星祭の葉に願いを込めて



ソロンを倒した後のジェイの表情は晴れ晴れとしていた。
今まで、とても辛かったんだろうと思うと、私まで心苦しくなる。
ウェルテスの街に戻ってきた私たちは、ソロンと戦った疲れを癒すために、それぞれの寝所に向かった。

しかし、ジェイはひとり輝きの泉の方に向かって行った。
不思議に思った私は、こっそりとジェイの後をつけることにした。








さん、隠れているつもりなのでしょうけどバレバレですよ」

不意に前方からジェイの少しだけあきれた声。
バレてしまったことを残念に思いながら、私はジェイに姿を見せた。

「バレちまっては仕方がねぇ…!」

「…何のつもりですか。大体、このぼくを尾行するなんて無謀ですね。
さんごときに尾行されたって、モーゼスさんでもわかりますよ。」

出ましたジェイの皮肉。
ここで食ってかかってはジェイの思惑通りになってしまう…!
私はモーゼスのように単純じゃないからそんな皮肉には反応しないのさ。

「で、ジェイは休まないで何処に行くの?ジェイが一番疲れてるはずでしょうに」

だから、私は無理矢理話を変えた。

「…話を変えましたね」

「で、ジェイは休まないで何処に行くの?ジェイが一番疲れてるはずでしょうに」

「…いや、2度も同じこと言わなくていいですから」

あなたは本当に仕方ないですね、と呟きながらジェイはため息を吐いた。
私は頬を膨らませてジェイの答えを静かに待つ。
するとジェイは踵を返して歩き出した。

「輝きの泉です。さんも一緒に来ますか?」

「うん!」

私は返事をしてジェイに駆け寄った。
ジェイはスタスタと先へ先へと歩いていってしまうので、追いついた時には少しだけ息が切れた。

「はー…」

さんって、思ったより体力ないですよね」

バカにしたようにクスクス笑うジェイ。
そんなジェイに、ちょっとムっとする。
でも、気付いたら歩くペースがゆっくりになっていた。
ふと、ジェイの顔を見ると、少しだけ恥ずかしそうな顔をして「何ですか」と言った。

ジェイ、私のペースに合わせてくれてるんだな。

それがわかったら、自然と笑みがこぼれた。

「ありがとう、ジェイ」

「何のことです?ぼくは別に何も…」

「素直じゃないなぁ、この捻くれ者」

ジェイと私は並んで歩きながら輝きの泉に向かった。








「やー、着きましたー!到~着っ!」

輝きの泉に着いて、私は草むらに寝転がる。
ジェイは私の隣に立ったまま、私を見下ろした。
ジェイの影が、日陰になって涼しい。

「本当に無防備ですね」

「いいじゃん、この場所は平和なんだから」

小鳥の囀りと、風で草が揺れる音と、水の流れる音。
つい、うとうとしてしまう。

「一休みー…」

目を瞑ってしばらくすると、ジェイの影がなくなった。目を開けて、ジェイを探す。
するとジェイは泉の前にしゃがみ込んでいた。

私は足音を立てずにジェイに近づく。
ジェイは、星祭のはっぱを手に持っていた。

星祭のはっぱ、まだ持ってたんだ。
ジェイと私以外の皆は泉に流したけど。

こっそりと、ジェイのはっぱに視線を移す。
そこに書いてあった、ジェイの願い事は…

「家族が欲しい」

「…!?」

私が声に出して読むと、ジェイは驚いて即座に振り返る。

さん!?ね、寝てたんじゃないんですか!?」

顔を真っ赤にしながら、大声を上げるジェイ。

「寝てないよ。ただ目を瞑ってただけ。それにしても、ジェイの願い事が…」
「わー!!もう!!忘れてください!!忘れてくださいよ!!」

必死にはっぱを隠すジェイがとても可愛らしく思える。
私は小さく笑いながらジェイの肩をぽんと叩いた。

「大丈夫。モーゼスたちには絶対言わないよ」

「うぅ…シャーリィさんだけでなくさんにまで知られてしまうなんて…」

泣きそうな声で呟くジェイ。
はっぱを、ぎゅっと握り締めている。

「でも…ジェイの願いは叶ったじゃん。しかも流す前に」

「え?」

何を言っているんですか。ジェイはそんな表情で私を凝視する。
私はニッコリ笑って、ジェイに抱きついた。
後ろから抱きつかれたジェイは慌てて私を引き離そうとするけど、私は離さなかった。

「私たちはジェイの家族!ホタテ3兄弟も、セネル君もシャーリィもクロエも
ノーマもウィルもグリューネさんもモーゼスも…みんな家族じゃん」

「…たっ、確かにそうですけど…だけど、本当の家族ではありませんし。
それに、モーゼスさんがぼくの兄というのはちょっと納得できませんよ」

「んー…まぁ確かにモーゼスとジェイじゃ…頭脳的にどちらが年上だかわからないしね」

「みんなの気持ちは嬉しいです。でも、本当の家族にはなれませんから…」

そう言って、苦笑いを浮かべるジェイ。
…今までツライ思いをしてきたジェイのお願い、どうしても叶えてあげたい。
私に、何ができるだろう…。

本当の家族、かぁ。
血が繋がってないのなら、やっぱりアレしかないよね。

「じゃあ、私はジェイのお嫁さんになるよ」

「ぶふぁ!?な、何をいきなり言い出すんですか!!
そんな躊躇いもなく!しかも真面目な顔で、さらに耳元で言わないで下さいよ!」

本気にしちゃうじゃないですか、と顔を真っ赤にして呟くジェイ。
私はジェイを抱きしめる力を少しだけ強めた。

「本気だよ、私。好きじゃなかったら、こんな風に抱きつかない。
私はグリューネさんみたいじゃないから、本当に好きな人じゃないと抱きつかないもん」

さん…」

「私は、ジェイのこと好きです!だから、ジェイの家族になりたいです!
それが、私の願いで、このはっぱにも書きました!…だから誰かに見られるのが怖くて泉に流せなかったけど」

私は隠し持っていたはっぱをジェイに手渡す。
ジェイはそれを読んで、くすっと笑った。

「…そうだったんですか。ぼくも同じですよ、さん」

「え…?」

「ぼくも、あなたと…さんと結婚したいです」

ジェイが、体を反転させて私を抱きしめる。

「ジェイ…」

「ありがとうございます。一緒に、幸せになりましょう…?」

「…うんっ…うん…」

私はジェイの腕の中でひっそりと泣いた。
その間、ジェイは優しく頭を撫でてくれていた。





星祭のお願いは、流す前にもう叶ってしまったから。
私たちはまた別のお願いを書くことにした。

「ジェイは何て書いた?」

と釣り合う様に身長が伸びますように、です。は?」

「子宝に恵まれますように」

「……が、頑張ります、いろいろと」

私の願いを聞いたジェイは、顔を真っ赤にしながら私と一緒にはっぱを泉に流した




執筆:04年08月30日