番外編:守りたい人



 異世界より連れてきた。わらわの大切な存在。彼女の極光を感じ取り、彼女を見つけたときは驚愕した。異世界の人間が極光を、しかも真闇の両極光を持ち合わせていたのだから。この子なら迫り来る世界の危機を救えるかも知れぬーーそう思った時にはすでに行動に移していた。
 わらわはの意識の中に入り込み、接触した。そして彼女の姿を見て、わらわは絶句した。
 なんともいえぬ可愛らしさ! もう抱きしめてしまいたい! そう思った。
 最初、彼女は信じてはくれなかった。しかし、わらわが信じさせた。愛の力で。
 そして、わらわはの召喚に成功し、彼女と共に旅をすることになったが、基本的にわらわはずっと具現化していることは難しい。一人だけに旅をさせるには危険すぎたので、丁度やってきた人間達
と同行させることにした。
 をリッド達に託したのは正解であった。はすぐに彼らと打ち解けたようで、日々楽しそうにしている。
 ――しかし、それは思い違いだったのかも知れぬと最近は思う。リッドはわらわの可愛いを誑かしたのじゃ。甘い言葉で誘惑し、をその気にさせたくせに他に女がいる。は苦しんでいた。泣いていた。絶対に許せぬ。わらわが奴の魔の手からを守らねばなるまい。



※ ※ ※ ※ ※



「おはよう、リッド」

「おはよう、

 今、私たちはバンエルティア号での船旅を満喫していた。空は相変わらず紺色で薄暗い。まぁ、夜だからというのもあるけど。時折星の輝きが見えて、セレスティアの海を微かに照らす。
 しかし、なぜこの時間――夜に「おはよう」なのか。それは今までリッドは寝ていたからだ。これは昼寝じゃない。レムに強制的に眠らされたのだ。何故だか、最近レムのリッドに対する扱いが素晴らしいほどエグい。レムも月に一度の女性アレなのだろうか。だからってリッドに八つ当たりすることないだろうに。
 リッドの頭の天辺にはレムの攻撃跡、生々しいたんこぶが残っていた。

「何でオレばっかりこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ」

「リッド、またレムの機嫌を損ねるようなことでもしたんじゃない? レムって気分屋だから、感情がコロコロと変わるしさ」

 まさかあんなのが光の大晶霊だとは誰もが思わないだろう。初めて会ったときは「何て神々しいんだこのやろう!」なんて思ってたけど実際は変態だし、マヌケだし、暴力的だ。でも、たまには優しいときも、真面目なときもあるんだけれどね。そうそう、結構ナイスバディーなんだからもうちょっとウンディーネみたく露出すればいいのに。

「オレ、何もしてねぇんだけどな。もしかしてオレっていじめられっ子タイプか?」

「イジメかぁ。異性のいじめ……ああ! そういう事か!」

 異性のいじめといえば、それしか考えられないのだ。

「ど、どうしたんだ!?」

 リッドは驚きながら私を振り返る。いやー、リッドが聞いたらきっともっと驚くね。ウフフフフ。

「聞いて驚け! レムはきっとリッドのことが好きなんだよ。ほら、好きな人をいじめたくなるってよくあるしさっ!」

 ――ブバァッ!
 突如、リッドが吐血した。うわー、もしかして拒否反応起こしてる?

「リッド!?」

 倒れかけるリッドを支えて、その顔を見つめた。

「……えーと、今なんか聞こえたような気が」

「ほ、ほら、現実を受け止めなくちゃ。ね?」

 リッドは涙目で「勘弁してくれよ」と嘆いた。しかし、どことなく頬の辺りが赤い。
 おや? リッドもまんざらじゃないみたいだな。 しかし、うーん。私、リッドもレムも二人のこと好きだからなぁ。こういうときってどうしたらいいんだろう。漫画とかでよくあるよね。親友と同じ人を好きになったっていうの。どうしたらいいんだろう、本当に。まぁ、そもそもリッドが好きなのはファラなんだろうけどね! 私とレムが頑張った所で主人公とヒロインの仲に割り込むなんて容易ではないし、叶うことはないのかもしれない。それでも、だ。

「リッド」

「ん?」

「レムは頭おかしいけど、基本的に良いヤツだから」

 レムがリッドを好きなら、応援してあげたい。だって、いつも私を助けてくれるし、可愛がってくれる。そんなレムに幸せになってもらいたいのだ。例え人間と大晶霊でも……そこに愛があればきっと乗り越えていける。

「悪いけどさ、オレは好きなやつが他にいるから」

 リッドは頬をかきながら呟いた。
 リッドの好きな人って言ったらやっぱりファラなんだよな。わかりきっていたことだけど、ハッキリと言われてショックだった。これは、レムだけでなく私をも寄せ付ける気はないと言わんばかりだ。

「そ……そう、だよね。あーあ、レム可哀相に」

 ――私は卑怯だ。自分が悲しいのを隠して、レムを持ち出してしまうのだから。

「誰がこの劣悪種を好きなどと申したのじゃ。わらわが好きなのはだけじゃ!」

 クレーメルケイジが光だし、レムが出てくる。
 んんん、いつも突然出てくるわねレムさん。
 レムはリッドを鋭く睨みつけると、すぐさま私に飛びついた。

「あのさ、レム。どうしてオレばかりに当たるんだ?オレのこと、そんなに嫌いなのか?」

 真剣にレムに訊ねるリッド。ほんとに真剣。こんなリッド、今までに数回しか見たことない。そうだよね、最近のレムの容赦ない攻撃はリッドにとって生きるか死ぬかだ。
 するとレムは羽を羽ばたかせ、リッドに攻撃をしかけた。
 うわぁ! 羽で往復ビンタしてるーっ!!

「そうではない! おぬしがわらわの可愛いにちょっかいばかり出すからじゃ!!」

 バシバシバシバシ!!
 凄まじいビンタがようやく終わった頃、リッドは瀕死の状態だった。しかし、床に膝と手をつくと苦しそうに上で羽ばたいているレムを見上げる。

「や、ヤキモチか?」

「そうじゃ!!」

 即答だった。
 きっぱりと、そしていばりながら答えるな、レム。聞いてるこっちが恥ずかしい。
 私は今まさにリッドにとどめを刺そうとしているレムの前にリッドを庇いつつ立ちはだかる。レムは「チッ」と舌打ちをした。コワッ。

「なぜ、そやつを庇うのじゃ! リッドはにとって害なのじゃぞ!」

「どこが害なのよ! リッドは私にとって大切な仲間だよ! レムこそどうしてそんなにリッドに攻撃的なの!? そもそも、レムがヤキモチだけでリッドを攻撃するなんて思えないのよ」

 レムが悲しそうな顔をして口ごもる。

「……は、リッドといると時折ツラそうにしているのじゃ」

「は? そんな事ないよ!?」

 リッドといてツラいことなんてあったっけか?
 確かに、リッドの事が好きだと自覚してからは色々考えてしまう事もあるけれど――って、それか! レムめ、余計な心配してくれやがって。

「しかしじゃな――」

「んんん!! レムの勘違いでしょお!? 私!! リッドといると!! すっごーく!! 楽しい!!」

 お願いだからこれ以上何も言わないで欲しい。私の気持ちをバラされかねないのだから。

「オレは、が寂しくないようにずっとの傍にいてやるって約束した。けど、いつの間にか寂しい思いをさせていたのかもしれねぇ。これからは今まで以上にと一緒にいる……これでいいか?」

 リッドはその場に立ち上がり、力強い眼差しをレムに送りつける。
 まって、今以上に一緒にいるってどういうことになると思ってるの? それってもうほぼ一日中だよね、寝食も共にしちゃう感じだよね? そもそもそんな事していいの? リッドが好きなのはファラなんじゃないの? 私の事気にかけてくれるのは嬉しいけれど、すごーく複雑な気分よ?

「いや、あの……別に寂しかった訳じゃないよ?」

 私の弁解はリッドに届いたのだろうか。
 レムもまた驚いたかのように目を丸くし、リッドを見つめている。

「おぬし、ただ単に遊び心でに近寄っていたのではないのか?」

「当たり前じゃねぇか! にはいつでも本気だ! ていうか、レムがオレを良く思ってなかったのはのため……?」

 リッドとレムはしばらく見詰め合う。
 あー……二人とも、私のために。でもそろそろ二人の世界から帰ってきてもらえると助かるのだけどなー。

「そうじゃったのか。すまなかったな。これからは同志として力をあわせ、を守っていこうぞ」

「ああ、もちろんだ! 頼もしい同志ができて嬉しいぜ!」

 レムとリッドは手を取り合い、握手を交わした。喧嘩するほど仲がいいってこのことをいうのかもしれない。
 当事者であるはずの私は蚊帳の外のままだけど、とにかく二人が仲良くしてくれるみたいで嬉しいや。私も、守られてばかりじゃなくて二人を守っていこう。
 大切な人たちを、守るんだ。



※ ※ ※ ※ ※



「リッド! 貴様、わらわのと添い寝していたとはどういうことじゃーーー!!!」

「ち、違ぇよ! がオレの介抱しててうたた寝しちまっただけだよ! だいたいどうして椅子に座りながら寝てたとベッドで寝てたオレが添い寝したことになるんだ!」

「問答無用じゃ! 成敗! シャイニングフレア!!」

「うわあああああああああーーーーーー!!!」

「はぁ、また始まった。もう! レム、いい加減にしてよー!」

 仲良しになったと思ったら再びコレだ。レムの暴走はまだまだ続くようです。



執筆:04年7月6日
修正:20年12月3日