「……っ!!」

突然の衝動に、私は目を覚ました。
自分の体に何かあったというわけじゃない。精神的に、だ。
夢を見た。何の夢かはよく覚えていない。でも、何か重要なことだったと思う。
思い出そうと頑張ってみるけど、全く思い出せない。
汗が、衣服にべっとりとくっついて気持ちが悪かった。

「(ま、放っておけば其のうち乾くよね)」

年頃の娘がこんなんでいいのかはさておき、まずは額に滲んでいた汗を拭う。
顔は洗ってきた方が良さそうだ。そう思い、私は寝巻き姿のままで部屋を出た。

「おはよう、。」

「お、ソルじゃん。おはよう。」

部屋を出ると、ちょうどそこにはソルがいて。
ソルはもう着替えを済まして、片手には本を携えていた。
この本は確かキールとハヤトの部屋で…ああ、きっとキールから本を借りたんだな。
ソルは、空いている部屋があまりにも汚いということで、昨日はガゼルの部屋で寝ていた。
本来ならばキールとハヤトと同室になるところだったのを、ソル曰く
「キール兄貴とハヤトはデキてる」らしいので、あえて別の部屋にしてもらったのだそうだ。
私はこのソルの発言に興奮せずにはいられなかった。腐女子として。

「まだ寝巻きか。とっとと着替えたらどうだ?」

ソルの其の言葉は、日本にいる私の肝っ玉母上を思い出させた。
そういえば、休日にはいつも夜更かしして遅く起きてくる私にそんなこと言われてたっけ。

「うるさいなー。私の親みたいなこと言わないでよー。」

「お前がだらしないからだろ。」

ソルは「早寝早起きは健康にいいんだぞ」とジジ臭いことを言う。
美少年のくせにそんなこと言うのかと思わず笑ってしまった。

「それはそうと…其の本、キールから借りてきたのよね?今?」

「いや、この本は昨日借りて、ついさっき読み終えたから。今返しに行くんだ。」

早寝早起きの割にはそんな分厚い本いつ読んだんだとツッコみたくなってしまう。
でも、今はそれよりもキールとハヤトの関係が如何なるものかが知りたかったのでツッコまないでいた。

「私も一緒に行っていい?」

一緒に行って、二人がどこまでいったのか知りたい。
なんていうか、こう…同性愛(ホモネタ)には目がないこの乙女の気持ちは抑えられないのだ。

「構わないけど。」

ソルは「なんか二人に用事でもあるのか?」と質問するが、私は黙ったまま嬉々とソルの隣を歩いた。




















ハヤトとキールの部屋のドアを音を立てずにゆっくりと開いて、
ソルはまるでスパイをするかのように中を覗き込んだ。

「すげぇ…。」

「ちょっと、何が凄いの?ていうか、やっぱ覗きが趣味だったんだ。」

この犯罪者め、と私はソルに軽蔑の眼差しを向ける。

「違ぇよ!ほら、お前も覗いてみろよ。」

私はソルに後頭部を押されて無理やり中を覗かされた。
そして、私の目に映ったのは…。

「すげぇ…。」

思わず感嘆の声が漏れてしまう。

「だろ?」

ソルはハァ、と呆れたようにため息をついた。
このドアの奥で、ハヤトとキールは寄り添いながら同じベッドで眠っていたのだ。
しかも、互いの手が互いの腰元に絡み付いてるあたり、激しく萌え。

「そっか!二人はそういう関係だったのね!ハヤトってば。
昨日あのあと部屋に帰ってくるなり嫌がるキールを押し倒して…!?」

「キャー!!」と黄色い声を上げる私に、ソルが拳を落とす。
いきなりのソルの攻撃に、じりじりと痛み出した頭をさすりながら反撃した。

「なにすんの!痛いじゃん!」

「兄貴達が起きるだろ!だいたい何で同性愛で喜ぶんだよお前は。」

「腐女子だから。何さ。ソルだって「すげぇ…」って喜んでたじゃん!」

「お、お前と一緒にするな!!よ、喜んだんじゃなくて驚いたんだよ!!」

真っ赤になって否定するあたり、どうやら図星のようで。
そうかそうか。ソルもそっちの道を行く我が同志だったか。
美少年のくせしてBLがいけるクチとは!

「ソル…私は今までハヤトだけが私の気持ちをわかってくれると思ってた。」

両手をソルの両肩に置き、私はソルを見つめた。

「な、何言って…」

「私ね、ソルのこと…」

「俺、のこと…?って、待て!!こ、こんなところでっ!!」
「今日からBL仲間と認めるからね。」

親指をおっ立てて肩を組む。
ソルは真っ赤になりながら「違うって言ってるだろーーー!!」と暴れだした。
そして私に剛腕ラリアットを放ってきたが、間一髪のところで避けた。

「なんだ、違うのか。残念だなー。」

「そんな変態な趣味、持ってないよ。」

「変態って…自分だって覗きとストーカーで変態なくせに何を言うか!」

ソルは微笑みながら額に青筋を浮かべ、私の身体を後ろから拘束した。
そして、軽々と私を担ぎ上げる。

「ぎゃーーー!!ちょい待ちーっ!この体制はーっ!!」

彼は何の躊躇いもなくバックドロップを決めようとしてる!!
ていうか、さっきからプロレス危険技ばかり使ってくるのは何故なのか。
でも、今度こそ避けられない!

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛〜〜っっ!!!」

「何やってんだよソル!!」

ギリギリのところでソルの動きが制される。
私はソルに担ぎ上げられたまま。傍から見れば人攫いだ。

「部屋の前で暴れてると思ったら…何してるんだよ!」

いつの間にか起きたのか。部屋から出てきたハヤトが吼える。

「ソル…覗きとストーカーだけでは飽き足らず誘拐まで…!?」

ハヤトの後ろでキールはおいおいと泣き始めた。
それを落ち着かせるようにハヤトはキールを落ち着かせようと言葉をかける。

「あ…ち、違っ」

ソルが必死に否定するが、キールはそれどころではない。
ハヤトもキールを泣き止ませるのに必死だ。
なんだか、キールとハヤト、すごく仲良さげ?もしかしたら本当に…。
だとしたらここは二人の邪魔をしたらいけない!!

「ソル!ここは一先ずこのまま広間へゴッ!」

「へっ!?」

ソルは突然のことに、目を丸くする。

「早く!!ワトソン君!」

「わ、わかった…(ワトソン君?)」

ソルは私を担ぎ直して広間まで走ってくれた。
キールとハヤトはそれに気づく様子もなく、二人の世界に入っているようだった。
ハヤトとキールはデキてるんだ!













広間に着き、今更ではあるけど自分の視線がおかしいのに気づく。
そして、腰上にある何かの感触と、妙な浮遊感が。
これって…ソルは私を自分の肩に担いで…?
確かこのようなシュチェエーションは、キールと出逢ったときもあったっけ。
あの時はお姫様抱っこだったけど。

「そ、ソル!もういいから降ろして?重たいでしょ?」

「は?全然軽いじゃん。、ちゃんと飯食べてるか?」

「っ!!」

この兄弟は恥ってものを持っていないのか。
恥ずかしいことをさらりと言ってのけてしまう。
私はソルを足蹴りして、飛び降りる。ソルは痛苦しそうに呻き、その場に崩れた。

「で。ばっちり見たよね?ソルも。」

「な…何を?ていうか俺が苦しそうなのは無視かよ。」

「私とソルを無視してハヤトとキールは二人の世界に入ってたのを、だよ。
ソルの言うとおり、ハヤトとキールはデキてたんだよ。あぁ、ステキー。」

息を荒くしながら悦る私を怪訝そうに見、ソルはため息をついた。

「そ、そりゃ…俺は二人がデキてると思うけどさ。
でも、さっきのはキール兄貴が一方的に泣いていて、ハヤトが慌てて慰めてたように見えたけど?」

「それは気のせいだよ、ワトソン君。」

「さっきからワトソン君って誰だよ。俺はソルだ。」

ホームズとワトソンといったら名探偵で有名でしょう!
あ、そっか。ここは異世界だからそんなのないんだったね。








犯罪者と腐女子







とにかく、私の萌えは今臨界点に達していた。
美少年同士のBLだもん!とても素晴らしい!
でも、其れと同時にどこかショックだと感じた自分がいた。





ソルといちゃつこうとしましたが失敗しました;

執筆:04年8月21日
修正:04年8月25日