雪道の歩き方



英雄王、ウッドロウに会う為、ハイデルベルグに向かうカイル達一行。

「ひぃ~…私、雪国って嫌いだよ!滑るよおぉおお!!」

は先程から滑ってばかりいた。
転びそうになっては自分でどうにかバランスを整える。
そして、なんとか転ばないでいた。
しかし、また転びそうになってはまたバランスを整え…それを約1mおきに繰り返していた。

そんなを見ているカイル達はに気を配りながら進んでいたため、なかなか雪道を進まないでいた。
リアラは先ほどモンスターとの戦闘で負傷して、瀕死の状態なのでロニに背負ってもらっていた。

、今日はもう休もうか?そこに洞窟があるからそこで休もうよ!」

カイルが少し遠くに見える洞窟を指差しながらニッコリと笑う。

「どっちにしろリアラだってこんな状態だし、早く休ませて治療したいしな」

「…無理はするな、

ロニとジューダスも相変わらずを気遣いながら歩いた。

「ごめんね、みんな」

はみんなに笑顔を向けた。
ジューダスはそんなを見て顔を赤く染めた。










「う…ん…」

瀕死の状態だったリアラが目を覚ます。

「リアラ!!」

の生き生きとしたソプラノ声が洞窟内に響き渡る。
その声にカイル達もリアラが目を覚ましたことに気づき、喜んだ。

「ロニ、ヒールだ!」

「ああ、わかってるって!ヒール!!」


カイルがロニを急かすと、ロニはリアラにヒールを使う。
するとリアラの傷はみるみるうちに消えていった。

「ありがとう」

リアラはにこっと微笑んだ。

「リアラ、もう少し寝てた方がいいよ?」

は優しくリアラを諭した。
するとリアラはに微笑みながら

「…そうかな?じゃあ、もう少し休むわね」

と答えた。
リアラが眠りをつくのを見守り、は立ちあがる。自分は今日、みんなに迷惑をかけてばかりだった。
今、自分がみんなにしてあげられることは何かと必死に考え、食事を作ろう、そう思い立ったのだ。

「その…。」

ジューダスは照れくさそうにの名を呼んだ。

「どうしたの?ジューダス」

「僕も手伝う」

「ありがとう。じゃあ、二人でおいしいもの作っちゃおう!」

ジューダスはいつもと二人きりになると優しくなる。
というより、むしろ小さな子供が母親にくっつくような、そんな感じになる。
カイルとロニも、それを知っていたが、微笑ましいという理由で特に何も言わなかった。










食事を終え、ゆっくりとしていた時のことだった。
突如、洞窟の入口の方から見張りをしていたはずのカイルの大きな声が響いた。

「ねえー!みんなで雪合戦しよー!」

カイルが持っていた雪玉を一緒に見張りをしていたロニにぶつけた。
すると、ロニの顔は一瞬で雪だらけになった。

「…カイル…てめぇ…」

ロニは即座に雪玉を作り、カイルに投げつける。
しかし、カイルに投げた雪玉は命中せずに、
洞窟の奥でジューダスと話をしていたにあたった。

「ひゃ…っ!」

小さく悲鳴をあげたは呆然としていた。
自分に当たった冷たいみのを見て、「雪…?」と首を傾げた。
ああ、先程カイルが雪合戦しようと言っていたな、と思う。
隣ではジューダスがキッとカイルたちを睨みつけていた。

「あ、ごめん!、だいじょ…」

「貴様等…ッ!!」

ジューダスが剣を抜いた。
そのジューダスの顔は本気で、今にも本当にカイル達を斬ってしまいそうである。
とカイルはジューダスの行動に目を丸くし、そして慌てて彼を制止しようと努めた。
騒ぎを聞きつけたロニもそれに加勢する。

「ちょ!ジューダス!?何剣抜いてるの!危ないよ!」

「な、何でジューダスが怒るんだよぉ~!?」

「そうだ!なんでお前にあたってないのにお前がキレるんだよ!!」

「…問答無用!!」

雪を当てられた本人は「私って愛されてるなぁ」と、暴れている彼を見て密かに微笑んだ。










翌朝。

結局雪合戦で思う存分楽しみ、十分に体を休めたカイル達。
焚き木を消し、道具を確認し、一行は洞窟を後にした。

「あ~…またこの滑る雪道を歩くのかぁ…。鬱だわ」

「ごめんなさい、ロニ…私、ほんと重いから」

女性陣二人が同時にため息をついた。
リアラはまだ怪我が完治していないということで、ロニに負ぶってもらっていた。

「いーや、気にするなって。リアラは全然軽いぞ?しかし、カイルに負ぶってもらいたいところだったが…」

「え?何でオレなの?」

ロニはリアラがカイルのことを好きだということを知っていた。
リアラは慌ててロニの口を押さえつける。
自分の背中で暴れるリアラに、ロニは苦痛の声を上げた。
一方で、ジューダスとは二人で手を繋ぎながら歩いていた。
正確には、がいつ転んでも助けられるようにジューダスが補助してくれている。

、大丈夫か?」

ジューダスがに訊ねた。

「うん、大丈夫…!」

そう言った瞬間、はつるりと足を滑らせた。
バランスを整えようとしたが、上手くいかなかった。
ジューダスの手を離してしまい、地面に向かって体が傾く。

転ぶ!!

!」

そう思ったときだった。
カイルがの体を支えている。

「大丈夫?

はこの態勢に顔を赤くさせながら、カイルにこくりと頷く。
カイルがの体を後から抱きしめる形になっている。
ジューダスはそんなカイルとに腹を立たせた。

、ゆっくりでいいからオレに掴まって」

「う、うん、ありが…うぉわ!!」

突然の腕が引っ張られた。
ジューダスによって。
ジューダスはを自分の方に引寄せて、抱きしめた。

「彼女は僕が支える」

「ジューダス…?」

カイルとは目を瞬かせ、ジューダスを見つめていた。
ジューダスの胸板に密着しているの顔はどこか引きつっていた。

「ジューダス~?あの…これじゃ歩けないんだけど…」

「では、こうすればいい」

の視界は45度回転した。
そして立っている感覚が無くなった。
ようするに、お姫様抱っこ。
自分がお姫様抱っこされているということにようやく気づいた
頬を真っ赤に染めながらジューダスの腕の上で暴れる。

「ジューダス!これは酷い羞恥プレイだよ!!」

「…黙ってろ」

ジューダスはぎゅっとを抱き、歩き始めた。
呆然と立ち尽くしていたカイルに、ロニが声をかける。

はやめておいたほうがいいんじゃねぇのか?」

カイルはロニの言葉に、静かに頷いた。





ようやくハイデルベルグについた一行。
その日、ハイデルベルグで怪しい仮面をつけた男が
少女を拉致しようとしていたという事件で町が大騒ぎになったという。





執筆:03年3月25日
修正:08年1月6日