仲間は大切に



今日も元気にお仕事、お仕事。
だけど、今回の仕事はちょっと危険だったりする。
そう、今回の仕事はちょいと危険なモンスター退治である。
…やだなぁ。私、僧侶を極めたいんだよね。
だからといって僧侶のまま凶悪なモンスター退治しに行くってのも危ないし…。

「皆にも手伝ってもらえば良いじゃん」

私の隣をパタパタと飛び回りながら、モルモがポツリと言った。

「そだね。やっぱり頼りになる仲間は必要だよね!」

こんな か弱い(強調) 僧侶一人じゃ危ないもんね。
誰かを誘ってからモンスター退治をしよう。
そう思って、まずはドープルーンの宿屋に向かった。










珍しく、宿屋にルークとリオンがいて。
二人は何か言い争っているようだった。
ルークもリオンも、すごく怒ってる。
何があったんだろうと思い、二人に近づく。
すると、ルークとリオンは私に気づき、二人同時に私を睨み付けた。
…怖い。
そう思いながら二人の迫力に押され、私は顔を引きつらせながら一歩さがった。

「な、何?どうかしたの?」

それでも、この二人を無視するわけにもいかず、
恐る恐る訊ねると、ルークが頬を膨らませながら訴えた。

「どうかしたの?じゃねーよ。おい、
今、俺の目の前でこの生意気なヤツを泣かせろ。そしてこの俺様に詫びを入れさせろ」

「いや、オイ。無茶言わないでよ」

お前はどこぞのガキ大将かとツッコミたくなる。
ルークの滅茶苦茶な命令に呆れていると、今度はリオンがルークを鼻で笑った。

「見ろ。お前のバカな発言でが困ってるじゃないか」

「何だと?!」

リオンの言葉に青筋を浮かべるルーク。
まさに一触即発とはこのことで。
そんな二人に挟まれている私は、危険地帯に踏み込んでしまったことをとても後悔している。
モルモに救助の視線を送るも、知らん振りされてしまい。
…モルモめ。後で覚えてなさいよね。

「お前らさ、いい加減にしろよな」

そう言って私に助け舟を出してくれたのは、ご飯を食べていたリッドだった。
私は目を輝かせながらリッドを見つめる。
うわあ、リッド!私、今なら君に100回無償でファーストエイドしてあげてもいいくらいさ!

「落ち着いてメシも食えねーよ」

…と、言ってリッドは再びご飯にかぶりつく。
………は。結局はメシですか。
私よりもメシですか。そうですか。
君には後でピコハンを100回だかんね。

「とりあえず、どうして二人が喧嘩してるのか理由を教えてくれると助かるんだけどな」

作り笑顔で頑張っている私は、健気だと自分で思う。
ルークとリオンは、目も合わせようとせずにお互いソッポ向きながら話し始めた。

「僕は、こいつがデザートのプリンを一口食べただけで残りを捨てようとしたから注意しただけだ。」

「だから、それがウゼーっつーの。プリンごときでいちいちウゼーんだよお前。
もこいつウゼーだろ?なんかすっげー生意気だしよ」

お前が言うなよ、お前が。
喉元まで出掛かったけれど、私はその言葉を危ういところで飲み込んだ。
ここで水を差すようなことを言っちゃいけない。
大人の対応だ。大人の対応が…大人の対応が大切なんだ。
そう自分に言い聞かせ、私は深く息を吸い込んだ。

「まぁ、一口食べただけで捨てようとするなんて、作ってくれた人にも失礼だし、
何よりも、食料を無駄にしたらこの宿屋の経営者であるルーティさんがキレると思うけど。
でも、リオンのことだし、相当キツい注意の仕方だったんでしょ?
この場合、二人とも悪いってことで。はい、お互いに謝る!!」

こうして責任を二人に取らせれば丸く収まるはず。
…なのだが、二人にはまったく通用しなかった。

「何で俺がコイツに謝るんだよ。お前バカじゃねーの?」

「僕は謝るようなことをした覚えは無い」

プライドの高い二人は、謝り慣れていないのであって、そう簡単に謝るなんてコトはできない。
…ああ、頭が痛い。
どうして私は今この場に来てしまったのだろう。
何で私が責められなきゃならないんだろう。
私はただ、手伝ってくれる人を誘おうとしただけなのに…っ!

プツンと、私の中で何かが切れる音がした。

「…じゃあ、いつまでも二人で喧嘩してればいいじゃない」

「…は?」

「お前何言って…」

ルークとリオンがお互いの顔を見合わせ、そして私を見つめる。
私はそんなことには構わず話を続けた。

「二人とも謝らないんでしょう?それならずーーーっと喧嘩してれば?
なんならさ、これから私と3人でモンスター退治しに行こうよ?
丁度一緒に言ってくれる人探してたのよね。ありがとう。手間が省けたわー。
でも、あんたらが仲直りしないなら、私はどっちにも回復してあげないからね?
だって、贔屓とか思われたくないものー。それでもいいよねぇ?
ていうかお前ら一度仲間の大切さを思い知るために半殺しにされた方がいいんじゃない?」

そう、大切なものを失ってからそれが大切だったって気づくんだって話、よくあるじゃない。
一回…いや、わかるまで痛い目見たほうがいいわ。

「…がキレた…」

モルモが真っ青になりながら呟く。
辺りはしーんとしていて、宿屋にいた全員が私たちを見ている。

「…そ、そうだよな。仲間って大事だよな、うん。
ごめんな。もっと早く気づけばよかったよな」

「すまなかった、。もうつまらないことで喧嘩はしないと誓う」

ルークとリオンが冷や汗をかきながら私に頭を下げる。

「…君たち、頭を下げる相手を間違えてるわよ」

私は笑顔でそう言いながら二人の頭を鷲掴みにし、それを強引に向かい合わせた。

「何か言うことは?」

私の威圧に押されたのか、二人は震えながら互いに謝る。

「…悪かったよ」
「すまなかった」

「よし、これで喧嘩は解決だね。今日もいい仕事したわ」

ルークとリオンが仲直りしたところで、私は一息入れようと、ナナリーに紅茶を頼んだ。
ナナリーはビクビクしながら紅茶を淹れてくれている。

「ところで、。お前一人でも凶悪なモンスター倒せるんじゃないか?」

ニシシとリッドが笑う。

「うん。そうかもしれないね」

ナナリーが淹れてくれた紅茶を啜り、私はリッドにしか聞こえないように呟いた。

「リッド、あとでツラ貸してね」

真っ黒僧侶・様とは私のこと。
この一件のおかげで私が僧侶のときのイメージは「か弱い」から「腹黒」になった。
腹いせに、ルークとリオンをこき使いまくったのはまた別のお話。




執筆:07年2月7日