久しぶりに家に帰ると、事件が起きていた。
帰って玄関を上がり、颯爽と現れたお父様に連行された。
何が何だかわからない状況でお父様の書斎に入れられ、そして事情説明が始まった。
「突然だが、ウィンドル国王子がご宿泊することになった。」
そのお父様の真剣な表情に、背筋が凍った。
ウィンドルの王子が何故この家に来る?わけがわからない。
あたしは帰省用の大きな荷物を片手にしながらお父様を睨んだ。
「どういうこと、ですか。」
「セルディク大公殿が、いずれウィンドルの未来を担う王子にもっと世界を知って頂きたいと仰られてな。」
「何故我が家に。」
「外交にはこういうことも付きものだ。」
答えになってないです。
心の中で呟き、ありえない現実から目を逸らした。
今日の夕飯は何だろう。メイド長とも相談しなきゃな。ウフフフフ。
いや、待てよ。
あたしの今回の帰省休みは今日を入れて2日間。
明日の夕方に軍にある自分の部屋に戻ればあたしは関係ないんじゃない?
あたしはニヤリと笑い、お父様に訊ねた。
「それで、王子様はいつ来られるのですか?」
最早他人事。
そう思っていたあたしがバカでした。
「今、客間にいらっしゃるのだ。今日明日とお前はわたしの娘として過ごすのだ。
幸いお前とリチャード殿下は歳が近い。きっと話も弾むだろう。」
えええええ。
ちょ、あの。突然すぎやしませんか。
折角の休日、家で羽を伸ばそうと言う計画は見事に砕け散った。
代わりに貴族の娘という本来の立場で他国の王子と接しなくてはならないとか…ありえない。
「殿下は客間でお待ちだ。着替えて殿下の話し相手になって差し上げなさい。」
お父様の満面の笑み。
「断るのなら、わかっているだろうな?」という心の声が聞こえた気がした。
うん、きっと軍を無理矢理にでも辞めさせられるのだろうね。
これはもう逃げられないなぁと思い、あたしは肩を落とした。
急いでドレスアップし、客間へと入る。
扉の先には綺麗なブロンドの髪を揺らして微笑んでいる美青年がソファーに腰掛けていた。
この人が、ウィンドルの王子、リチャード殿下…。
すごく綺麗な人だ。女であるあたしよりずっと綺麗だ。
「初めまして、リチャード殿下。私ダヴィドの娘の・パラディでございます。
本日は遠いところよりようこそお越しになりました。ごゆっくりとお寛ぎ下さい。」
まずは挨拶をして、入室する。
「ありがとう、。僕の相手なんかさせてしまってすまないね。」
リチャード殿下は申し訳なさそうに俯いた。
あたしは慌てて首を横に振る。
「いいえ、滅相もございません。私のような者でも殿下の退屈しのぎになれれば幸いです。
しかし、殿下はお偉いです。世界の事をもっと知るために他国へ足を運ぶのですから…。」
世の中にはいろんな人がいるんだなとのん気に考えていた。
リチャード殿下は目を閉じ、ボソリと何かを呟いた。
「実を言うと、それは僕の意思じゃないんだ。伯父が…。」
「え…?」
何て言ったのか聞き取れなくて、聞き返す。
しかしリチャード殿下は笑顔を作って首を振った。
「いや、何でもないよ。それより、こそバロニアに留学していたと聞いたのだけど。
バロニアは君から見てどうだったかな。何か得るものはあったかい?」
優しく微笑んでくださるリチャード殿下。
ああっ!そういえば、そんな設定でしたよね。
抜き打ちでそんなことを聞いてくるとは…殿下もなかなかやりよる。
そんなの、本当はバロニアに行った事すらないのだからわかるわけないじゃないか。
でも、とりあえず答えておかないと変に思われてしまう。
それだけは回避しなくてはならない!
「え…っ…あ、大翠緑石を間近で見てとても感動しました。
ストラタの大煇石は一般公開されていないので実際に見たことは無くて…。」
とりあえず思いついたのが、ウィンドルの大煇石のことだった。
しかし、あまりにもつまらない答えだったのかリチャード殿下は更に訊いてくる。
「他には…?」
思いつかなかった。
リチャード殿下の表情も曇っていく。
「………。」
「君は何か隠し事をしているね?」
終わった。
これからあたしはどうしたらいいんだ。
「あの、このことは誰にも言わないで下さい。」
とりあえず、口止めすることにした。
今唯一できる事といえばコレしかなかった。
リチャード殿下はしばらく何かを考え込むと、にこりと微笑む。
「ふふっ、それじゃ、これは二人の秘密だね。」
「そう、ですね…。」
とりあえず、大丈夫…なのだろうか。
あたしはじとーっとリチャード殿下を凝視した。
「安心して。僕は誰にも言う気はない。良ければ、どうして君が
バロニアに留学している事になっているのか理由を教えてもらいたいな。」
「…それは。」
やっぱり、何でこんなことしてるのか気になりますよねー。
あたしが逆の立場だったら絶対聞くよ、うん。
ここまで来て話さないわけにもいかない。ましてや、相手は一国の王子様だ。
逆らえるわけが無い。
「わ、私は…貴族の娘という立場を隠しながら軍に所属しているんです。
軍に入る事が小さい頃からの夢だったので…どうしても夢を叶えたかったのです。」
ああもう、どうにでもなれ!
笑いたかったら笑えばいいさ!
「そうか。だからパラディ家の娘は遠い地であるバロニアに留学しているということにしているんだね。」
リチャード殿下は笑わなかった。
真剣に、あたしの話を聞いて理解してくれていた。
あたしはバカにされるだろうと思っていたから、驚いた。
でも、なんだかそれが嬉しくて、安心してしまったのだ。
「はい。大変ですけど、この道を選んでよかったと思っています。大切な友達もできましたので…。」
つい、どうでもいいことまで話してしまった。
ああ、やばいと思いながらリチャード殿下に視線を向ければ、
リチャード殿下は柔らかな笑みを浮かべていた。
「友達、か。」
おっ、なんか、食いついて下さったご様子?
「は、はい。不器用な人なんですよ。本当はとてもいい子なのに、素直になれない子なんです。」
何故ヒューバートのことを話してしまったんだろう。
リチャード殿下にとってはどうでもいいはずだ。
「僕も是非会ってみたいよ。」
リチャード殿下の言葉が、嬉しかった。
いつか本当に実現できたらいいなって、ふと思った。
「あ、はい!機会がありましたら是非。彼、ウィンドル出身なのでとても驚くと思います。」
ウィンドル出身と聞き、リチャード殿下の表情が変わった。
なんだか、とても生き生きとした表情になったような気がした。
「そうだったのか。実は、僕の友達の弟もストラタに行ってしまってね。」
「ご友人の弟さんが、ですか?」
ウィンドルから、兄のいる男の子がストラタに?
もしかして、それって…ヒューバートのこと?
胸を高鳴らせながら、リチャード殿下の次の言葉を待つ。
「気の弱い子だったから、僕も心配してるんだ。ちゃんと、みたいな友達ができていればいいんだけど。」
気が弱い…。ああ、人違いだな。
ヒューバートは全然気が弱くない。いつも強気だ。全然別人だね。
「あはは、もしかしたら私の友達と殿下のご友人の弟さんは同一人物かなって思ったんですけど、
気が弱い子なら違いますね。私の友達とは正反対です。」
思わず笑ってしまった。
そしたら、リチャード殿下も一緒に笑ってくださった。
「そうか、残念だね。同一人物だったら僕との共通の友達になったかもしれなかったのにね。」
共通の友達だったら、一体どうなってたのかなって思いながら、あたしはリチャード殿下と話し続けた。
10.5:とある国のお友達
(気づけば、夜ですね…。すいません、盛り上がってしまって。)
(いや、の話はとても楽しいよ。明日、軍に戻るんだよね?また会えるかな…。)
(はい、殿下がお望みならば!………いつでもとは言えませんが。)
執筆:11年2月28日