って可愛いし、モテるよね」

今回の事件の発端は、カノンノのこの一言から始まった。

おにぎりを頬張っていた私はごはんを飲み込んで、首を横に振る。
いや、生まれてこのかたモテたことがない…!
告白したことはないし、されたこともない!!

「あのー。カノンノ、それは勘違いだよ?もし仮に私がモテたとしよう。
そしたらね、今頃私は彼氏とラブラブいちゃいちゃで今この時カノンノとお昼を一緒にしてないからね。
はい、ダーリン、あーん☆とかやってると思うのよ」

するとカノンノはうーんと唸りだす。

「でも、私が聞いた話では…」
「何々!?恋バナ!?そーゆー話ならアーチェさんも混ぜてよ!」

突然カノンノの後ろから現れたアーチェに、私とカノンノは目を見開いた。

やばい。

直感的にそう思った。
アーチェの前でこの手の話はしてはいけない。
何故なら…

ってカレシ欲しいんでしょ?あたしが手伝ってあげる!」

「いや、別n」
「で?で?的にタイプは誰?!」

反論できず、結局アーチェに流されるまま、流されるまま…。
私とカノンノはこっそりとため息をついた。













アーチェによる「ちゃんの彼氏作ろう作戦」は実践される。
私とカノンノはあまり乗り気ではないけれど、アーチェはとてもノリノリだ。
自分のことじゃないと思って…。
かなり迷惑…だなんて本人には言えないけれど。
そんな私の考えにお構いなくアーチェは次々男性の名前を挙げていく。

「ユーリなんてどう?あんたたち結構仲いいっぽいじゃん」

私はユーリの顔を思い浮かべた。
確かに私とユーリは仲がいいけれど…ユーリは他の女の子とも仲がいい。

「ユーリは…あれでなんか常に女の子侍らせてるから浮気しそうで嫌ね」

私の答えを聞いたアーチェはプッと噴出した。

「そうねぇ。んじゃ、ルークは?あいつんち、金持ちだし玉の輿じゃない?」

ルークかぁ。
なんだかティアとよく一緒にいるし、しかも尻に敷かれてる気がするんだけど。

「ルークにはティアがいるっぽいし…」

このままバンエルティア号にいる男性陣の名を全て挙げていくつもりだろうか。

「あ、。リオンなんてどう?ほら、あいつ顔だけはいいじゃん」

うーん、リオン…リオンねぇ。
私はリオンのことを思い浮かべてみる。
まぁ、確かに他の女性との話は聞いた事ないし…。

「アーチェ、顔だけって。それはリオンに失礼だよ…」

カノンノは冷や汗をかいて苦笑した。

「あたしはに聞いてんの。で、どうなの?」

ただ、最近の記憶ではリオンとはあまりいい思い出がない。

「リオンは…私の顔を見るなり「フン、能天気な女め」とか言うし「バカ」呼ばわりするし…。
なんか、後々付き合うことを考えるとストレスで死ねそうだなー」

リオンと付き合えても、きっとリオンは私のことを卑下するんだろうな。
恋人同士の甘い時間なんて期待できそうにない。ええ、全く。
私は、「好きだよ」とか「愛してる」っていっぱい言ってくれる人がいいな。

「うっはー…、カワイソーだけどリオンも却下ね」

アーチェは舌打ちをした。
私とアーチェのやりとりを見たカノンノは慌てて私たちを制止する。

「ちょ、ちょっと待って!もう少ししっかり考えよう?の気持ちは?
リオンのこと、好きだなぁって思ったりはしないの?」

突然必死になるカノンノ。
そんなカノンノを見て、アーチェは眉間に皺を寄せた。

「何、カノンノ。そんなに必死になってさ。あんたはリオンとをくっつけたいわけ?」

「えっ!?あ、いや…そういうわけじゃ…」

ごめんと一言言って、カノンノは黙り込んでしまった。
重く感じるこの空気。
う、私がはっきりしないからいけないんだろうな。

「えっとー…私は皆好きだし。特にこの人が好きっていうのは正直まだよくわからないかな」

彼氏がいるということには憧れるけれど…
人を好きになったことのない私にはまだ早いのかな、なんて考えてしまう。

「ほほう、は初恋もまだなのねー。仕方ないか!ディセンダーだもんね!生まれたばっかだし!」

「恋はいいわよー」とアーチェ。
…へぇ、アーチェはもう誰かに恋をしているんだなぁ。
そんな幸せそうに笑うアーチェとは裏腹に、隣でカノンノが険しい表情をしていた。

は、本当に好きな人ができるまで待った方がいいんじゃないかな。
彼氏って欲しいからって無理に作るものじゃないと思うんだけど…」

「バッカねー。恋にはきっかけが必要なのよ。だからあたしらがにきっかけを作ってあげんの!」

「そうなの…?」

「そうなの!」

何だかもう、アーチェが一方的に楽しんでいるようにも見えるけど、
アーチェだって私の為にしてくれてるんだよね。
きっかけ、あればいいな。
そう思っていた時、アーチェが話しながら歩いているリッドを見つけ、声をかけた。

「あ、リッドじゃん!」

アーチェの声に気付いたリッドがこちらに向かってくる。
両腕にたくさんの食材を抱えているところからすると、クエストに行ってきた帰りなのだろう。

「ああ、アーチェととカノンノじゃねぇか。3人で何してんだ?」

「それはねー」と言った後、アーチェはリッドの耳元で囁いた。

のこと、どう思う?可愛いと思う?」

突然こんなことを聞かれたリッドは「ぶっ」っと噴き出した。
食材がばらばらとリッドの腕から落ちていく。

「な、何聞いてんだよ…!」

「やだっ!!この反応ー!リッドは脈アリなんじゃない!?
前から思ってたけど、とリッドって結構一緒に依頼受けてるじゃん!」

リッドの腕から落ちてしまった食材を拾いながら私は驚愕する。

「そ、そんなこと言われても…!!」

アーチェのバカ。恥ずかしいじゃんか。
うう、私まで顔が赤くなる!

「ご、ごめんねリッド。アーチェが変なこと言って…」

「いや、気にしてねぇよ。…それに、オレはのこと、その…可愛いと思ってるしよ」

「…っ!?」

リッドの照れる仕草と言葉に、私の胸が高鳴った。
どうしよ、ドキドキいってるよ私!
恥ずかしいという気持ちとは別の感情が…?

「ありゃりゃ、お熱いこって」

ニヤニヤ笑うアーチェの言葉に、私は現実に戻された。
いやいやいや、今のは…!!

「ちょ、ちょっと待って!!あのね…っ!!」

カノンノが私の腕を引く。
その時だった。

「そうだな。お前ら、相当仲がいいみたいだな」

後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには

「あ、リオン…!」

私を睨みつけているリオン。
こ、怖ッ!!何でそんなおっかない目つきで私を睨むの!?
カノンノは「どうしよう、どうしよう」と落ち着かない様子で私たちを見ている。
アーチェはリオンとカノンノと私を見て「なるほど」と呟いていた。
二人にSOSそ視線を送ってみるも、二人は同時に首を横に振った。
ど、どうしろっていうの…!私、リオンに何か悪いことでもしたっけ!?

「な、何でしょうか…」

「べつに」

いつも以上にツンツンした態度。
私、何かおかしなことしましたか?
よく思い出そう。…いいえ、何もしていません。
本当に心当たりはない?とんでもない。全くです。
自問自答を繰り返しているうちに、リッドが私を庇うようにリオンと私の間に入った。

が怯えてるじゃねーか。リオンはに何か用事でもあるのか?」

リッドの言葉に、リオンの眉間の皴が増える。

「依頼を受けてもらおうと思っただけだ」

二人のオーラが恐ろしく感じられた。
ちょ、ちょっと待ってくださいよ。この禍々しく重圧な空気は何?

「あ、あの…。依頼ならちゃんと受けるから。で、どんな依頼内容ですかー…?」

一触即発の雰囲気がすごく怖い。
だけど、なんだか知らないけれど私が原因な気がするから私が何とかしなきゃ。
私はリッドとリオンの間に入って、恐る恐るリオンを見つめた。

「僕と勝負してほしかった…が」

「が?」

リオンは言葉の続きを言わず、鋭くリッドを睨みつける。

「何だよ?」

怒気を含んだリッドの声。
私は振り返りリッドを見ると、リッドもまたリオンを睨んでいた。

「気が変わった。リッド、僕と勝負しろ」

私が慌てて「止めようよ!」と制止するも、リオンとリッドは睨み合いを続けた。
リッドの腕を引き、「断ろうよ!」と促すのも虚しく、リッドはニヤリと笑った。

「いいぜ。お前とはいつか決着つけようと思ってたからな」

何の決着さ。
胸の内でツッコむも、二人が恐ろしくて口に出せなかった。











リッドが受けた依頼のはずなのに、何故か私とカノンノとアーチェもその場にいた。
雰囲気に流されてここ、サンゴの森までついてきてしまったのだが。

「…何で私たちまでついてこなきゃいけないのかな?」

こっそりとカノンノに耳打ちすれば、カノンノはあははと苦笑するだけだった。

「カノンノはリオンを応援するんでしょ?なら、あたしはリッドを応援するから」

アーチェがカノンノにそう言うと、カノンノは目を瞬かせる。

「わかった。でも、私は本当にリオンには勝って欲しいと思ってるから」

力強く頷く二人。
うん、まさかとは思っていた。そうでなければいいと思っていた。
だけど、この状況ってやっぱり…。

「アーチェ、カノンノ…もしかして二人が決着つける理由は私にあったりするのかな?」

そう訊ねれば、アーチェとカノンノは顔を見合わせる。

「今更何言ってんのよ、当たり前でしょ。二人はのことが好きなんじゃん。
だからにいいとこ見せようとしてるんでしょ。このモテ子め」

「あ…あはは」

私が苦笑していると、カノンノが私の袖をきゅっと握った。

「ごめんね、。私、前からリオンがのことを好きだって知ってたの。
リオンは素直になれないだけで、本当はすごくのことを気にかけてるんだよ。
でも、リッドものことが好きなんだね…とても真剣な顔してる」

「そう、なんだ…」

確かに、リオンはいつも私のことバカにしてくるけれど、
一緒に依頼をこなしてくれるときはいつだって私を助けてくれて、守ってくれてた。
だけど、リッドだって…いつも優しくしてくれて、さっきだって可愛いって言ってくれた。

「わからない。どっちかなんて決められない…」

自分の気持ちがわからない。
ただ、はっきりしているのは…私は今後も二人と仲良くしていきたいということ。
だから、この決闘は無意味だということ。

「いくぜ、リオン!」

「来い、リッド!」

リッドが攻撃を仕掛け、リオンはそれを受け止めた。
どうしよう、どっちも応援できない。
だって、リッドもリオンも私にとって大切な…仲間だ。



だから今はこのままで





(くそ、引き分けか…)
(次こそは決着をつけるからな)
(あのー…私、今は誰とも付き合う気ないんで)
((…………))




1年くらい前書いてたのに途中放棄してたものを引っ張り出したので

執筆:10年1月25日