sweet mission



第一印象は…何だか冷たそうな奴、だった。
その通りとても冷たくて、優しさのかけらもないのではないかと思えたくらいだ。

全く笑わない。というか、笑った顔など見たことが無い。
何が彼をそうさせているのか。何故彼は笑わないのか。
不思議だった。まるで常に見えない仮面を被っているかのよう。
見てみたい、リオンの笑った顔が。

「リオンは何で笑わないんだ?」

私と同じことを思ったのか、スタンがリオンに言い放った。
しかし、リオンは「ヘラヘラする必要がどこにある」と言ってスタンを睨んだ。
するとスタンは「まぁ…」と言葉を濁らせてしまい、結局何も言えなくなってしまう。

そっちこそ。
睨む必要がどこにあるんじゃこのムッツリめ、って感じだ。

私はスタンを背中に庇い、リオンの前へ出た。
リオンは「今度は何だ」といった表情で私を睨みつけてくる。
絶対、怯むもんか。

「笑う門に福来たるって知ってる?笑えないわけじゃないんでしょ?」

私の言葉を聞いて、リオンは鼻で笑った。

「僕は別に幸せになろう何て思っていない」

リオンの私を小ばかにしたような笑い。

…私はそんな笑顔を見たいんじゃねぇんだよ。

たった今心に決めた。
絶対、この笑わねぇ男を壊して爆笑させてやろう、と。

覚悟しやがれ、リオン・マグナス。
私は絶対に貴様を笑わせてみせる…!
フハハ…フハハハハハハハハハハハ!!!!








宿屋にチェックインした後、ターゲット(リオン)は今、一人黙々と本を読んでいる。
私は扉の陰に隠れながらこっそりとガッツポーズを取ると
静かに扉を開けて入室し、リオンの前に立った。
リオンが私に気付き、顔を上げるのを見計らって私は頬に手を当てた。

「リオン、見て!!」

私はリオンの前で顔を崩し、変な顔をした。
するとリオンは呆れたように私を見てため息を吐いた。

「何のつもりだ」

「リオンに笑って欲しくて」

「ブス顔が今日はさらにブスになっているな」

鋭いリオンの言葉に私はかなり傷つく。
女に「ブス」って言うのはタブーじゃないか?

それでも私はグッと堪えて変な顔を続ける。

「オラオラオラオラ!!!笑いやがれ!!!」

自分の顔をこねてリオンが笑うの待つ。
それでもリオンは笑おうとしなかった。

私は顔を崩すのをやめてリオンを睨みつける。

畜生、どうしてこいつはここまでして笑わない!?
この顔を崩して笑わなかったやつは初めてだ…!
っていうかこんな顔崩ししたのは初めてだけどさ。

「無様だな」

クククと喉で笑うリオン。普通に笑ったんじゃなくて、私を馬鹿にした笑いだ。
ムカツクこの冷徹おピンクマント野郎…!

私が恥を忍んで変な顔をしたのに何も利益が無いなんて嫌すぎる。
等価交換が原則なんだぞっ!(どこの世界の原則だ

私はデコに青筋を浮かべてリオンの口元を左右に引っ張る。

するとリオンのアホヅラが完成だ。

「アーハハハハ!!!!リオンのマヌケ顔ー!!」

私が哄笑するのを見てリオンは顔を真っ赤にして私の鳩尾を殴った。
笑っていた私は咳き込みながらその場に座り込む。
くそ…急所を狙ってくるなんてなんて卑劣な…!
しかも一歩間違えればセクハラだっつーの。

リオンは不機嫌そうに本を閉じ、立ち上がる。

「まったく、つまらんことで僕に構うな」

そう吐き捨て、リオンは踵を返して部屋を出て行ってしまった。





ミッション失敗。




…よし、次の作戦を考えよう。
私は諦めない。絶対ヤツを笑わせる。












リオンは一人、森の中にいた。
戦闘の訓練でもしているのだろう。

「り~~~~~~お~~~~~~~~~~んッ!」

「!?」

私は「とうっ」と掛け声と共にリオンに抱きついた。
いきなり抱きつかれたのに驚いたのかリオンは動揺している。
可愛い。そしてこれはこれで新鮮な反応だ。

「笑って?」

そして私の手はリオンの腰元に。

!?」

リオンは慌てて私を引き剥がそうとする。でももう遅いし!
私は手をリオンの腰元でもぞもぞと動し始めた。(NOTセクハラ

名づけて「くすぐり作戦」!!!(まんまだよ

しかし、くすぐってもくすぐってもリオンが笑う気配は無し。
それどころかプルプルと震えている。

「あ…あはは?」

震えていたのは怒りの為で。
私はリオンに鋭く睨まれた。

そして今度はアッパーを食らう。
私はキレーに弧を描いて倒れた。

「…しつこい女は嫌われるぞ」

くそ、なんだか立場が逆なような気がするのは私の気のせいだろうか?
私は起き上がり、リオンを睨んで、ムハハと嘲笑した。

「頑固な男はマリアンさんに嫌われるよ」

するとリオンはゲシゲシと私を足蹴にする。
酷いっ、酷いよリオン!!!
か弱い女の子を足蹴にするなんて!!!

「お前に関係ない。ていうかマリアンは僕の母親代わりの存在だ!」

そうやってムキになるところがますます怪しいんだっつの。

…なんて言ったら今度は本当に殺されかねないから黙っておこうっと。






またもやミッション失敗。







私ははぁ、とため息を吐く。
でも、まだまだ頑張るんだから!

そう意気込んで立ち上がるってリオンを追おうとすると、リオンの背後にモンスターが。
しかもリオンは怒ってて気付いてない…。

私は急いでリオンに駆け寄った。
モンスターが、リオンに襲い掛かる。

そしてリオンが気付くと同時に、私はリオンの前に出て剣を抜いてモンスターを斬った。
しかし、モンスターの方が動きが早くて私は肩に深い傷を負った。

モンスターの断末魔の叫びと共に私は倒れた。
リオンが、私を抱き起こして叫ぶ。

「何故僕を庇ったんだ!僕なんて庇わなきゃお前はこんな怪我を負うことなんてなかっただろう!」

私は肩の痛みで顔を歪ませながら答えた。

「…私、どう、しても…リオンに、笑って欲し…くて」

「バカ者が…!!」

何だか、必死だな…リオン。
こういうときってものすごくからかい甲斐があるのでは?

よし、ちょっと冗談を言ってみよう。

「ね、リオン…私の願い…聞い…てくれる…かなぁ…?」

するとリオンは悲しそうな目で私を見つめ、今にも泣きそうな声で「何だ?」と言った。

うわぁ、騙されてる騙されてる。
私が実はレンズで回復の晶術が使えるとも知らずに…!

「…最後に…笑っ、て…ほしいの…」

「…ああ、いくらでも笑ってやる。笑ってやるから…最後だなんて言うんじゃない!」

突然、血まみれの私をリオンが抱きしめる。
その瞬間、上から水滴が私の頬に落ちてきた。
あ、れ?リオンが泣いてる。本当に泣いちゃってるよ!!

…」

「り、リオン…?」

私が顔を上げると、リオンは今まで見たこともないとても優しい笑顔で私を見ていた。

…か、可愛い…。

なんだか、すごくドキドキするんですけど。
や、ヤバイ。何だかわからないけどとにかくヤヴァイ。
なんだろう、これ。恥ずかしい…ってやつかな?!

逃げなきゃ…っ!!

「ひ…ヒール!!」

私はレンズを用いて回復晶術を唱えた。
するとリオンは目を丸くして顔を真っ青にした。

即座にリオンを突き飛ばし、立ち上がる。
リオンはまだ転んだままで、立とうともしない。
ただ呆然と私を見つめている。

私は赤くなっていく頬を両手で隠しながら呟いた。

「み、見~ちゃ~った…」

「き、貴様ッ!!!!」

ようやく我に戻ったリオンは即座に立ち上がり、私を捕らえようとする。
ヤバイ、逃げなきゃと思ったときにはもう遅くて。
リオンは私を捕まえるとぎゅうぎゅうと首を絞めた。

殺気ムンムンですね、リオンさん。

「り…リオン…く、く…苦じい゛…」

「ふんっ。」

リオンはそのまま私を木に押し付け、首から手を放した。
しかし今度は肩を掴まれる。

何事?と思った矢先、リオンの唇が私の頬に触れた。

私の顔はみるみるうちに真っ赤になる。

「ちょ…何今の!?何今の!!!?」

「ぼ、僕を騙した罰だ」

リオンの顔も真っ赤だ。
そしてリオンは踵を返して走っていってしまった。

こうしてミッションは成功に終わった。だけど、一つ失敗したことがある。
それは私がリオンの笑顔に惚れてしまったということ。



執筆:05年04月03日