ラムダとの戦いの後、わたし達を取り巻く環境は少しずつ変わっていった。
幼馴染たち、一緒に旅をしてきた仲間たちと手紙のやり取りをするたびにビックリさせられる。
アスベルもヒューバートも、お見合いの話が来ていると言う。
教官も世界中の港に恋人がいるとか聞いたし。
幼馴染の中でそんな話が出ていないのは今のところリチャードとシェリアとわたしとソフィくらいかな。

愛しのリチャードにお見合いの話なんて…そんなものがきたらは…は…!!

ラントのお屋敷の一室でわたしは悶々としていた。
リチャードがラムダに操られていたとき、リチャードの力での家は吹き飛んだ。
家族は借家に住んでいるけれど、わたしだけはアスベルのお手伝いさんとしてお屋敷に住んでいた。
でも、はリチャードのこと大好きだから全然恨んでない。
は小さい頃から、リチャードに恋心を抱いてた。
大人になって更にステキになったリチャードはまさににとっての王子様。
…本当に王子様で今は王様なんだけどさ。

、さっきリチャードから手紙が届いたんだけど…。」

ノックも無しに突然アスベルが部屋の扉を開けた。

「あ…アスベル。乙女の部屋にノック無しで入るなんて紳士失格だね…。」

あははと苦笑すれば、アスベルは慌てて「ごめん」って謝る。
いくら幼馴染とはいえ、異性だ。兄弟じゃないんだから、その辺もっと考えてもらいたいな。
そんなことを考えながら、アスベルが手にしている豪華そうな模様の入った手紙を見つめた。
リチャードからの手紙ってあれかな。

に早く教えたくて…。で、これがリチャードからの手紙だ。」

アスベルはそれをわたしに手渡してくれると、すぐに部屋を出て行ってしまった。
リチャードからの手紙…。
アスベルだけじゃなく、にも宛てて書いてくれたなんて嬉しい。
ああ、リチャード。あなたへの愛が日に日に大きくなっていくよ。
二つ折りになっている手紙を丁寧に捲って、リチャードの文字を確認。
彼独特のくせ字を見ただけでの胸はドキドキする。

へ。あの戦いから半年ほど経つけれど、そちらは変わりありませんか?
僕の方は(略)あと、デールが持ってくるお見合いの話が大変でね。(以下略)』

「………。」

手紙の内容を読み終え、わたしは思わず手紙をぐしゃりと握りつぶした。
リチャードに、お見合いの話…だと?!
そんな、どうしよう。リチャードがの知らない女と結婚しちゃう!
デールさんめ!お見合い申し込みやがった女どもめ!
早くなんとかしなきゃ…!










アスベルに一週間ほど休みもらい、バロニアに行く許可を貰った。
もちろん、リチャードに会いに行くと伝えた。
アスベルもリチャードに会いたがっていたけれど、執務が忙しいのでわたし一人だ。
お土産のりんごをいっぱい持って、城に向かう。
リチャードの計らいでわたしはすぐにリチャードと会うことができた。
…といっても、正式なものではないから会うのは城の外でだ。
大翠緑石の前で待ち合わせ。少しだけ恋人気分に浸りながらリチャードを待つ。
久しぶりの再会で、緊張する。
うう、リチャードまたカッコよくなったかな?、メイクおかしくないかな?髪型崩れてないかな?
いつもより頑張っておしゃれして、リチャードを待つは周りからどんな目で見られてるかな。

「お嬢さん、もしよかったらこれからお茶しませんか。」

背後から声をかけられた。
うわ、ナンパ?
今わたしはそんなのに構ってる暇ないんだけど。

「すいません、人と待ち合わせてるのでー………。」

わたしの目の前には、リチャードが。

「すまないね、あまりにも可愛いからつい声をかけてしまったよ。久しぶりだね、。」

不意打ちだ。
大好きなリチャードが目の前にいるだけじゃなくて、甘いセリフを吐いてくれたんだから
わたしの心臓は爆発寸前だ。止まれ、止まれ、落ち着けの心臓!

「リチャード…っ!」

声に出すのも必死なくらい、再会が嬉しかった。
そんなわたしを見て、リチャードはくすっと小さく笑う。

「大袈裟だね。二度と会えないと思ってた家族に会えたような顔だよ。」

「だって、だって!すっごく会いたかったんだもん!」

今すぐ飛びついてしまいたい衝動を抑えて、わたしはスカートの裾を握る。
手が汗ばんでいた。

「僕も会いたかったよ。アスベルにも、会いたかったけれど…彼も忙しいのだね。」

そう言ってリチャードは少し寂しそうな顔をした。
わたしだけが来ても、リチャードはやっぱり寂しいのかな。
わたしじゃなくてアスベルだったら、リチャードは寂しがってくれたかな。

「……。」

ちょっとだけ、気分が沈んだ。

「場所を変えよう、もっと落ち着いて話がしたいからね。」

リチャードがわたしの手を握った。
温かいリチャードの手が少し冷たかったわたしの手を温めてくれる。
わたしはそっとリチャードの手を握り返した。
すると、ただ握られてただけだった手は指を絡めあって、恋人繋ぎになった。

「リチャード…っ。」

恥ずかしさでぎゅっと目を閉じた後、そっとリチャードを見れば
リチャードは優しく微笑んでくれた。













そのままリチャードに連れられて、酒場のVIPルームで落ち着く事になった。
昼間からお酒を…ましてやリチャードの目の前で飲むわけにもいかず、紅茶を頼んだ。
リチャードも紅茶と、納豆トーストを頼んでいた。

「納豆トーストっておいしいの?」

お店のメニュー表にも載っていない。
きっと、リチャードによるリチャードのためのメニューなんだ。

「意外とおいしいよ。も食べてみたらどうだい?食わず嫌いはいけないよ。」

「う…じゃあ、いただきます。」

リチャードに諭され、食べてみようと思ったけれど。
ニオイといい、ネバネバといい、本当に食べ物かこれはって感じだ。
わたしが躊躇っているのに対し、リチャードはおいしそうにそれを食べている。
リチャードがおいしそうに食べているんだから、本当においしいんだろうな。

「…手紙読んだよ。リチャードにもお見合いの話が来てるんだね。」

とりあえず別の話題に持ちこみ、納豆トーストをお皿の上に置く。
リチャードは目を丸くして、紅茶を啜った。

「にも、ということは…僕の他にもそんな話が来ているのかい?」

「うん、アスベルとヒューバート。ヒューバートは、大統領の娘さんと…って話しみたい。」

「そうか…二人もそれなりの地位にいるから大変だね。で、シェリアさんはそのことは…?」

リチャードが言いたいのはきっと、アスベルとのことだ。
アスベルとシェリアは見た感じお互い好き合っているのに、どちらかの告白待ちといった感じ。
なのに、アスベルにお見合い話がきてるというのだから、シェリアの存在はやっぱり気になるよね。

「ううん、多分知らないと思う。でも、ケリー様がアスベルには早く結婚してもらいたいらしくて、
次々とお見合い写真を持ってきてるらしいの。だから、シェリアにも知らせた方がいいのかなぁ。」

わたしも数日前にお見合い写真をアスベルの部屋に持っていくようにケリー様に言われた事を思い出した。
あの量はハンパなかった。みんな可愛い顔してた。
中にはどうみても15歳以下にしか見えない子もいたけれど。

「アスベル…はっきりと言ってしまえばいいのに。」

リチャードが苦笑いをする。
それはわたしも、否、みんなが思っていることだ。
特にわたしは近くでずっとシェリアを見てきたから、強くそう思う。

「本当だよね。アスベルってば鈍い。シェリアは何年も待ってるのに…。
ああ、早くシェリアに告白しちゃえばいいのに、ヘタレなんだから。」

自分で言って、ハッとした。
それはわたしだってそうだ。人のこと言えない。
小さい頃からリチャードを想い続けてきた。けれど自分の想いを伝えられずにいる。
アスベルと変わらないじゃない。わたしも、ヘタレなんだ。
だけど、わたしの場合、相手は一国の王様。
こんな田舎庶民のわたしが、リチャードに告白したところで…どうなるっていうの?

はアスベルと結婚しようと思わないのかい?」

突然、リチャードがそんなことを言ったから、わたしは目を見開いた。

「な、何でそうなるの…。ありえない、ありえないから!!」

必死に否定する。

もアスベルと仲がいいし、今だってアスベルの補佐をしている。彼と結婚するには適材だと思うけれど。」

まさかリチャードがそんなことを考えていたなんて、正直ショックだった。
アスベルとわたしが結婚?そんなの、一度も考えた事がない。馬鹿馬鹿しい。

「わたしはアスベルのことはなんとも思ってないし、アスベルにはシェリアとくっついてもらいたいの。」

怒りのせいか、悲しいせいか。
リチャードに対して少し強めの口調で答えてしまった。
すると、何故かリチャードは満足そうに微笑んだ。

「安心した。それなら、僕はアスベルより先にヘタレを卒業しよう。」

「…え?」

リチャードの言っている意味がわからない。
ヘタレ?誰がリチャードが?まさか誰か好きな人がいるの!?
これは、お見合い阻止どころじゃない。その相手を諦めさせないと。
一人脳内会議をしていると、いつの間にかわたしの背後に回りこんだリチャードに抱きしめられた。

、君が好きだよ。」

いつも夢に見ていたこの瞬間が、現実に。
リチャードが、のことを好き…!?

「…え、ええっ!?」

嘘、だって、リチャードが?
わたしの片想いは実は両想いだったなんて。

が僕を受け入れてくれるなら、君を僕の妃として迎えたいんだ。どうだい…?」

「わたし、リチャードに告白されるなんて思ってなかったから、なんて言えばいいのかな。」

胸の鼓動が早くなる、頬が熱を持つ。
わぁぁ、夢でもいいからこの瞬間がずーっと続けばいいのに。

「僕のことが嫌い?」

リチャードが悲しい顔をした。
違う、わたしはずっとあなたを想ってきた。嫌いなわけない。大好きだ。
でも、それはわたしから気持ちを伝えなければいけないものだと思っていたから。

「違うの!ずっと告白する事ばかり考えてたから、告白されたときのこと考えてなかったの!」

リチャードはきょとんとした後、小さく笑った。

「ふふふ、本当に君は可愛いね、。愛してるよ。」

「わ、わたしも…リチャードのこと愛してるっ!」

リチャードは「その言葉を待ってたよ」とわたしの耳元で呟いて、ポケットから指輪を取り出した。




片想いに終わりを告げて







(式はいつにしよう、ああ今の僕は世界一リア充だよ。)
(あれ?お付き合い期間は無しですぐに結婚しちゃうの!?)



mixiでいつもお世話になっているちぃ様にササゲルノデス。(←エルシャダイ風)
実はリチャードもお見合い話が来ちゃって焦って大好きな様をモノにしなきゃ、と思ったらしい。策士だね←

執筆:11年1月7日