いつの間にか雨が降っていた。
庭には所々に水溜りができて、それは次第に大きくなってゆく。
雨の振る音を部屋の中で聞きながらベッドに寝そべっていた
朦朧とする意識をはっきりさせるように起き上がった。

「(自分は何時から寝ていたのだろうか)」

徐々に今までのコトを思い出したはふと部屋の片隅にある時計を見た。

「(そういえば3時からネスティと何か約束をしていたっけか。)」

記憶をたどり、今までのコトをフルに思い出す。
昨日の夜、ネスティと3時に一緒に買いだしに行こうという約束をしたのだ。
自分が快くOKを出したのをはっきりと覚えている。
今の時間は6時。ネスティとの約束の時間はとっくに過ぎている。
はさあっと顔を青くし、急いでベッドから飛び降りる。
ネスティが怒ると怖いことを知っているは半べそ状態で待ち合わせた場所に急ぐ。
待ち合わせた場所に、ネスティがいるかどうかはわからなかったが。
雨が降っていることなんて関係ない。
今はとにかく待ち合わせた場所に急ぐのが先決だった。









「やっぱりいないし…。」

待ち合わせた場所、導きの庭園に着き誰もいないのを確認したはがっくりと肩を落とした。
3時間も遅刻したのだから、説教は免れないだろうと悟る。

「(ネスティに長い長ーい説教をされるな。)」

説教されている自分の姿を思い浮かべた。
そしたらずんと気分が沈んだ。
冷たい雨がを濡らす。其の雨が涙と混ざって地に落ちていく。
今はため息しか出なかった。

「(謝れば罪も軽くなるかもしれないし、今すぐ謝りに行こう。)」

踵を返し、高級住宅街にあるギブソンとミモザのお屋敷に向かう。
足取りが重かった。

ネスティとマグナは家がなく、だからといって蒼の派閥に寝泊りするわけにも行かず。
先輩であるギブソンとミモザの家に居候していた。
レルムの村に住んでいたロッカとリューグ、そしてアメルも同様。
彼らは村を焼かれ、帰る場所がなく居候している。
フォルテとカイナは旅人故に家は持っていないので居候している。
だけどは一般住宅街に家族と家がある。
幼馴染のネスティたちと旅を同行はしているが、
聖王都ゼラムに帰ってきた際にはほとんど自宅で過ごしていた。






「あら!どうしたの!?びしょ濡れじゃない!」

玄関から出てきたミモザに言われては、はっとする。
そういえば傘を持っていなくてそのまま急いで出てきたんだったか、と。
羞恥心で思わず赤くなってしまう。
それでも、頭の中はネスティに謝ることでいっぱいだった。

「ええと。それよりもネスティはいますか?」

の問い掛けにミモザが曖昧にに答える。

「いるけれど…。」

「ありがとうございます。」

は自分が濡れているのにもお構いナシに家へと上がった。
ミモザは慌てて風呂に向かう様に勧めるがは聞かない。
と、そこへネスティが自分に割り当てられた部屋から出てきた。
目が合って、一瞬にして空気が重くなるのをミモザは感じた。

…。」

ネスティが驚きながら小さく呟く。
はすぐさまネスティの傍へとより、頭を下げた。

「ごめんなさい!激しく寝坊しちゃったのです!!」

いきなり謝られたのに驚くが、ネスティは慌てての頭を上げさせた。

「ビショ濡れじゃないか!何やってるんだ君は!」

口癖の「君はバカか」と怒鳴りながらネスティはを抱きかかえる。
そしてミモザに向かって「風呂をお借りします」と一言言って風呂場に向かった。

「ね、ネスティ!私自分で歩ける!」

「君は何をするにも遅いだろう!それに床も濡れてしまう!」

を一喝したネスティを見て、ミモザはクス、と笑う。
そして一言「二人とも仲のいい兄妹みたいね」と呟いた。

一方脱衣所で抱きかかえていたを降ろしたネスティは

「早く入って来い。服はミモザ先輩に言って何とかしてもらうから。」

と言ってそそくさと脱衣所から出て行った。
一人脱衣所に残されたはきょとんとネスティが出て行った方向を見ていた。

「説教、されなかった。」

説教をされなかったことにホッと胸をなでおろして服を脱ぎ始めた。






風呂から上がったは鼻歌を歌いながらネスティの部屋へ向かう。
せっかく来たのだから少しだけネスティと話でもしようと思ったのだ。
途中、マグナとすれ違って軽く挨拶をした。
するとマグナはにこにこ笑いながら「風邪ひくなよ」と声をかけた。
心配して掛けてくれたマグナの言葉には微笑みながら頷いた。

ネスティの部屋の前で、一旦立ち止まる。

「(やっぱりよく考えてみたら今から説教される可能性もあるってことだよね。)」

再び気持ちが沈み、思わず大きなため息をつきたくなる。
しかし今後のことを考えるといつかは説教されるのだから、という結論に辿り着いた。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて部屋のドアをノックする。
すると部屋の中から「鍵は開いている」と一言返ってきた。ネスティだ。

、だけど…。入るね。」

カチャ、とゆっくりドアを開ける。
ドアの隙間から少しだけ見えたネスティはやはり顰め面をしていた。
そのままドアを閉めてしまいたくなるが、ぐっと我慢して部屋に進入する。

「あの、今日はごめん。寝ちゃってて…行けなかった。」

ネスティは無言のままムスっとしている。

「それで、急いで導きの庭園に向かったんだけどネスティ、やっぱりいなくて。」

「それで雨の中傘もささずにここに来て謝りに来たというわけか」

「ごめんなさい!!!」

ネスティの言葉に反応し、再び頭を下げる。
ネスティはそんなの前に立って、しばらく黙った。
そして、優しくを抱きしめると、の頭の上でそっと呟いた。

「僕は約束を破ったことよりもが傘もささないでここに来たことを怒っているんだ。」

「風邪を引かれたら困るだろう」とネスティ。
その言葉にの表情が一気に明るくなった。

「ネスティ。」

「買い物なんて僕一人で行ける。荷物持ちならマグナにやらせるし。
ただ、に話したいことがあったんだ。話なんて、今ここでもできるだろう?」

ネスティは愛しげにの頭を撫でながら耳元で呟いた。

「いつまでも一緒にいよう。」





contradiction







はネスティの説教が大嫌い。
しかしはネスティが大好きだ。


執筆:04年9月26日