番外編 『真夏の休日』



 某分厚い(ある意味熱い)少年誌を仰向けに寝っ転がりながら読んでいた。雑誌も最近はバカにできないくらい分厚くて重さもそれなりにあり、読みづらい。持ち上げていて腕が痛くなる。
 確かに雑誌の面白さも重要よ? でもね。読みやすさも考慮すべきだよ、出版社さん! まぁ、座って読めって話ですよね。雑誌を下にして読めって話ですよね。
 それはともかく。やっと始まったと思っていた夏休みがもう後半に突入してしまった。バイトの日以外は毎日家に篭って汗だくで漫画を読み、汗だくで夢小説を求めてネットサーフィンをし、汗だくで萌えて、汗だくでご飯を食べて、汗だくで眠って汗だくてテレビ見て。汗がベトベトして き も ち わ る い !! 熱い暑い篤い厚いあついアツイATSUI!!! ああ、涼しいところにいきたい! クーラーは一度つけると部屋から出たくなくなるから嫌だ。それ故に冷えすぎて風邪を引く。バイトでレジ打ちやるからつらくなるのだ。
 しかし、暑い。おお、北海道北極南極グリーンランドアラスカロシア冷凍庫ーっ!!
 ――んあ。今日はバイトだった。クーラーの効いた仕事場。涼しくて天国、なんだけど機械や人の熱でそこもまた暑くて涼しいとはいえなかったりする。

「めんどくさー」

 バイトは移動するときが一番の地獄だ。うーん。バイトまで時間はあるから、何か食べていこう。



※ ※ ※ ※ ※



 バイトに必要なものを鞄につめて、私はキッチンに向かった。すると、そこにはリオン君がいた。

「リオン君ー! 暑いよ! どうしてくれんのよさ!」

「知るか」

 シャリシャリと一生懸命にかき氷を作るリオン君に八つ当たり。リオン君は氷をかき終えて冷蔵庫からイチゴシロップを取り出し、2つのかき氷にドポドポとかける。そしてスプーンをさすとその1つを私に渡してくれた。

「コレでも食べてそのトチ狂った頭を落ち着かせろ」

「私にも作ってくれたんだ!? ありがとう!」

 私は嬉々としながらかき氷を受け取った。器から伝わるひんやりとした感じが気持ちいい。そして、口に運ぼうとした瞬間――
 ボトッという音を立てながらかき氷は掬えずに落ちた。
 しかもよく見たら私が今手にしているのはスプーンではなく柄の部分がドラ●もんなフォーク。

「何じゃこりゃあああああっっっ! 何故フォークなんて渡したァ!?」

「ああ、すまない。うっかりしていた」

 バカにしたように私を見て笑うリオン君の背中を殴り、流しにフォークを投げ捨て引き出しから乱暴にスプーンを取り出した。あー恥ずかしい。腹が立つ。わざとだろう、ちくしょう。ソレでなくてもムシ暑くてイライラしてんのに。改めてスプーンでかき氷を口に運べば――冷たい。

「ひゃー、おいしいー」

 でも、それだけで暑さがなくなるなんてことはない。一瞬だけの幸せってほんと儚いね。ああ、額から汗が流れる。シャワー浴びたいけれどどうせまた汗かくしな。――ていうか!

「何でリオン君は全く汗をかいてないの?」

 リオン君の顔には全然汗が付着していない。あああ、あ、ありえない! こんなにクソ暑いのに!!

「何故と言われてもな。かき氷を食べたからじゃないのか?」

「じゃあ、私は何なんだ!! なんか、ずるい」

 私だってかき氷食ってるっての。私もあんまり汗はかかない方なのになぁ。さすがリオン君クオリティ。

「まぁいいや。そんじゃ私はバイト行くから」

 食べ終えたかき氷の容器を流しに置き、バイトの荷物が入った鞄を握り締めた。が、そこで立ち止まる。

「――――」

「どうしたんだ?」

 リオン君が不思議そうに私を見つめた。

「いってらっしゃいのチューは?」

「ほら」

 シャルを突き出すリオン君。シャルは『えぇぇ!? ぼ、僕がにいってらっしゃいのチュー?!は、恥ずかしいですよ坊ちゃん!』と喚く。私は笑顔ででシャルを見下し、踵を返した。

「やっぱいいや。そういうシュミは持ち合わせていないの」

 逃げるように玄関に走る私をシャルを持って「遠慮するな」と追いかけるリオン君。急いで靴を履いて家から飛び出した。太陽の日差しが肌に痛い。背中がジリジリする。う、また余計に汗かいてしまった。



※ ※ ※ ※ ※



 バイトが終わり、家に帰る頃にはほんの少しだけ暑さが和らいでいた。とにかく早く寝転がりたい気分なので自転車を飛ばす。けど暑い。汗もべっとり。喉もカラッカラ。アフリカ地方に住んでいる人たちも毎日、冬でもこんな思いをしているのかな? 携帯の待ち受けを見て、思わず懐かしくなる。リオン君が私のために作ってくれた小さな雪だるま。この画像の題名は密かに「リオン君は雪だるま」。
 ――あぁ。こんなの見てたら余計に暑くなってきた。雪が恋しい。
 家の門が見えてくる。そして自転車を車庫に突っ込ませ、急いで家の中に入った。

「ただいまー」

 先程のように、もしかしたらまたシャルを突きつけてきそうだと用心して靴を脱ぐ。リオン君がいつものようにリビングで「おかえり」とぶっきらぼうに言うのが聞こえた。と、足元にあるあるものに気づく。

『や……やぁ、。おかえり。ご飯にする?シャワーにする?それとも、わ』
「あぁ? 気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇよ。それ以上言ったらへし折るぞ」

 シャルを拾い上げ、リビングに入ってリオン君に抗議する。

「ちょっとリオン君! こんなある意味危ないものを玄関に置いておかないでよ!」

「置いたんじゃない。捨てたんだ」

『ぼ、坊ちゃん!?』

 シャルティエがショックを受ける最中、リオン君は苦笑交じりに「冗談だ」と言った。そして、後ろでなにかごそごそとやっていると、それを私に差し出した。

「何、これ?」

 それを手にとって、まじまじと見つめる。それは、どこからどう見てもホラー映画のDVDで。

「買ってきた。レンタルするのも返しに行くときが面倒だからな」

 え、もしかして私のために?ちょっと待ってよ。水戸黄門のDVD(¥6,300(税込))を買うって言ってたのに。

「そんな目で見るな。こう「暑い暑い」と騒がれてもやかましいと思っただけだ。これで少しは涼しくなると聞いたから……その、静かになってくれるかと――」

 リオン君の顔は赤い。あははは、リオン君ってば嘘をつくのが本当に下手糞だ。
 私はリオン君の隣に座ると、「ありがとう」と微笑んだ。リオン君は一瞬だけ嬉しそうに笑った後、すぐに私からDVDを引っ手繰ってセットし始めた。
 ――少しずつ、少しずつ。リオン君との距離が縮まってゆく。

「ぎゃーーーーーーーー!!! 何これ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いいぎゃーーーーー!!?!!!」

「お、おい!! バカ! しがみつくな!!! 暑いだろう!!!」

 このときは怖くて気づかなかったけど、この映画が終わる頃にはリオン君は大量の汗をかいていた。



執筆:04年09月06日