ぼく達はようやく素直になれた

 

ノーマがグリューネさんに甘えて抱きついている。
「羨ましいだろ~?」と自慢するように男性陣をちら見するノーマ。
それを羨ましそうに見る、男性陣。
その中にジェイも含まれているのを、私は見逃さなかった。

ちょっとだけ、グリューネさんに嫉妬してしまった自分に驚いた。

ああそうか、私はジェイのことが好きなのかも知れない。

だけど…ジェイは…ジェイは






それを知ったら絶対私をからかうに決まっている。











モフモフ族の村に帰ってきた私とジェイは、ジェイの家に一緒にいた。
ジェイはたまに私を呼びつけて、夕飯を作らせたり、部屋の掃除をさせる。
そして、さっきも自分の家でのんびりしていたところを呼び出されて夕飯を作らされた。
私は先ほど作った夕飯をジェイと一緒に食べていた。
どうやら今日はポッポたちは出かけているらしい。

「ジェイも、健全な男の子なんだね」

「どういう意味ですか」

私はジェイの隣でムフフと笑う。
そう、私はグリューネさんとノーマの行動を見て、ジェイが羨ましそうにしていたことを言っている。
いつもからかわれているのだから、今日こそはジェイにお返しを。

「そのまーんまの意味」

ジェイは私の言いたいことが理解できたのか、ムッと表情を変えた。
そして、箸をおき、私を睨む。

「そりゃあ、ぼくだって人間ですし、年頃でもありますから。いけませんか?」

ジェイの言葉に、私は目をそらしながら「そうだねぇ」と頷く。
するとジェイは不機嫌そうに頬を膨らませた。

「いけなくはない。いけなくはないんだけれど…」

不覚。言葉が、思いつかなかった。
寧ろジェイはグリューネさんみたな「ないすばでぃ」な人が好きなのかと思うと悔しくて。
まさかそんなことをさらりとジェイに言えるわけもない。
私はその先が言えずに黙り込んでしまった。

何を思ったのか、ジェイは可笑しそうに笑った。

「ようするに、さんはぼくをグリューネさんに取られたくないんじゃないんですか?」

ジェイの言葉に、私は食べていた物を噴出しそうになる。
いいいいい一体何を言い出すんだこの人は。

「はっ!な…な…!」

「どうなんです?」

にっこりと、眩しい笑顔で問い詰めてくるジェイ。
私は恥ずかしくて答えるに答えられない。

く…黒い…。ジェイが黒い…。

笑顔で攻められた私が勝てるはず無く、小さく頷いてしまった。
これでジェイにからかわれるのが決定だ…。仕返しのつもりだったのに、逆転されてしまった。

ジェイは嬉しそうに微笑んで、起き上がり、私の体を自分の方に引き寄せる。

「大丈夫です。ぼくはさんのことが一番好きですから」

「ジェイ…それは私を家政婦として好きだと言っているのかなぁ?」

ニコニコと笑いながら淡々と言うジェイに対し、私はジェイに疑いの眼差しを送る。

「いやですね。ぼくは一人の女性としてさんが好きなんですよ」

なんだったら今ここで証明しましょうか、とジェイ。
私はブンブンと首を横に振りながらジェイから離れた。

「本当にからかい甲斐のある面白い人ですね」

「鬼や!あんた人の皮被った鬼や!!」

もう、泣きそうになりながらジェイに抗議する。
ああ、もう。どうしていつもからかってくるのさ。

ていうか、私を好きだって言うのも冗談ですか。
乙女心をからかうなんて…本当に酷い。

「未来の旦那様に何てこと言うんですか」

クスクスと笑いながら、真っ赤な私をからかうジェイ。
もう、恥ずかしくて耐えられない。
私は真面目なのに…真面目に好きなのに。
どうしてジェイはそんな私をからかうのよ。

もう嫌だ。

「もう忘れて!今から嫌いになるように努力するから!!」

私は即座にその場に立って、急いでジェイの家を出た。
ジェイが止めようとしてたけど、私はそんなの、無視した。










「ふぇぇ…」

好きだという気持ちをからかわれた私は毛細水道まで来て一人で泣いていた。
泣きながら憂さ晴らしに魔物に八つ当たりをする。
私を恐れているのか、さっきから魔物は全然出てこない。

「出て来いやコルァ!!みんな死んじまえ!!」

自棄になっていた。

なのにいつまで経っても魔物は出てこない。

「…もう、帰ろう」

そう呟いた時、背後に何かの気配を感じた。
振り向いた時にはもう遅くて。
私は其れに捕まった。

「ようやく捕まえましたよ」

「ひぃぃいいい!!」

ジェイだ。
ジェイが私の腕を掴んでいる。

「離せよコノヤロッ…!!」

「暴れないで下さい」

ジェイが無理矢理私を押さえつける。

「やだやだ!触らないで!!あんたなんか大嫌いじゃ!!」

「…っ」

私がそう言うとジェイは眉間に皺を寄せて私の口を封じた。

「んん…!?」

ちゅ、という音を発しながら離れるジェイの唇。

私は何が起こったのかを理解するのに必死になっていた。
混乱したのだ。

「嫌いなんて言わないで下さいよ。嫌いに…ならないで下さいよ…!」

真面目な、ジェイの表情。
私は俯き、ジェイの話に耳を傾けていた。

「ぼくは本気でさんが好きなんですよ。
さんがぼくのことを好きだと悟った時はどうしようもなく嬉しかったんです。
からかってしまったことでさんを不快にさせてしまったことは謝ります。
だから、どうかぼくを嫌いにならないで下さい…!」

いつになく、必死なジェイの姿に私はドキドキしてしまう。

「わかった…嫌いに…ならない。ていうか、なれないから…」

私はジェイを見て、微笑む。
するとジェイは嬉しそうに微笑んだ。

「ごめんなさい。さんが可愛くて…ついからかってしまって…。大好きですよ、さん」

そう言って優しく微笑んでくれたジェイ。
私は嬉しくなって思わずジェイに飛びついた。

「私も、ジェイが大好き」

薄暗い毛細水道の中で、私とジェイはどちらともなく唇を重ね合わせた。






執筆:05年08月31日
修正:06年08月25日