歓喜の咆哮
私とモーゼスは同じ集落の出身だ。
幼い頃からずっと2人でバカやってきたし、本当の兄妹のように過ごしてきた。
私も魔物使いで、少し前まではパートナーである魔物と一緒だった。
だけど、魔物使いの宿命である”野生化”の時が来て、
私はパートナーであった魔物を自らの手にかけた。
悲しかったけれど、モーゼスが傍にいてくれて、慰めてくれたから
忘れることはできなくても、立ち直ることができた。
モーゼスには、本当に感謝している。
モーゼスは私の大切な友達のはず…
なのに、モーゼスは最近、私を避けているような気がする。
私、何かモーゼスにしてしまったのか。
いろいろと心当たりを考えてはみたものの、何も心当たりは無かった。
私が何かしたのか、本人に聞いてみる。
しかし答えは決まって「何も。」の一言。
ではどうして避けるのかと問いかけると
「避けとらん。」と返ってくる。
私は目の前にいるモーゼスを睨みつけた。
何もなくて避けてないんだったらどうしてこんなに距離があるのさ。
今、私とモーゼスは互いに向き合いながら話している。
普通に話せる位置だし、距離も近い。
だけど、こう…雰囲気的には遠く感じるんだ。
私とモーゼスの間に見えない壁があるようにも思える。
その壁はきっと、モーゼスが作り出している。
「ふざけんなよ」
モーゼスを蹴り、暴言吐き捨てる。
「…ったいの。突然何すんじゃワレ!」
「うっさい!勝負じゃ!!」
モーゼスの喋り方を真似て、私は武器であるヌンチャクを構えた。
「おぉ、喧嘩上等じゃーー!」
ヒョオオオという奇声を発しながらかかってくるモーゼス。
私は軽々とモーゼスの攻撃を避けて、モーゼスに一撃加える。
「喧嘩、買ってくれたんでしょ?だったらもっと真面目にやれ!」
「うるさいの、今のはただの小手調べじゃ!」
そう言ってモーゼスは体制を整えて槍を構えた。
こうして、喧嘩しているときのモーゼスは何があっても壁がなくなるから好き。
きっと勝つことに執着して壁を作る余裕すらなくなるんだ。
いつもそうだ。
だから私はモーゼスが壁を作るたびに喧嘩を売る。
「シャンドルとは本当に仲がいいのだな」
そう言ったのは近くで見ていたクロエだった。
クロエは取っ組み合いをしている私とモーゼスを見てため息をついた。
「仲がいいっていうか…私ら既に恋人同士だし?」
「そっ、そうじゃったんか!?」
「赤くなってんじゃねぇよバーカ。嘘に決まってんだろ。はい、スキあり」
私はモーゼスのスネを蹴り、モーゼスは奇声を上げながらその場に倒れた。
「ひ、卑怯じゃ!!もう一回勝負じゃ!!納得いかんわ!だいたい、ワイには姉さんが…」
痛そうにスネを抱えるモーゼス。
こんな状態でもう一度勝負を挑む彼には本当、呆れてしまう。
…そして、モーゼスの最後の言葉に私は不快感を持った。
小さい時からずっと一緒だった私よりも、グリューネさんか。
「そんな痛そうにスネを抱えてるくせに…無駄無駄。
だいたい、あんな嘘信じるあんたがいけないんじゃん、すっごいスキだらけにしちゃってさ」
バカだね。
そう吐き捨てて私は踵を返した。
モーゼスは「なんじゃと!?」と怒りをあらわにして私に掴みかかる。
それを見ていたクロエが慌てだす。
「シャンドル!?…も何を言っているんだ!!」
モーゼスはクロエをまるっきり無視して私を睨みつける。
だけど、私は動じない。自分の言ったこと、後悔もしてない。
「ふーん、もう足は痛くないの?残念。もっと強く蹴っておけばよかった?」
モーゼスは私の言葉に、怒りを増したようだった。
「…っの!!」
「最初からそうやって真剣にやれよな!」
私がそう言った次の瞬間、頭に痛みが走る。
モーゼスの槍の柄の部分で叩かれたのだ。
「…もうええわ。やる気が萎えた」
モーゼスは声のトーンを低くしながら、踵を返して、行ってしまった。
その場に残された私とクロエは呆然とモーゼスの背中を見送る。
しばらくして、クロエが私に駆け寄り、怪我は無いか診てくれた。
「それにしても、どうしてあんなシャンドルを煽ることを言うんだ。
シャンドルだって、既に本気だったぞ?それを煽ったらただの掠り傷じゃ済まなかったぞ?」
クロエの言葉が、痛い。
「多分、嫉妬。私より、グリューネさんを選んだと思ったらつい…」
私はグリューネさんみたく巨乳でもなければ天然でもない。
男受けが悪い、ボーイッシュな感じな女だし。
まさに女の中の男といった感じだ。
「もっと男受けがよく生まれてたら…」
「(男受け…?)…それならば、男受けがよくなるように努力したらどうだ?」
「例えば?」
「そうだな、例えば…」
猫耳メイド、とか?
…マジすか。
その夜、私は野営地で夕飯の支度をしていた。
モーゼスたちはまだ帰ってきていない。
帰ってきたら、このご馳走をたらふく食べさせてあげるんだ。
おっと、向こうの方からざわざわと声が。
ついに帰ってきたか。
…ふ、女山賊のプライドも何もかも捨てたんだから
絶対にモーゼスを振り向かせてやる。
ふふふ…それにしても…本当に…プライドがズタズタだわぁ。
だって、今の私の格好は…
猫耳+メイド服。
そしてミミー・ブレッド氏を参考に語尾に「にゃ」をつけてみた。
これが男の萌えポイントを突くというらしいから不思議だ。
そして何故そんなことをクロエが知っていたのか謎だ。
「ただいま、…え?!?」
私をひと目見たチャバが「キャーーー!?」と悲鳴を上げる。
それを合図に、みんなの視線が一気に私に集まった。
私は「えへ★」と舌を出しながら笑う。
「おかえりなさいだにゃ、ご主人様」
私はモーゼスに駆け寄って、頭を下げる。
私を見たモーゼスは口をあんぐりと開けて放心していた。
「にゃ?」
「いや、『にゃ』って…言われてものぉ…どうしたんじゃ、一体」
「ご主人様のために、頑張ったにゃ!」
プライドを捨ててね。
「…ちと、こっち来るんじゃ」
「にゃー!?」
私はモーゼスに腕を引っ張られて、噴水広場まで連れて行かれた。
「何だにゃ?こんなところまでつれてきて何するにゃ?」
「…すまん、いい加減その話し方は止めちょくれ」
脱力したモーゼスを見て、私は舌打ちをした。
「萌えないの?」
「萌えんわ!!」
折角プライドを捨ててまでこんなことをしたのに、モーゼスは萌えてくれなかったそうだ。
結構ショックだったりするが、あえて表情には出さないように努める。
だけど、私の顔は正直だ。
歪んだ。
「…こんなことするヤツだとは思っとらんかった…」
やれやれと、首を振られてしまった。
そんなモーゼスの態度に、私は少しだけ腹を立てる。
「モーゼスがいけないんだもん」
「ワイのせいか!?」
モーゼスが…私を見てくれないから。
これが、正直、モーゼスに伝えたい気持ち。
だけど、私にはそんなことを言う勇気なんて持ち合わせていない。
今更ではあるけど、自分の無力さを痛感した。
今だけ…今だけでいい。グリューネさんになりたい。
グリューネさんみたく思ったことを口にしたい。
…って。グリューネさんに嫉妬したくせに何を思ってる、自分。
ああ、なんだか腹立ってきた。
「そう、これは全部モーゼスのせい!!モーゼスはいつも一緒だった私よりもグリューネさんを選んだんだもん。
それに、最近モーゼスは私のこと避けてるみたいだしさ!私ら、友達じゃないの!?」
言い切ったときに、私は後悔する。
嫉妬してんの、まるわかりじゃん…!!
すっごく、恥ずかしい。
モーゼスは私の言葉を聞いて、目を丸くしていた。
そして、ムキになりながら口を開く。
「友達じゃ!じゃが、これにはちゃんと理由があるんじゃ…」
モーゼスは一旦息をついて、再び話し始めた。
「…ワイがを避けたんは…のことが好きだからこそじゃ。
ワイのことを友達と思っちょるに、ワイは…恋、してしもうたからの。
こんなワイの気持ちがバレて、今まで築きあげてきたものが崩れるのが怖かったんじゃ」
照れくさそうな、モーゼスの声。
モーゼスの言葉が、凄く優しい。
「それに、姉さんの名前出しときゃ、嫉妬してくれるかと思うての。…すまんかった」
「バーーーカ」
愛の告白の返事第一声が、これ。
モーゼスは呆然として、私を凝視している。
一方私は猫耳を外して、その猫耳をモーゼスにつけた。
「友達とは思ってる。けど私だってモーゼスに恋してるんだから」
「…………!」
私の言葉を呆然と聞いていたモーゼスは、ワンテンポ遅れて顔を笑顔で歪ませた。
そして次の瞬間
「ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
声高らかに奇声を上げる、モーゼス。
その奇声は今まで聞いた中で一番嬉しそうに聞こえた。
「ほらほら、近所迷惑。騒音だって、それ」
「今夜だけは構わんじゃろ!ヒョオオオオオオオオオオオオ!!」
「ウィルさんに殴られても知らないからね」
そう言いつつも、私も奇声を上げて喜びたい気分だったりした。
気持ちを伝えずにいるよりも、伝えた方が、すっきりできるもんだなぁと私は悟った
執筆:05年9月26日