「スタンたち、遅いね」
ノイシュタットでイレーヌさんの帰りを待っている時だった。なかなか帰ってこないイレーヌさんに痺れを切らせ、スタンたちはアイスを買い
に行った。リオンは「食べたくない」と言って、このイレーヌさんのお屋敷に残っている。そして私も一緒に残っていた。リオン一人だけ置いてけぼりなんて寂しいだろうと思ったのだ。
リオンは「寂しくなんかない」と言うだろうけれど、実はそれは口だけで本心は寂しいと思ってるはず。長い付き合いでそれはわかる。まったく、そういうところがあるからなかなか友達ができずにいるんだよね。
「お前は行かなくて良かったのか?」
無表情なリオンの問いに私はニッと笑ってみせた。
「だって、リオンから離れたくないんだもん。一緒にいたいから」
少しからかった口調で言ってみせると、リオンの眉間の皺が増える。いつも皺のあるリオンの眉間。年をとったら絶対すごいことになると思った。
「……付き合いきれんな」
私から目を背けるリオンの頬が、ほんのりと赤い。
あ、照れてる。
私はクスクスと小さく笑った。
「……何やってるのかな、スタンたち。アイス買ってきてくれるて言ってたのにね」
アイスを買ってくるだけならば、もう戻ってもおかしくない。だけど一向に戻ってくる気配が無く、私はため息をついた。
「そんなに食べたいなら、お前も今からでも行ってくればいいだろう」
リオンの腰元に収められているシャルも「そうですよー」と言っていた。
いやいや、リオンだけここに残すのも気が引ける。
「じゃ、リオンも一緒に行こうよ」
そっとリオンの手を引けば、リオンは「僕は行かないぞ」と、私の手を解こうとする。私はそんなリオンの態度に少しムッとした。
「言ったでしょ。私はリオンと一緒にいたいって」
先程の冗談を再び引っ張り出し、私はニッと微笑む。するとリオンは諦めたのか解こうとしていた手の力を一気に緩めた。
「まったく……」
溜息を付きながらリオンが歩きだす。
「じゃ、デートを楽しみますかね。世界のリオンファンはきっと嫉妬するかもね」
「言ってろ」
リオンの手を引いたままだったので、どうせだから本当にデートっぽくしようと思い、リオンと手を繋ぐ。ふとリオンの顔をみると、真っ赤になっていた。こういうことには慣れてないんだなぁと、私は微笑む。
イレーヌさんの家のメイドに出かける事を伝えて、私たちは外に出た。
※ ※ ※ ※ ※
街を歩いていると、ちくちくと視線を感じた。
そうだよね。リオンみたいな綺麗な顔した男の子と手を繋いで歩いていれば、気になるよね。
「さっきからすごく視線を感じるのだが」
リオンが目を細める。必要以上に注目されるのは嫌なのだろう。
「そだね。リオンという素敵な男性と堂々と手を繋いで歩いているからね」
「……っ!」
私の言葉を聞いたリオンがまた真っ赤になる。リオンのそんな様子を見て私は笑った。するとリオンは悔しそうに唇をかみ締める。
「は、苦痛に感じないのか?」
リオンの問いに、私は笑顔で答えた。
「苦痛? んなわけないでしょ。むしろ優越感に浸ってるけど?」
「……お前はどうしてそういうことを直球で言えるんだ」
「リオンの反応が可愛いからかな」
にこーっと笑えば、リオンはまた眉間に皺を寄せた。
ふふっ、呆れてる呆れてる。リオンをからかうと本当に反応がいちいち可愛いからやめられないんだよね。
「……ならば、僕も優越感に浸ろう」
「え?」
「だって、そこらの女どもなんかよりずっと……その……っ」
言っていてだんだん恥ずかしくなってきたのか。リオンは顔を真っ赤にしながら「ちっ」と舌打ちをした。
「ぷははっ、リオンには甘いセリフなんて似合わないよー」
「だ、黙れ!!」
けらけらと笑っていると、リオンが怒り出す。そして繋いでいた手を無理矢理離されてしまった。
「あ」と声を上げて、私は離れてしまった私の手をリオンの手を見つめた。リオンは、私を置いてすたすたと足早に歩いていってしまう。
やりすぎたかなーって反省。
リオンを追いかけて顔を覗き込むと、まだ怒っている。
「ごめんね、リオン。怒ったよね?」
「べつに、怒ってなどいない。ただ……」
「ただ?」
「お前は僕をからかっているだけなのだろう?」
一瞬だけ、リオンが悲しそうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。
「あー……えっと。それは」
「お前が言っていることは、僕の反応を楽しむためであって、本心ではないのだろう。大体、迷惑なんだ。僕は……からかわれたりするのは大嫌いなんだ」
迷惑、と言われて私はドキッとした。このままじゃ、嫌われちゃうかもしれない。そんなの、嫌だ。
「あの……本心、だったらダメ?」
「何?」
呟くように吐いた台詞に、リオンが目を細める。
「本心、だと?」
何故だろう。急に恥ずかしくなってきた。この感情は一体何なんだろう。
「さ、さーて! アイスはどこで売ってるのかなー!」
アイスーどこー! と叫んで私はリオンを追い越した。真っ赤になってしまった私の顔を見られたくなくて、リオンの前を歩く。すると、リオンが後ろから私を抱きしめてきた。
「り、リオン!?」
「しばらく、こうしていたいんだ」
伝われ、僕の気持ち
(うふふふ、あんたたち、こーんなとこで何してるのぉ?)
(る、ルーティ! こ、これはねっ、えっと、寒かったからリオンで暖をとってただけなの!)
(お前たちが遅かったからとデートしていたのだが? 言っておくが、邪魔をするなよ)
((リオンがおかしくなっちゃった!!))
執筆:10年11月3日