アドバイス



ノーマとクロエとシャーリィとは時々4人でお泊り会をする。
その日の夜は、主に恋バナで賑わうことになる。
シャーリィとクロエはセネルに対する思いをぶちまけ、はジェイに対する思いをぶちまけていた。
ノーマはただ一人、聞き手兼アドバイス役になっている。
本人は至って楽しそうで、3人の話をニヤニヤしながら聞いていた。

「んで、はもうジェージェーとキスはしたの?」

「私もそれが聞きたかったんです!」

「で、どうなのだ?

既に告白を成功させて、付き合っているとジェイ。
ノーマ、シャーリィ、クロエの3人は興味深々にに問いかけた。
その質問に、はにっこりと笑う。
のそんな様子に、3人は「おぉー!」と歓声を上げた。
しかし、そんな歓声も3秒足らずで破られることになる。

「まだ」

「なんだよ!まだだったんかい!」

「紛らわしいマネをするなっ!!」

「まったくですっ!」





今宵も、乙女達の恋の話は夜更けまで続く。







昨夜、さんざんノーマたちにキスをするアドバイスを受けた
今、早起きをしてジェイの家の前までやってきていた。

『おはようのチューよ!』

ノーマの言葉を思い出し、は拳を握る。
タイミング的にはジェイを起こす時がベスト、らしい。

は早速ジェイの家に乗り込む。
キュッポ、ピッポ、ポッポは幸いとまだ眠っていて、スースーと寝息を立てていた。

「ちゃ~んす」

は小声で呟いて、ジェイの部屋に向かう。
階段を上って部屋を覗いてみると…

「あれ?さん。おはようございます。どうしたんですか?こんな朝早くに」

ジェイが苦無を磨いていた。
それを見たは唇を噛締めて泣きそうな顔になる。
そしてじわじわと涙が目尻に溜まり、溢れた。

「バカーーー!!ジェイのバカーーーー!!!ジェイの早起きーーーー!!
何よー!ジェイはアレか!?早起きな年寄りかコノヤロォォォオオオ!!!」

うわぁぁあん、と泣き叫ぶに、ジェイは困惑する。
下ではの叫び声で目を覚ましたキュッポたちが「何が起こったキュ?」と慌てていた。

…さん?」

自分の目の前でわんわんと泣いているをなんとか落ち着かせようと
ジェイはに声を掛けるが全く効果がない。
泣かせてしまった理由を考えるが、自分は何もしていない。
ただ、苦無を磨いていただけだ。
しかし、先ほどのの言葉を思い出し、なんとなく泣かせてしまった理由に見当がつく。

自分が早起きしていたことに泣いてしまった。

しかし、早起きしてたからといって、何故泣く必要があるのか。
ジェイは「うーん」と唸り、泣いているを見ながら考える。

いたずらでもしたかったのだろうか。

ジェイはため息をついた。
それとは裏腹にはシャーリィに言われたことを思い出し、頑張って泣いている。

『男の人は女の人の涙に弱いんです!』

確かにジェイが起きていたことには悔しかったが、だからといって泣くのはキツかった。
でも、女の涙に弱いのなら泣いてみせる。
はツライ思い出をほじくり返したり、感動の名作話を思い出しながら必死に泣いた。

しかし、いつまで経ってもジェイはキスも何もしてこない。
いい加減泣くことに疲れてしまったはピタリと泣き止み、ため息をついた。

「もう…泣いてるのも疲れるんだからね?」

いきなり泣き止んで、いきなりこの言葉。
ジェイはわけがわからなくなり、目を丸くしていた。

一方はクロエの言葉を思い出す。

から押し倒して無理矢理にでも奪ってはどうだ?』

そして、は力を溜めて、ジェイの体を押した。


…が。


しかし。


「こ、今度はどうしたんですか?」

困惑した表情でを見つめるジェイ。
もちろん、ジェイは立ったままで倒れていない。

はさらに力を込めてジェイを押し倒そうとするが、倒れる気配はない。

流石忍者、バランス感覚も素晴らしい。

はその場に座り込み、ジェイを見上げながら思った。
ノーマたちの考えてくれたことはやってみた。
だけど、ジェイの方が一枚上手で全然上手くいかない。

はジェイから視線をそらして立ち上がろうとした。
しかし、立ち上がろうと床に手をついた瞬間、ジェイが肩を掴んできたので
立つのをやめ、そのままジェイに視線を戻した。

「ノーマさんたちに何を吹き込まれたかは知りませんが…あんまり無茶しないでくださいよ。
ぼくたちは付き合ってるんです。さんが、何をしたかったのかは、ぼくにも聞く権利はありますよね?」

ジェイの質問に、は顔を赤くしてこくりと頷く。

「ジェイとキスしたかった、それだけ!!」

「え?」

は咄嗟にジェイの手を振り解いて立ち上がる。
そして赤く染まった顔を隠しながらジェイの部屋を飛び出した。
ジェイもまた、顔を赤くしながらその場に座り込んでしまった。

「あ、。おはようだキュ!」

「おはよう!おじゃましました!!」

顔を隠しながらキュッポたちに挨拶して家から出ていく。
キュッポたちは首を傾げて「ジェイと何かあったキュ?」と言い合った。











ノーマの泊まっている宿に行き、ノーマの部屋に逃げた
クロエに抱きつきながら先ほどあった出来事を皆に話す。

ノーマ、クロエ、シャーリィの3人は哀れみの目でを見ていた。
そして、申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん、…あたしらが余計なこと吹き込んだから…」

「きっと、私たちが余計なことを言わなくても二人ならごく自然にキスできたかもしれないな…」

「二人は、お互いに通じ合っているんですもんね…」

ノーマたちの言葉を聞いたはブンブンを首を横に振った。

「ううん。みんなのせいじゃないって!私がもっと早起きしてればよかったんだよ。
それに、ジェイがありえなさすぎるだけ。朝4時に起きてるなんて…ありえないよ、ホント」

しょんぼりと俯く
ノーマたちは、そんなを見て、お互いの顔を見合う。
しかし、何も言葉は出てこなかった。








その日、は自分の家に閉じこもっていた。



セネルたちも心配して様子を見に行ったが「大丈夫だから」と言われて追い返された。










翌朝。
は夜更かしをして恋愛小説を読んでいたおかげで熟睡していた。
付き合うとはどういうことか、どのように接すればいいかなど、勉強していたのだ。
ベッドの周りには小説がバラバラと散らばっている。

「…まったく、今日は寝込みを襲いにこないと思ったら…」

を起こしにきたジェイが、の部屋に入って呟いた。
本を踏まないように足元に気を配りながらの寝ているベッドに近づく。

は眉間に皺を寄せながら眠っていた。

「…そこまで悩んでいたんですか」

ジェイは呆れながらも小さく笑う。
そして深呼吸をして

さーーん、起きてくださーーい」

と大声を上げた。
しかし、が起きる気配は全くない。

「起きないとー、襲っちゃいますよー?」

ジェイはそう小さく呟いての服に手を掛けた。
するとはばっと飛び起きて眠そうな目をしながら「ジェイに食われそうになる夢を見た」と呟いた。

「おはようございます、さん」

ジェイは笑顔で、に言う。
は眠そうに目を擦りながら「おはよう」と言おうとしたその時。
ジェイが突然の手を掴んで、唇を重ねる。
そして、ゆっくりと唇を離し、の反応を見る。

はぼけーっとしながら眠たそうにジェイを見ていた。

「……あえ?」

そして、は次第に俯き始める。

「あの、ジェイさん?今…何を…」

「おはようのキスですよ」

「う…」

「う?」

「うわぁぁぁああああああっっっ!!!!」

は布団を被り、叫んだ。
ジェイは恥ずかしそうに笑いながら、そのままを抱きしめた。

さん、可愛いです」

「ねっ…寝起きなのに!!酷いーーー!!」

「それは、昨日さんがぼくにしようとしたことじゃないですか」

「う…っ」

は布団から顔を出して恥ずかしそうにジェイを見つめた。

「なんならもう一回します?」

「じぇ…ジェイのバカー!!」


朝早く、の家から叫び声が街に響き渡る。
それに気付いたノーマたちはクスクスと嬉しそうに笑っていた。



執筆:05年09月06日