ドキドキ注意報



ファンダリアのウッドロウ王に会いに行くため、私達は今船に乗っている。
クレスタの町から出るのは初めてで、当然旅なんてしたことないし、船に乗ったこともない。
そんな私は初めての船にドキドキしていた。
船が出港してから暫くして、カイル以外のみんなが部屋から出て行ってしまった。
しかし、私はじっと部屋の隅で丸くなっていた。









、大丈夫?」

今一緒に部屋に残っていたカイルが心配そうに私を見つめた。

「い…いやだ、カイル何言ってるの?全然大丈夫よ。うん、初めての船にドキドキしてるだけなんだから!!」

ドキドキ…
そう、実は楽しいの意ではなく、怖いの意の方である。
でもカイルに怖がりだなんて思われたかねぇんだ。

「…怖いなら怖いって言えばいいのに」

「うるっさいなぁ!!怖くなんてないんだから!!」

「じゃあ、その震えは何だよー」

カイルに指摘され、私は焦る。

私の馬鹿。何勝手に震えてんだ。

「む、武者震い!!」

「はいはい」

「…なんて嘘!私の意思じゃなくて体が勝手に…!!」

「もういいから。ほら、甲板にでも行ってきなよ。少しは怖い気持ちも和らぐんじゃないかな?」

カイルに腕を引っ張られ、無理矢理部屋の外に連れていかれる。

その瞬間、船がギシーッという音を立てながら揺れた。

「ぎゃああああ!!!」

それにビビった私は思わず、後ろにいた人に体当たりをしてしまった。
即座に「ごめんなさい」と謝って、その人の顔を見ると。

仮面の奥から覗く怪訝そうに私を見るジューダス。

「ほわぁぁああ!!ジューダス!!!?」

ジューダスにまでビビったところを見られてしまった。

「こんなところで暴れるんじゃない。そのうち怪我人を出すぞ?」

ふぅ、とため息をつくジューダス。
私は必死に首を横に振って抗議した。

「ち、違うの!カイルが嫌がる私を無理矢理…!」

「はぁっ!?何でそんな嘘つくんだよ!のバカ!!」

顔を真っ赤にしながら手をブンブン振るカイル。
そんなカイルを横目に、私は腕を組みながら頬を膨らませる。

「嫌がってんのは事実だもーん。嘘じゃないもーん」

一方ジューダスは私たちのやり取りを見て呆れ返っていた。









「ところで、ロニとリアラは?」

まぁ、ロニはナンパだとして、リアラは何処に行ったんだろうか。
私の疑問に答えてくれたのはカイルだった。

「ロニはさっきナンパに行くって行ってたよ」

やっぱり。
放っておいてもそろそろ全滅して傷心しながら帰ってくるだろうね。

「リアラは…何処だろう?ゴメン、オレもわからない」

カイルは申し訳なさそうに俯いた。
それを見ていたジューダスが横でぽつりと呟く。

「リアラなら潮風に当たってくると言っていたが…」

「そっか」

みんな勇敢だなぁ。
私なんて船がいつ転覆するかと怖くて歩き回れないよ。
カイルさえいなければ私は部屋で港に着くまで寝て恐怖を紛らわしながら待つんだけどな。
そのためにはカイルをどこかに行かせる必要がある…!

「か、カイル~。リアラと一緒に潮風に当たってきたらどう?」

「何で?」

「いや、だって女の子一人にしてたら、ロニみたいなのにナンパされちゃうかもしれないし…
ここは英雄であるカイルが彼女を守ってあげなくちゃでしょ?(つか、私の邪魔はさせねぇ)」

カイルには英雄とか言っとけばすぐ折れるということを、私は知っていた。(ニヤリ)

「そ、そうだよな!じゃ、オレ行ってくる…から、ジューダス!をよろしく!
怖がっちゃって部屋に引きこもっちゃうから外に連れ出してあげてよ!」

そう言い残して、カイルは満面の笑みを浮かべながら走っていった。
ふはっ、ジューダスが私の相手をするわけないでしょーが。
まったくカイルはオツムが弱いんだからー。

私は踵を返して部屋のドアノブに手を掛けた。

「…おい、何をしている」

ジューダスが、私の手を制す。

「何って、部屋に入ろうと…」

「勝手なことをするな。外に行くぞ」

そう言って、ジューダスは私の手を取って歩き出した。

「え、ちょっと」

何でやねんジューダス!!
もしかしてカイル…あの笑みは満面の笑みじゃなくて

黒い笑み…?

そこまで計算済みってヤツですか!!!??










ジューダスに連れられて、私は今甲板に立っている。
船が前進していて、前から風が吹いてくる。
その時に香るこの匂い。これが潮の匂い…。

なんだか、潮風を浴びていたら怖さなんて吹っ飛んでしまったみたい。

「じゅっ、ジューダス!潮風が気持ちいいね!!」

「さっきまで怖がってたのが嘘のようだな?」

ジューダスは仮面の奥でクククと笑う。

「…あ、あれは怖がってたんじゃなくて寒くて震えてただけ!!」

「…そういうことにしておいてやろう」

「うるさいなぁ。…あ」

私の目に付いたのは甲板の先端。
昔、タイ●ニックという映画の有名なワンシーンを思い出す。

「ジューダス!」

「何だ?」

「甲板の先端に立って、大きく腕を広げて」

何をする気だ。そう訴えたそうな目で私を見つめながら
ジューダスは私の言うとおりに先端に立ち、腕を広げた。

その後、私はジューダスの腰を掴んだ。

「タイタ●ック!(キラーン)」

「…アホか」

ジューダスはバカバカしいといった感じですぐに腕を下ろしてしまい、
タイタニ●クごっこは3秒ほどしか堪能できなかった。

しかし私は満足だ。

「タイタニッ●はこうだろう」

気付けばジューダスが私の後ろに回り込んでいて。
次の瞬間、ジューダスが私の腰を掴んだ。

「うぉうっ!?」

ビックリして、体が硬直してしまう。

「何してるんだ?さっさと両手を広げろ」

耳元で呟くジューダスの息がかかる。
心臓が妙にドクドクいって、息が詰まる。

「こうって…さっきと変わらないじゃん…」

「立場が逆だっただろうが」

「…そ、そっか…」

恥ずかしくて、後ろを振り返れない。
だから、前を向くしかなくて。

髪が、靡く。

…」

「へ?」

「その…綺麗だな。お前」

不意をつかれた。
ジューダスの顔、きっとまともに見れないと思う。

「あ、ありがとう…?」

まさかジューダスに綺麗と言われるなんて夢にも思っていなくて。
やばい。私きっと顔赤いわ。

しばらく、沈黙する。
どうか、ジューダスにこの心臓の音が聞こえませんように!!

「ふ、普段はガサツで嘘吐きで見栄っ張りで生意気な小娘なのにな」

ジューダスの一言で私は眉間に皺を寄せる。

「コノヤロッ!人がせっかくときめいてるっていうのにそんなこと言うか!!」

「…思ったことを言ったまでだ」

そう言ってジューダスは私の腰から手を離した。
言い返す言葉が見つからなくて、ただ唇を噛締めてジューダスを睨むことしかできなかった。

「…ときめいて、くれたんだな?」

「は?」

「なんでもない。」

ジューダスはソッポ向いて踵を返して、行ってしまった。

残された私はジューダスの言った言葉の意味を考える。

「…あぁ、そっか。ジューダスは私のことが好きなのか。
だから、私の相手をしてくれたし、タ●タニックごっこも付き合ってくれたんだな」

疑問に感じていたことの答えがわかり、スッキリする。
でも

「どうしよう。こんな答えわかっちゃって…ジューダスのこと意識しちゃうじゃんか」

まだまだ私のドキドキは止まらない。無論、このドキドキは楽しみの意でも恐怖の意でもない



執筆:05年08月11日