性格が合わないみたい。 やっぱり、キールにとって私は迷惑なのかもしれない。 私は事故でこの世界に来ちゃったんだもん。 キールが、喚びたくて喚んだわけじゃないんだよね。 「ごめん。」 私は小さな声でキールに謝る。 今の私にはこれしかできないんだ。 せめて…せめてキールに迷惑が掛からないようにしなくちゃ。 人間関係って難しい。 勇人だったら、いつも私の冗談に付き合ってくれるし、冗談も言い返してくれる。 …会いたい。会いたいよ、勇人。 「あ…。」 キールは困ったように私を見た。 …と、その時。 見覚えのある人物が私の視界に、一瞬だけチラリと。 私は慌てて立ち上がり、キールの驚く声を背中で受け止めて走った。 今はキールに構ってる暇はないんだ。 ゴメン、キール。 なんというタイミングなのだろう。 これはもう運命としか言いようが無いのではなかろうか。 お店から出て、私は彼の名を呼ぶ。 今、一番会いたかった彼の名を… 「勇人っ!!」 私が叫ぶと同時に、一筋の風が舞う。 その風が私の声を届けてくれたみたいに 勇人は立ち止まり、こっちを向く。そして、呟いた。 「…?」 勇人は一緒にいた少女と少年から離れ、こちらに向かって走ってきた。 そして、私に駆け寄るとすぐに私の手を取る。 「っ!」 「は…やと…ッ!」 私は勇人と一緒に地べたに座り込んだ。 不意に、知らない世界で会いたかった人と再会できた嬉しさと、 今更ながら知らない世界へ飛ばされてしまった恐怖感で涙が滲んだ。 それに気づいたのか、勇人はそっと私を抱き寄せる。 最初は驚いて体を離そうとしたけど、されるがままに勇人に身を委ねた。 「ずっと、心配してたんだ…ずっと、会いたかったんだぜ…?」 「わ、私だって。」 「、知り合いなのか?」 「「ハヤト、知り合い(か)?」」 周りから、疑問の声が重なるのが聞こえた。 勇人との再会の嬉しさに、ここが公衆の面前だということを忘れていた。 私の後ろにはキールが。 勇人の後ろには私たちと年の近い少年と少女が立っていた。 私と勇人は慌てて立ち上がり、お互いの連れに説明を始めた。 お互いの事情を知った私たちは、いろいろと話し合った末、 キールと私も、勇人がお世話になっているという「フラット」に厄介になることになった。 昔は孤児院だったというこの大きな家に、それぞれ部屋が割り当てられて、 私は危うく勇人と同室にされそうになったところをリプレに助けられて一人部屋になった。 そして、キールと勇人が同室になったのだ。 リプレは、ここのお母さん的存在で、子供たちの世話をしながら家事をしているすごい子。 ちなみに、ここの子供たちはみんな孤児らしい。 ガゼルっていうなんだかリーダー格のヤツや、すごく優しい巨漢のエドスさん、 そして、以前騎士団長を勤めていたという優しいレイドさんも、私たちを快く歓迎してくれた。 私が勇人と一緒にみんなとの交流を深めている中、 キールは相変わらずむっつりしながら持参の本を読んでいた。 フラットの全員と話し終えた後、私は勇人の部屋で勇人と談笑した。 「もう、元の世界に戻れないのかな。メロンパン、食べれないのかな? 漫画も読めないのかな?アニメは?ゲームは?私の萌えはどうなるのっ!?」 「そっちかよ。」 勇人は「もっと真面目に考えようぜ」と苦笑いをした。 何やら波乱万丈な生活の始まりな予感。 迷子の高校生 (こんな…萌えのなさそうな世界で生きていけるわけない!) 補足。勇人と一緒にいた少年少女はガゼルとリプレです。 二人はハヤトに街を案内していました。 執筆:04年7月5日 修正:04年7月25日 |