「あーっ、今日はいっぱい戦ったから疲れちゃったね!」

 闘技場で奮闘していた私たちはへとへとになりながらインフェリアの城下町を歩いていた。今日はファラが大活躍だったから、とても助かった。

「ファラでも疲れることなんてあったのか」

 リッドが呆れながら呟くと、それが聞こえてしまったファラが怒り出す。

「何よ、リッド! 失礼ね!」

 喧嘩する元気がある二人が羨ましいと思いながら、私はじんじんと痛む足を引き摺っていた。旅に出てからだいぶ経つのに、未だに旅に慣れていない私の身体は悲鳴を上げている。特に歩きっぱなしのせいで足の裏がジンジンする。早くふかふかのベッドに横になりたい。

「ねぇ、今日はもうインフェリアのホテルに泊まろうよ」

 立ち止まってギャーギャー騒いでいたリッドとファラに声をかければ、二人の喧嘩はあっさりと終了した。隣で今にも死にそうな顔をしているキールを見て、私は黙り込んだ。戦っていた時、何度も私を庇ってくれた。何で、そんなことするんだろうと不思議に思っていると、メルディがキールの手を取った。

「キール、大丈夫か? へとへとで倒れそうだな」

「あ? ……ああ、なんとか」

 ぐったりとしながら、キールは苦笑した。そんな二人の様子を見て、私の中で何かがチクリとした。
 む、なんなんだ、この気持ち。なんふだかモヤモヤするんですけど。



※ ※ ※ ※ ※



「平民5名様ですね、それでは2階の左のお部屋をお使い下さい」

 受付の女の人に言われ、私たちは言われたとおり、2階の左の部屋へ向かった。平民とか貴族とかで部屋が分けられるなんてなんだか気分が悪い。だけど、こんな綺麗なホテルは今まで見たことなかった。部屋の扉も、もちろん部屋の中もとても綺麗で。なんだかわくわくした。

「はぁ、疲れたーっ!」

 部屋に入るなり、私はまるで子供のようにボフっとベッドに飛び込む。とても気持ちいい羽根布団だ。「ああー、極楽じゃー」と、ふかふかのベッドに満足していると、キールが私の隣に腰掛けた。

「キール?」

 何か用でもあるのかと思い、私はそのまま首を傾げる。

「その……怪我、しなかったか?」

「え? ま、まぁ。キールが庇ってくれたから……」

 私の答えを聞き、キールは満足そうに微笑んで、私の頭を撫でた。まるで猫の頭を撫でるようにくしゃくしゃと撫でられて、なんだか変な感じ。でも、それは嫌じゃなくて……むしろ、嬉しい?

「よかった、が無事で」

 撫でられながらそんなことを言われて、私は何だか恥ずかしくなってしまう。おかしいな。いつからキールはこんなに優しくなったんだろう。前は、もっと冷たかったと思うのに。こんなに優しくなったのはつい最近のことだ。まさか、何か企んでいるのではないだろうか!?
 私は咄嗟に体を起こしてベッドから飛び降りると、リッドに飛びついた。疲れなんてもう忘れてしまった。

「リッドぉおおお!!」

「な、なんだよ!!」

 いきなり私に飛びつかれたリッドが驚いて顔を赤くしていた。私はそんなことに構うことなくリッドに問いかける。

「キールが最近おかしい! 何か知ってる!?」

「はぁ?」

 リッドは眉間に皺を寄せてキールを見つめる。キールは不機嫌そうに立ち上がり、つかつかとこちらに向かって歩いてきた。

「ばっ……! おかしいだと!? 僕は至って普通だぞ!!」

 あ、いつものキールだ、なんて思う。でも、さっきの行動はとってもキールらしからぬ行動だ。やっぱり何か企んでいるに違いない。

「だけど、最近妙に優しいんだもん! 逆に怖い!」

「そんなこと――」

 キールがしょんぼりとしてしまった。リッドと私は顔を見合わせて首を傾げる。しばらく沈黙が続いたが、それはファラによって打破された。

「わかった! キールはのことが好きになっちゃったんだよ!」

「「「えっ」」」

 リッド、キール、私は同時に驚きの声を上げた。ファラの隣ではメルディが「バイバ!」と驚き目を瞬かせていた。
 ちょっと待ってファラさん。そういうのって万が一キールが私のことを好きになっちゃったんだとしてもファラが言うべきことではないと思いますよ!?
 ふとキールを見ると、なんだかまんざらでもない様子で挙動不審にこちらを見ている。
 あ、あれぇ?

「ちょ、ちょっと落ち着こうぜ!? オレ腹減ったわ!」

 気まずい雰囲気の中、リッドが話を逸らしてくれた。テーブルの上に置いてあった食事のメニューを手に取り、私はリッドに渡した。

「そうだね。リッド、何食べる? 私はねー、リゾットがいいかな!」

 リッドとメニューを眺めてリゾットの写真を指差す。するとファラが私たちの後ろで大きなため息をついた。

「あのねぇ」

 メルディもお腹が空いていたのか、私たちに駆け寄り、メニューを見て指差す。

「メルディー、これがいいな!」

「はいはーい。じゃあ頼もう!」

「なぁ、! オレはピラフがいい! おい、キールとファラはどうする?」

 リッドに振られたファラとキール。ファラが微笑みながら答え、キールはそっぽを向いてしまった。

「わたしは後ででいいや、先にお風呂に入りたいから」

「……僕はいらない。お腹が空いてないんだ」

 キールの答えに、私とリッドは顔を見合わせる。しかし、メルディは心配そうにキールに駆け寄った。そして

「キール、元気ないか? がこと好きだから、食欲ないのか?」

と、キールに訊ねた。私は硬直し、ファラは目をキラキラと輝かせている。ちょ、この状況を楽しみやがって……!

「そんなわけねーよ! キールは元々少食だから……」

 リッドが席を立ち、ぶんぶんと首を横に振った。オイオイオイ、どうしてそこでリッドが反論したのだ。しかし、キールはそれを見て眉間に皺を寄せる。そして、私の手をぎゅっと握り締めた。

「そ、そうさ! 僕はが好きなんだ!」
「うわああああああああああ私メニュー注文してくるわあああああああああ!!」

 私はキールのセリフの途中で手を振り払い、そしてメニューを引っ手繰り、電話まで走った。そして慌てて注文をする。

「あ、すいません! ピラフとフライドポテト大盛りとリゾットください!!!」

 注文をし終わり、ふぅと息をついた。

「――で、何の話だっけ? あ、ファラはお風呂入るんだよね? 私も食べた後に入ろうーっと」

 一人でウフフフと笑ってみるけれど、ファラとメルディはなにやら哀れな目で私を見つめていた。キールに至ってはもう泣きそうな顔をしている。
 な、何だよぅ! 告白されかけた流れをぶった切っただけじゃないかぁ!
 しかし、リッドだけは私の味方なのか、私の肩を掴んだ。

「リッド……!」

、実はオレもお前のことが」
「リッドは黙ってて!」

 リッドが何かを言いかけようとしたとき、ファラのとび蹴りが炸裂した。リッドはそのまま壁まで飛ばされ、めり込んだ。
 いやん超怖い。
 そしてファラはキッと私を見ると、ぐっと私の両腕を掴んだ。

「ちゃんと、キールの話を聞いてあげて」

「は、はい……」

 ファラの威圧に押され、私はガタガタと震える。そのまま、しょげ込んでいるキールの前に立つと、「あ、あの」と声をかけた。ビクリとキールの身体が震える。キールはあと一撃決めれば本当に泣いてしまいそうだった。
 そ、そうだよね、折角キールが勇気を出して私に告白しようとしてくれてたのに、私ってば恥ずかしいからという理由だけでキールから逃げてしまったんだ。
と、其のときコンコンと部屋のドアがノックされた。

「失礼します、お食事を持ってまいりました」

 一人のメイドさんが部屋のドアを開けて、食事を運ぶ。なんてタイミングの悪い……と思ったけれど、グッジョブかもしれない。別に、ご飯食べてからでもいいよねーって、私は思った。だけど、ファラは鬼のような形相をしていて、メルディはその横でドン引きしていた。
 美味しそうな匂いが部屋の中にたちこめて、食欲を煽る。今にもお腹の音がなってしまいそう。

「ありがとうございます」

 鬼のような形相のファラがメイドさんを手伝うと、メイドさんは「あ、ありがとうございます」と頭を下げた。そして、頭を上げたあと、私たちの顔を順に見回す。鬼のファラ、私、リッド、メルディ、――キール。メイドさんはキールを凝視すると、すぐにキールに近寄った。

「あなた、あのミンツ大学の学生さん!? きゃあ! すごいです!」

 手を組んで、キラキラとした瞳でキールを見つめるメイドさん。どんどん顔が、キールの顔に迫っていって。
ちょっと押せばすぐにくっついてしまいそうな距離だった。キールは顔を赤くしながらたじろぐ。

「そ、そりゃどうも……」

「うふふ、私料理得意だから今度作ってあげるわ。何か食べたいものとかあります?」

 ぐいぐいと迫るメイドさんに、キールは困惑していた。あれ、なんだかもやもやする……この気持ちは一体?

「オレはハンバーガーがいいな」

「あなたには聞いてません!」

 リッドの言葉にぴしゃりと言い放つ。するとリッドは「あっそ」と苦笑いを浮かべた。
 なにこれ、リッドとキールじゃ全然態度が違うじゃん。

「……」

「で、何がいいですか?」

 メイドさんがにこりとキールに笑いかけると、キールは顔を赤くしながらぎゅっと目を閉じた。

「え、えっと……僕には――」
「彼は私の彼氏なんで、ちょっかい出さないでもらえますか?」

 私はメイドさんからキールを奪取し、メイドさんを鋭く睨みつけた。キールの腕にぎゅっとしがみつき、キールを見つめる。

「キール、料理なら私が作ってあげるね?」

「……なっ、え……あ!?」

 私がにこっと笑いかけると、キールは今までにないくらい顔を真っ赤にした。その様子を見ていたメイドさんは口を尖らせて私たちから離れる。

「なんだ、彼女いたんですね」

 残念そうに頬を膨らませて、部屋を出て行った。

、今の、何だよ……!」

 キールがあたふたとしながら私に問いかけてくる。そして、私ははぁ、とため息をついた。

「好きだよ、キール。私を本当の彼女にしてほしいな」

「っ……あ、当たり前だ! 僕だって、のこと好きだから……!」

 キールはがばっと私を抱きしめた。キールの身体はすごく熱くて、私はくすくすと笑ってしまった。



いつのまにか、好きでした




(てゆーか、みんなの前で告白とか後悔処刑過ぎるだろ!)
(はぁ!? 最初に告ろうとしてきたのはキールでしょ!?)
(こらー! 折角両思いになれたんだから仲良くしなさい!!)



8年くらい前の書き途中のものをようやく仕上げました\(^o^)/
執筆:12年05月05日