私が窓から引っ張りあげ、広間に連れてきたソルを見てキールたちは驚愕の声を上げた。

「そ、ソル!何で君がここに!?」

そしてキールが額に冷や汗をかきながら、ソルに吠えるように言う。
するとソルは、ため息混じりに答え始めた。

「何でって…いろいろと説明しなきゃならないことがあるから、な。
そう、例えばそこの茶髪のお前のこと、とかな。」

ソルはハヤトを指し、ニヤリと笑う。
指ざしされたハヤトは「俺?」と言って眉を顰めた。
今、この場にいる全員がハヤトとソルを静かに見守る。

「お前は…俺が手違いで召喚したんだ。
本当だったら昨日、大穴にいたお前を保護しようと思ったんだけど
お前が凄い勢いで走っていくから追いつけなくて。」

ソルの話が見えない。つか、わけわかんない。
そう言えば、ハヤトはどうやってこの街に来てガゼルたちと出会ったんだろう。
まだ、ハヤトと私の事情、話し合っていなかったんだよね。
いろいろと、ありすぎたんだよ。

「あのさ、どういうこと?」

「今まで僕がハヤトも召喚してしまったのかと思っていたけど、変だとは思っていたんだ。
一気に二人も召喚なんてされるはずはない。
つまり、ハヤトは別の召喚師によって召喚されたんだ。そう、そこにいるソルによって。」

キールは大真面目な顔で淡々と語った。
ハヤトは、怪訝そうにソルをまじまじと見つめている。

「君が…俺をねぇ…。」

ハヤトの視線に、ソルは頭を掻きながら苦笑した。

「しかし、何でお前なんだソル!あの儀式は…。」

「確かにキール兄貴が任された。けど、あのあと俺も…兄貴が心配で…。」

「そう、か…。」

キールとソルは周りにいる私たちがまるで視界にないかのように話す。
いや、普通に私たちにはわからないんですけど。
それはまるで二人の世界。うん、二人の美少年の…などと思っていたら、ハヤトがジト目でこっちを見ていた。
私は慌ててニヤけた顔を戻そうと必死に努める。

、また変なこと妄想してるな?」

「気のせいじゃない?」

私はハヤトから目をそらし、口笛を吹く。しかしハヤトは怪訝そうに私を睨んでいた。
と、私を助けてくれるかのごとく、横からリプレが苦笑交じりに提案した。

「あ、あのさ。とりあえずみんなにわかるようにお互い最初から整理しようよ!
ハヤトもも昨日は疲れて寝ちゃったみたいだから、状況を理解してないみたいだし、ね?」










ハヤトの事情を聞いた私は、とにかく自分は幸せだったことに気づいた。
ハヤトがこの世界に呼ばれたとき、あの死体だらけの荒野に一人ぼっちだったのだそうだ。
さらに、必死にこの街に逃げてきたらまずガゼルとエドスさんに脅迫されて。
それに比べて私は…怯えまくってキールにくっついて。
だけど、ハヤトは一人で…。
私は、キールが傍にいてくれて本当によかったと思う。
あの場所に自分ひとりだったら、きっと何もできずにあそこにいたままだ。。
でも、そう考えたらハヤトはとても強い。なんだか、ハヤトが羨ましい。

「ハヤト、苦労したんだね。さぞかし辛かったことでしょう。」

は死体だらけの荒野の中でキールと出会って「美少年ー!」って喜んでたんだろ。
そこがらしいというか、なんというか…とにかくとことん腐ってるよな。」

流石腐女子、と鼻で笑うハヤトに、私は幾分怒りを覚える。

「だまらっしゃい。その時は流石にそんなこと思う余裕は無かったし。
こんな私でも、いろいろ悩んだり怖がったりしたもん。」

本当に、怖かったんだ。あの死体だらけの荒野が。
あんな大量の、しかも無残な死体なんて見たこともなかった。
あの時は、歩くのが精一杯だった。
私はキールに同意を求めるように視線を送る。
キールはそれに気づいてくれたのか、コホンと軽く咳払いをした。

「確かにあの時のは震えていたし、とても怯えていたね。
で、ハヤト。ガゼルたちに脅迫されて君はどうしたんだい?」

キールの質問に、ハヤトは苦笑いを浮かべた。
ガゼルは傍らで居心地が悪そうに目を泳がせている。

「お金、渡したんだけどこの世界のお金と俺たちの世界のお金、違うだろ?
それで、半殺しにされそうになって、もうダメだと思ったら急に体が光って。」

ハヤトの説明を黙って聞いていたソルが、口を開く。

「それなんだけどさ、あれは召喚術だ。俺、見たんだ。間違いない。」

「召喚術?ハヤトがか!?」

キールは目を見開き、ハヤトを凝視した。
ハヤトは黙りこくって、ただ回りの反応を見ているだけだった。

「ああ、あれは召喚術だった。俺もこの目でしっかりと見たからな。」

ガゼルも頷く。
まさか、ハヤトにそんなことができただなんて。

「召喚術…。」

私は小さくつぶやき、ハヤトに続けるよう促す。
ハヤトは閉じた目をゆっくりと開いて説明を再開した。

「其の後、俺はレイドさんに助けられて、ここに連れてきてもらったんだ。
事情を説明したらここにおいてもらえる事になって。
買い物がてら、リプレとガゼルに街を案内してもらっていたらの声が聞こえて…あとは知っての通りだよ。」

「そうか、ソルはハヤトのストーカーで、ガゼルは盗賊だったのか。
ソル、早いうちにそういう犯罪趣味はなくした方がいいと思うよ。」

ストーカーと覗き…ソルってば完璧犯罪行為走ってる。

「俺は別に好きでやってるんじゃねぇよ!!」

ソルは真っ赤になりながら私に怒鳴った。
キールが「まぁまぁ」とソルをなだめ、落ち着かせる。

「それと、ソルのことなんだが…ここに置いてくれないだろうか?
とりあえずソルも召喚師の見習いではあるし、何かの役に立つと思うんだ。
それに、ハヤトを召喚したのはこのソルだしね。」

キールは申し訳なさそうに言った。
ソルもキールの隣で眉をひそめながらリプレとガゼルを見る。

「は!?何言ってやが…」
「いいわよ。これだけ人数がいれば一人くらい増えても変わらないわ。ねぇ?いいわよね、ガ〜ゼ〜ル〜?」

「…はい。」

半ば強引なリプレのおかげで、ソルもこのフラットに住むことになった。
やっぱりリプレはすごい。ガゼル、ヘコみすぎ。

「フフフ、また美少年が一人。」

「だから危ないことを考えるのはやめろって、。あー、ほら!目があっちの世界に向いてるよオイ!!!」

ハヤトは私の肩を揺すり、「戻って来〜い」と大声で叫んだ。

窓の外は既に暗くなっていて、微かに星が見えた。











眠れない。
なんだか、事態も複雑になってきた。
私たちは、元の世界に帰ることができるのかな?
少なくとも、すぐには帰れないんだろうけど。
私は体を起こし、鞄からメロンパンを取り出して屋根の上へ向かった。

そこには先客がいて、その人は私と目が合うとニッと笑った。

じゃん。どうしたんだよ。しかもまたメロンパン持ってるし…。」

「ふ。お月見しながらのメロンパンは格別よ?ハヤトこそどうしたの?やっぱ眠れない?」

ハヤトの隣に腰を下ろし、メロンパンを半分に割って片方をハヤトに手渡す。
月の光に照らされて、ハヤトが嬉しそうに受け取る様子がはっきりとわかった。

「なんだか、月が大きいから気になってさ。ほら。」

ハヤトは目の前にある大きな月を指差した。
それはホントに大きくて、私たちの世界から見える月はこの10分の1くらい。

「あ、ホントだ!でっかい月!」

「だろ?」

ハヤトはメロンパンを頬張りながら微笑む。

「そういえばこの世界に来て、ハヤトと二人きりで話すの初めてだね。」

「昨日、今日といろいろとあったもんな。
それにしても、こんな漫画みたいなことがホントにあるなんて思っても見なかった。」

この異世界リィンバウムに召喚されて、キールと出会い、死体まみれの荒野を歩いて。
街中ではハヤトと再会して。街を回って、バノっぴーに目をつけられ、
キールと仲良くなれて、ハヤトに勘違いされて、ソルに覗きされて。
確かに、2日だけでいろいろなことがあった。こんなに慌しい事、今までにあっただろうか?

「いいじゃん。不謹慎かもしれないけどね、私はこの世界に召喚されてよかったと思う。」

「は!?」

「確かに、この世界にはゲームも漫画もメロンパンもない。
だけどね、その代わりにこの世界には私たちの世界にはないものがいっぱいある。」

「召喚術、とか?」

「ま、それもそうなんだけどね。現実的な萌えというヤツよ。
あっちの世界では漫画やゲームのキャラに萌えることしかできなかったけど
何故だかこの世界だと現実でも萌えることができるのよ!!」

「そうやってある意味前向きなが凄く羨ましいよ、俺は。」

「ははは。でも、やっぱり早く帰りたいって思いもあるんだ。矛盾してるよね、私。」

「いいじゃんか。矛盾したって。それが、の考えなんだから仕方ないさ。」

「意味、わかるようでわかんないよ。」

「とにかく、矛盾したっていいだろってこと。」

わけがわからない。だけど、いいたいことはなんとなくわかってる。
私はそんな優しいハヤトに寄り添った。一瞬、ハヤトの体が硬直したのがわかった。

「ありがとう。それと、さっきの…キールとのことなんだけど。」

「わかってるよ、そんな関係じゃないってことくらい。
昨日までキールと仲良くなかったから、仲良くしようとしたんだろ?よかったじゃん、仲良くなれたみたいでさ。」

「流石だね、伊達に私の親友やってないね。」

の考えることくらいわかるよ。単純だから。」

「うるさいなー。一言余計なんだよハヤトのバカ!!」

私とハヤトは暫し大きな月の下で無言のまま寄り添い合っていた。
まるでお互いの不安を取り除くかのように。
なんだか気恥ずかしくて、必死に話題を探す。
そして、ハヤトに言おうと思っていて忘れていた話題をひとつ、思い出す。

「そういえばハヤト、この前エミちゃんに告白されてたよね。」

からかってやろう。
そう思って私は小さく笑って見せた。

「なっ…え、見てたのか!!?」

ハヤトは予想していた通りに慌てだし、急いで私から身を引く。

「えぇ、もう一部始終バッチリと?」

「うあああ!この覗き魔!やっぱただの変態じゃなかったな!」

「酷い言われよう」と私は肩を落とす。
ハヤトは「知ってたけどね」とクスクス笑った。

「でも…吃驚しちゃった。だって、校庭の裏庭で二人が抱き合ってたんだもん。」

「や、あれは日比野がいきなり…。」

「コレ本音。あの時は怖かった。ハヤトが取られちゃうんじゃないかって。
エミちゃんには悪いけど、ハヤトがエミちゃんをフッてくれてよかったと思った。」

「…へっ!?」

私、ハヤトをからかおうとしてたのに、何でこんなこと話してるんだろう。
でも、何故か言わずにいられなかった。
もしかしたら、知っておいてほしかったから、なのかもしれない。

「だって、ハヤトは私の一番の親友だもん。
もしも二人が付き合ったら、この関係も崩れちゃうんじゃないかって怖くて。
彼女ができたらハヤトだって絶対彼女優先になっちゃうじゃん。」

中学時代にそういうことが一度あったから。
そう、仲良くしていた男子に彼女ができて、
いつもどおりその男子と仲良くしていたはずなのに、どことなく避けられていって。
最後には「彼女が、彼女が」と。そして関係は絶たれたから。
べつにあの時は悔しくも悲しくもなんともなくて、ただ平然と受け入れられた。
だけど、ハヤトは違う。ハヤトはとても気が合いすぎて。
あのときの二の舞になってしまうと考えたら苦しくて、怖くて、悲しくて。

「ハヤトが、私の目の前からいなくなっちゃうんじゃないかって…っ!」

気づけば目からぼろぼろと涙が流れ出ていて。
何で泣いてるんだろう。こんなの、子供みたいな我侭だ。馬鹿馬鹿しい。
やっぱり訂正しようと口を開くが、ハヤトが私を抱きしめる方が早かった。
いきなりの事に、私は体を強張らせる。

「ハヤト?」

「俺は、もしも彼女ができたとしてもの前からいなくならないさ。
だって、俺たちこんなに気が合うんだぜ?寧ろ俺はのこと…。」

月の光が、ハヤトの切なげな表情を照らし出す。
しばらく、沈黙が続く。
もしかしてこの展開なんて思ってみる。
そしたら胸がドキドキしてきた。
え、何でこんなにドキドキするんだろう。
まさかね。だって、ハヤトは親友じゃないか。
ハヤトは開いたままだった口を閉じ、困ったように微笑んだ。

「…アホらしい。もう寝よ寝よ。」

ハヤトは突然その場に立ち上がり、踵を返した。

「ああっ!酷いやハヤト!!言ってよ、続き気になる!」

も風邪引かないうちに早く寝ろよ?」

ハヤトは足早に家の中に入ってしまった。

「逃げる気!?教えてよーー!!」

私の叫びは虚しく、闇夜の中に溶け込んだ。













彼の事情















「(いいや、また明日聞き出そう。拷問してでも。)」

屋根の上に一人になった私は月を見上げて、しばらく感傷に浸っていた。
この世界は、私たちのいた世界とは違う。
そんな世界で、これから私たちはどうやって生きていくんだろう。










今回はハヤトメインってことで。

執筆:04年7月25日?
修正:04年8月20日