旅の途中に立ち寄った宿屋で事件は起きた。

ウィンドルで今大流行している携帯ゲーム機で遊んでいたところに、シェリアが部屋に突入してきた。
そして「お風呂に入りなさい!」と怒鳴られ、私はしぶしぶとゲームを中断した。

そこまではいいとして。

仕方なくお風呂に入ろうと、着替えを持って廊下を歩いていた時だった。
突如目の前の部屋の扉が開き、あれはアスベルの部屋だっけーと思った。
そこからでてきたのはアスベルではなく、意外にもヒューバートで。
兄弟仲がいいなーと思いながら私は微笑んだ。

「ヒューバート。おっす」

ひょいっと右手を上げて挨拶をすると、ヒューバートは無表情で腕を組んだ。
ちらっと私の持っているものを見て、また視線を私の目に合わせる。

…これからお風呂ですか?」

「そだよ。ヒューバートも一緒に入る?」

「入りませんよ!!大体、貴女という人はいつもそうやって僕をからかって………」

急にヒューバートの動きが止まったことに、私は首を傾げる。
ふと、彼の視線の先に目を向ければ、そこには私の着替えがある。
そして、服と服の間に隠すように入れていた下着がチラリと見えていた。
私は口の端を上げて、鼻で笑う。

「何を見ているのかな、ヒューバート君」

ニヤーっと笑いながらヒューバートに問い詰めれば、ヒューバートは慌てだす。

「べ、別に何も見ていません!」

ヒューバートはぶんぶんと首を横に振った。
それは私のいたずら心に火をつけるのには十分な反応で。

「君が見ていたのはコレじゃないのかな?」

服の間から下着を取り出し、ヒューバートの目の前に晒しだす。
すると、ヒューバートの顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

「なっ、何をしているんですか貴女は!!」

「むっつりヒューバートが私の下着に興味津々そうにしてたから堂々と見せてあげただけですが何か?」

ひらひらと私の下着を揺らせば、ヒューバートは突然私の腕を掴んだ。

「え、ヒューバート?」

「…っ」

無言のままのヒューバートは私を無理矢理引っ張りながら足早に歩く。
そして、私はヒューバートに宛がわれた部屋に押し込まれた。
バタンっと勢いよく閉められる扉。
えーっと、これは一体どういう展開なのでしょうか。

「…ヒューバート、今どうして私はここにいるのかな?」

「あんな、いつ誰が通るかもわからない場所で貴女が痴態を晒すからですよ!」

未だに顔が真っ赤なヒューバートが声を荒げてそう言った。
確かに、あんな場所であんなことしたのはまずかったかな。
ちょっとだけ、反省。

「それと、部屋に連れてきたのは…貴女に話があったからでもあります」

深刻な表情をしているヒューバート。
これは、ふざけられない雰囲気だ。
私は息を飲んで、眉間に皺を寄せた。

「…話って?」

ヒューバートはベッドに腰掛け、私に隣に座るよう促した。
無言のまま、私はヒューバートの隣に腰を下ろす。

「…は、どうしていつも僕をからかってくるのですか」

なんだそんなことかと思い、私は間髪入れずに答えた。

「え、そんなの。ヒューバートの反応が楽しいからだよ」

「……即答ですね。でも、今後もそんなことが言えるでしょうか」

私がきょとんとしていると、ヒューバートは私の肩を押した。
私の身体は簡単にベッドの上に倒れこむ。
何が起こったのか理解しようとしているうちに、今度はヒューバートが私の身体に覆い被さってくる。
え、ちょっと。何。

「ヒューバート!?」

何でこんなことになった。
ヒューバートはどうして私を押し倒してるの。
何がなんだかわからなくて、この状況を何とかしようと
必死にヒューバートの胸を押すも、彼はどく気配すらしない。

「…

耳元で囁かれた、私の名前。
ぞくりと身体に電流が流れ込む感覚。

私、このままヒューバートに犯されちゃうの?
これは今までからかってきた仕返しなの?

私はただ、ヒューバートと絡みたくて、それで…。

「……」

…怖いけれど、ヒューバートがこの行為を望むなら、私はそれを受け入れよう。
この行為に愛は無いかもしれないけれど、一方通行の愛だって構わない。
私がヒューバートを好きだから、私なら…きっと平気。

「わ、私…ヒューバートにだったら、いいよ?」

するりとヒューバートの背中に手を回す。
ヒューバートは目を丸くした後、顔を真っ赤にした。

「な…っ!!!」

突然、私から離れて背を向けてしまう。
そのまま放置されてしまった私は天井を見ながら首を傾げた。
あれ、何で…意味わかんない。

「ヒューバート…?」

「ち、違うんです!その…本当に襲うつもりは無くて…っ!!」

「どういう、こと?」

「僕はてっきり、こうすれば貴女が怖がると思ったから…。
いつも、からかわれてばかりで悔しかったから、その仕返しをしようとしただけで…」

…ということは、何。
ヒューバートは別に本気じゃなかったわけか。
私の決意と覚悟はなんだったのか。

「ヒューバート、最低…。」

私はベッドから降りて、部屋から出ようとした。

「待ってください、!」

突然、ヒューバートに後ろから抱きしめられる。
は?何こいつこの期に及んでまだ私をおちょくる気?

「なんなの、仕返しならさっきので…」

むすっとしながら、振り返る。
ヒューバートはバツが悪い様子で首を横に振った。

「さっき…僕にされるんだったら、いいって言いましたよね?」

「言ったけど…」

「順序が狂ってしまいましたが…僕は、貴女が好きです」

「ヒューバー…」

言葉の途中で、口を塞がれる。
目の前にはヒューバート。
唇にはヒューバートの唇。





いつもとは逆の立場で








(さっきの言葉が、告白の答えでいいんですよね?)
(ヒューバートのバカっ!死ね!)




執筆:10年12月31日