日本。それが私の住んでいる国。
気候はリィンバウムと少し似ているけれど、夏なんかは全く違う。
この世界は地球温暖化っていうのがあるから、
リィンバウムとは比べ物にならないくらいに暑い。
とにかく、暑い。
アフリカや南半球の方に比べたら、まだマシなんだけれどね。






そんなこの世界に、キールはやってきた。






かれこれ1年くらい前か。
私はキールに召喚されて、リィンバウムに迷い込んだ。
そこで、ガゼルを始めとしたフラットの人、
そしてアキュートの人たちと一緒に魔王を倒して、そして帰ってきたんだ。
自ら望んだ、送還術の力によって。

本当は、帰りたくなかった。離れたくなかった。
私は、キールが好きだったから。初めて、心の底から好きになった人だから。
キールと離れるのは嫌だったけれど、私の世界はここなんだ。
だから、私は戻ってきた。
別れ際に、キールと約束を交わして。
「また会おうね」って約束を、交わして。

そんな約束、守れるはずないって諦めてたのに、キールは来てくれたんだ。
私に会いに、たった一人でこの世界に。










部屋でのんびりと扇風機に当たりながら項垂れている私。
あー、1年前のリィンバウムが懐かしい。
あの頃はよかった。涼しかったし。
今の一人暮らしの生活とは違って、みんな一緒だったし
モナティやラミは可愛かったし、アルバやフィズたちは喧しくて。
ガゼルとリプレはいつも喧嘩してて、レイドさんとラムダさんとイリアスさんは優しくて。
ソルとカシスはお節介で、クラレットはいつも笑ってて。
そして、キールはいつも私の傍にいてくれて。

でも、もうみんなと会えない。

もう一度、リィンバウムに行きたい。
みんなに会いたいし、この暑さは耐えられないもん。

と、そんなことを思っていると、突然扇風機がガタガタと揺れだした。

「は!?何コレ?壊れた!?待ってよ!今壊れると私、真面目に困るからっ!!」

神様、私に窓から入ってくる生暖かな風だけで我慢しろと言いたいのですか。
勘弁してよ!まだ新品なのにー!!!
扇風機は激しさを増すと共に、今度は煙が立ち上がった。

「神様のバカーーーーァ!!!」

私は扇風機から離れて、窓から空を見上げた。
神様は私を見捨てたんだ!!
Oh, my God!!















扇風機が逝ってしまったのか、部屋が煙に包まれた。
何も見えない。
ああ、火事になっていないことだけを願うよ。

煙がだんだんと晴れてくる。
どうやら火は出ていないみたい。
その代わりに、何かの影が。

かい?」

その影は確かに私の名前を呼んだ。
人!?
ていうか、この、声は…。
煙が晴れ、私は目を疑った。
だって、だって!目の前には1年前に別れたはずの!
リィンバウムにいるはずのキールが、今!ここに!座ってこっちを見てるんだもん!

キールは私と目が合うと、ゆっくりと微笑んだ。

「キール!?」

「会いたか…」
「暑くないの?その格好。」

私はキールの服装を見て、眉を顰めながらキールに訊ねた。
だって、キールはいつもの長くて白いギザギザマントに、紺の長袖・長ズボン。
見ているだけで私まで暑くなってきた。

、」
「ちょっと待って!これ以上近寄んないで!素で死ぬわ私。」

両手を広げて今まさに私に抱きつこうとしていたキールを制す。
するとキールは悲しそうな顔で私を見た。

「感動の再会なのに、どうして君に近寄ってはいけないんだい?」

「こんな暑い中抱きつかないでよ!余計暑くなるよ!
それ以前にそんな服装でいるあなたが信じられないっ!」

私はなるべくキールを見ないように努める。
でも、確かにキールの言うとおり、感動の再会なのだから抱きつきたい。
ていうか、もうこれでは感動も何もないのだけど。

「いやだっ!僕は決めたんだ…もう、君を離さないって!
1年も待たせてしまってすまない。でも、これからはずっと一緒だ!」

キールは目を逸らしていた私に抱きつくと、頬擦りをしてきた。
白いギザギザマントが、キールの体温が、とても暑い。むしろ熱い。

「キール!やめてっ!暑いってば!」

「もう…離さないから。」

キールはさらにキツく私を抱きしめる。
いや、「離さないから」じゃなくて離せよ。
暑くて熱くて、頭がぼーっとなってきた。
おかしいよ、キール。
何でキールは暑さを感じないの、だ?

「………ぅ。」

「…?」

「…………。」

ーっ!!?」



















あーあ、せっかくキールと再会できたのに、暑さのせいで、全部台無し。
キールもキールだよ。
私が気絶するまで抱きしめえるなんて。
キールが私を好きなのは嬉しいけれどね。

あ、なんだかおでこが気持ちいい。
何だろう?

「…ん?」

「目覚めたかい?。」

目をあければ目の前にはドアップなキールの切なげな顔。
しかも、上だけ服を着ていなくて。
私の顔は一瞬にして真っ赤になったと思う。
何気にたくましい胸板。

「き、キール!!?」
「騒いだらだめだ。安静にしてなくちゃ。」

私は慌てて起き上がる、が、キールに肩を押されて再び寝かされた。
気づけばソファーの上に寝かされていて。おでこには濡れたタオルが置かれていて。
ああ、キールが介抱してくれたんだ。・・・ありがとう、キール。
・・・なぁんて言葉にするの恥ずかしく、心の中でそっと呟いた。
キールはそっと私の頬に手を当てる。
そして、じっと私を見つめていた。
なんだか見つめられているのが恥ずかしい。
ついには耐えられなくなって、私は目を瞑った。

「ははは、やっぱりは変わっていないな。」

キールはクスクスと笑う。

「キールも、意地悪なところは変わってないっ」

私はキールから目を背け、頬を膨らませた。
すると、キールは「すまない」と言って私の額にキスを落とす。
久々、だなぁ・・・。
キールの声も、キスも、意地悪も・・・そのしぐさも。
夢だと思ってた、あの楽しかった日々を証明してくれる。
いや、寧ろこれが夢だったりしちゃって。

「ねぇ、キール。夢じゃないよね。」

「夢なら、痛くないはずだよ」

キールはそう言って自分の頬を抓る。
そして、痛そうに涙を浮かべて「夢じゃないよ」と微笑んだ。

「ちょ・・・!・・・キールってばホンっト優しい」

私は起き上がって、キールに抱きついた。
・・・けど、やっぱり暑くてすぐに離れた。

「・・・やっぱり暑いかい?」

「キールは暑くないの?」

「・・・多少は暑いけれど・・・君のためなら・・・我慢できる。」

「我慢しなくて良いから。」

私はキールを小突く。
・・・しょうがないっ!今度クーラーを買おうっと。
誰かさんが扇風機を壊してくれたし。

これからは、大切な家族も一人増えるしね。





とりあえず、それまでは少しでも暑さを凌がなきゃ。




「ねぇ、キール。アイス食べようか」

「アイス?」

「こっちの世界の食べ物の一つ。冷たくて美味しいからさ。」

私は急いで冷凍庫からアイスを取り出した。
もちろん、スプーンも忘れずに。

「ねぇ、キール」

私はキールにアイスを手渡しながら呟いた。

「どうしたんだい?」

「これからは、ずっと一緒だよね」

するとキールは笑顔で答えてくれた。







Let's stay together











その答えは当然――




執筆:04年7月23日