ティル・ナ・ノーグ編:これにて一件落着
ようやくに会えた。それなのに、目の前にいるはファロース山までしか一緒に旅をしていない出会ったばかりのだった。オレは落胆した。交わした約束もとの思い出も何も無くなっちまったんだ。ただ、元気でいるが隣にいるだけで幸せだと思いたい。だけど、このやるせない気持ちはどうしたらいい。
オレの曖昧な態度でを困らせた。それに、この世界にはリオンがいる。が元の世界で好きだった奴だ。今のはきっとオレよりもリオンを選んでしまうだろう。をここに連れてきたのだってリオンだ。勝てるわけがない。オレはの幸せを願って身を引くべきなのかもしれない。それでも、せめて今だけはの隣にいたい……そう願った。
※ ※ ※ ※ ※
僕とリッドは生きていた世界が違い初対面であるはず――にもかかわらず、僕のことを知っているようだった。リッドは初対面を装っていたが僕は違和感を感じた。度々リッドの視線が気になったものの、特に気には留めなかった。
どういうわけか、も僕のことを知っているようだった。僕に対して特別好意があるようだが、恋愛のそれとは何か違う。行動を共にしていても僕が不快になるような行動は一切取らず、心地良ささえ感じた。距離の保ち方が完璧なのだ。ただ、リッドとは違い何故かどこかで会ったような、むしろずっと一緒にいたかのような気さえした。記憶を辿っても彼女と会ったことはないというのに、不思議だった。
そんなのことを好きなリッドだから、僕のことを意識していたのだろうと理解するのに時間はかからなかった。どうしてリッド達が僕のことを知っていて、僕がリッド達を知らないのか――この世界のように具現化するという可笑しなことがあるのだから、恐らくこことは違うまた別の世界で縁があったのだろうと投げやりに結論付けた。ただ、他人の色恋沙汰に巻き込まれるのはまっぴら御免だ。関わり合いにならないでおこう。
……しかし、がつらそうにしているのを見るとどうにも胸が締め付けられる。僕は溜息をついて重い腰を上げた。
※ ※ ※ ※ ※
「、ちょっといい?」
ついにきた、そう思った。
エターニアのヒロインであるファラはリッドのことが好きなはず。だからリッドとやたらと仲のいい私に対して思うところがあるはずだ。それなのにファラは私に対して優しくしてくれていた。そんな彼女でもリッドが私を抱きしめたとか膝枕したとかそんな話聞いたら話し合いになってもおかしくはない。つまり今から始まるのは修羅場ってやつだ。
私はごくりと喉を鳴らす。
「ファラ……いいよ」
「リッドのことなんだけどね。今のには今のの気持ちがあるから黙っていようってキール達と決めてたんだけど、に勘違いされたままなのもいけないし、やっぱり話さなきゃいけないって思ったの」
「今の私の気持ち? 勘違い?」
ファラが申し訳なさそうに私から目を逸らし、コクリと頷いた。
「こんなこと言われてもは困っちゃうかもしれない。でも、聞いて。私たちと一緒に旅してきたは、リッドのことが好きだったよ。それに、あんなにわかりやすい態度だからもうわかってるとは思うけれど、リッドものことが好きなんだよ」
「……なん、だって!?」
私は片手で目を覆い天を仰いだ。ファラの言葉に驚愕せざるを得ない。
嘘でしょう? ヒロインを差し置いてなんてこと。しかもファラ達にしっかり知られてるってことは、誰がどう見てもいい感じだったということなのだろう。どういうことなの。そしてリッド。やっぱり私のこと好きだったんだね。そうだろうなとは思っていたけど、ファラという素敵なヒロインがいる手前認めることができなかった。なら、ファラはリッドのことをどう思っているのだろう。ゲーム開始当初から熟年夫婦のようだった二人だ。何も思わないわけがない。
「待って、ファラはどうなの? ファラはリッドのこと好きなんじゃないの!?」
私が問いかけると、ファラは苦笑いを浮かべる。
「やだなぁ、にバレてたのかぁ。実はね、私はリッドにフラれちゃったんだ。だからとリッドを応援しようって決めてるの」
ファラがリッドにフラれた。衝撃的だった。そして私は何ということを聞いてしまったのだろうと後悔した。ファラの傷を抉るような真似をしてしまったのだ。こんなこと軽率に聞いていいわけがなかったのに。
「ファラ、ごめ――」
謝ろうとすると、ファラが私の口元に人差し指を当てた。
「私はね、二人には幸せになってもらいたいから邪魔はしたくない。でも、今はリッドのことをどう思ってる? リッドったらにべったりだから迷惑じゃないかなって、それだけが心配なの!」
確かにリッドの過度なスキンシップには驚いた。でも私のことが好きなら合点がいく。そして、自分のことよりも私のことを案じてくれるファラ――こんなにいい子を振るなんて、リッドはなんて罪な男なのだろう。
「……迷惑じゃないけど、リッドのことはまだよくわからない。今の私はまだ出会ったばかりだし、未来の私がリッドを好きだったと聞いてちょっと、いやかなり混乱してる。そもそも、ファラと両想いなんだろうなって思ってたから、好きになっちゃいけないんだと思ってた」
私の言葉を聞いたファラが眉尻を下げながら笑う。
「やっぱり、そっか。あのね、さえ良ければ私に遠慮しないでリッドのことを好きになってあげて」
きっとファラはまだリッドの事を好きなのだ。だからこそこんなに辛そうな表情をしている。ファラはそれに気付いているのだろうか。
今はまだリッドの片想いという状況。リッドには申し訳なくなるけれど、これからファラが頑張ってリッドにアタックしたっていいはず。だって、私たちまだ付き合っていなかったのでしょう?
「――ファラは、本当にそれでいいの?」
「もちろんだよ。がいなくなった後のリッドを見たら、これは諦めるしかないなーって思い知らされちゃったし」
「そう、なんだ」
ああ、リッドはどれだけ私のことを想ってくれてたんだろう。私はリッドの気持ちにきちんと応えられるのかな……未来の私と同じくらいに好きになれるのかな。
「本当はリッドが直接言うべきことだったと思うけど、ったら私とリッドのこと勘違いしてたでしょ? それでがリッドを避けることだけはして欲しくなかったの」
「ファラ……」
「もちろん、一番大切なのはの気持ちだから、リッドのことを無理に好きになろうと頑張らなくてもいいんだからね。ここにはリッドなんかよりカッコいい人がいっぱいいるもん!」
あははと元気に笑うファラ。リッドは人を見る目がない。こんなにいい子、他にいる? いねぇよな!?
「ありがとね、私……しっかり自分の気持ちと向き合うから!」
ファラの気持ちを受け取り、抱きしめた。これ以上彼女に心配をかけることなんてできない。
自分の気持ちと、リッドとしっかり向き合おう。逃げていたら、ファラに申し訳なさすぎる。
「頑張って、」
優しく抱きしめ返してくれたファラは、ほんの少しだけ震えていた。
※ ※ ※ ※ ※
――リッドが、私を好き。
ファラと別れて一人になった途端私は頭を抱えた。なんてこった。私はリッドの気持ちに応えるべき? でも私はリッドのことが好きなのかハッキリしていない。気になるといえば気になる。でもそれはいきなり抱きしめられたり膝枕なんてしたから、恋愛経験の乏しい私はただビックリしちゃっただけかもしれない。未来の私はリッドのことが好きだったらしいけど、好きになったきっかけはあったのかなぁ。セレスティアに行った後、リッドとの間に何があったんだろう。というか、私はこれからリッドとどう接したらいいの? リッドの気持ちを知ってしまった今、普通でいられる自信がない。どうしたら、どうすれば――。
「こんな所で何をしている。エステルとフィリアが遠巻きに心配していたぞ」
推しが――神がおいでなさった。アジトの談話室という誰でも入れる場所でこんなことをしていたら、そりゃ心配されるだろう。
「リオン……。あの、その、リッドと未来の私の関係と今後リッドへの対応について少々」
「やはりリッドか」
私の隣に腰かけたリオン。待って、めっちゃいい匂いするんだけど。落ち着け、リオンは私の悩みを聞いてくれてようとしてくれてるのに違うこと考えるんじゃないっ! ばかたれっ!
「……、何でリッド達と出会ったばかりの私が具現化されちゃったんだろう。未来の私が具現化されればよかったのになぁってずっとこの世界の神を恨んでる」
でも、その神のおかげで目の前にいる推しに会えたわけだが。
「お前達は恋人同士だったのか?」
「うーん、それに近いらしいの」
「……リッドに気持ちがないのなら、僕を選んだらどうだ?」
「え――」
俯いていた顔を上げたらリオンの顔がとても近くて多分今一瞬で死んで生き返ったかもしれない。推しに、乙女の夢である壁ドンをされた。今ならまた死んでもいい。死因は壁ドンによる萌死。けしからん。
「お前、いつも僕のことを見ているだろう?」
しかも見かける度にガン見しているのがバレていた。
「そりゃあもう! 好きですから!」
「ほう」
推しに迫られた興奮と勢いで思いっきり好きって言ってしまった。後悔した。まるで告白したかのようだ。
リオンは妙に落ち着いた態度で私の言葉の続きを待っている。悔しいけれど、告白され慣れているんだろうな。
「あっ。あの、いやー……深い意味はなく、リオンは命の恩人だしね!?」
「だろうな。すでにお前の気持ちは固まっているのだから、僕を選ぶはずがない。お前の、僕を見る目は恋慕ではなく礼讃のようなものを感じる」
ふっと笑うリオンが壁からスッと手を離した。
あれ、私、もしかして遊ばれてる? でもリオンはそんな事するような人じゃない。それはわかる。だからこそわからない。
「なら、どうしてこんなことを?」
「そうだな……ずっとのそばに居るのになかなか出てこないリッドを揶揄っただけだ」
「え……」
バツが悪そうなリッドが壁の影から顔を出した。あらやだいつからそこにいたの。
「そういうことだ。あとは二人で話し合え」
どうやらリオンは私とリッドが話せるように御膳立てをしてくれただけらしい。どうしてリオンが私なんかに親切にしてくれるのかは、全くわからない。寧ろ気持ち悪がられるとさえ思っていたのに。
「――――」
一方リッドはといえば、敵意剥き出しの目でリオンを睨んでいた。
リッド! それは神に対してあまりにも無礼すぎる!!
「り、リッド!?」
慌ててリッドを嗜めようと駆けつけてるも、リッドはリオンを睨みつけたままだ。おいおい、いい加減にしろ!?
「いつから気付いてたんだよ」
「最初からだ。それと隠れているつもりなら何があっても殺気を隠し切るんだな」
「そ、それくらいオレにとってが大切ってことなんだよ……」
最初から聞いていたという事は、リオンのことが好きだと言ってたのも聞かれていたのか。もしや、リッドがリオンに対して敵意剥き出しな理由って嫉妬だったりする? これは修羅場ってやつなのではないだろうか。
「えっと、ありがとうね、リオン! 色々と!」
私の話を聞いてくれたこと、隠れていたリッドを誘き出してくれたこと、乙女の夢を体験させてくれたこと。
一刻も早くリッドとリオンを離さなければならないと思ってお礼で強引に締めることにした。
「ふん」
察してくれたのか、リオンは踵を返して颯爽と去っていく。去り際もいちいちカッコ良すぎる我が神である。
「本当に良かったのか? リオンのことを選ばなくて。ずっと好きだったんだろ?」
殺気を出すくらいのくせに、そんな事言っちゃうのかと少し可笑しくて笑ってしまった。
「うん、いいの」
私の答えにリッドがフゥと息をついた。それよりも気になることがある。
「というか、何でリッドが知ってるの? 私がリオンのことをずっと好きだったってこと!」
確かに今私はリオンに告白まがいなことをしたけれど、リッドにリオンの話をした記憶はない。もしかして未来の私がリオンのことを話したのかな。
「オレはが何者なのか知ってるんだ。レムに連れてこられる前まで平和な世界で生きていたことやその時からリオンが好きなことも」
「えっ、うそ……まじすか」
私が違う世界から来たことまで知っていたなんて。私もゲームでプレイしていた分のリッドのことは知っているけど、まさかリッドが私のことを知っているなんて……それは平等なことかもしれないけれど、なんとも恥ずかしい。
「リッド、勘違いしないで欲しいのだけど私はリオンのこと確かに好きだけど、推しとして好きというか、憧れみたいなもので」
「それも知ってるよ。まぁ、あんまりいい気はしねぇけどな」
にしし、と苦笑いするリッド。いい気はしないって……やっぱり私のこと、好きなんだな。くそぅ、なんか照れてしまう。
「あのさ……リッド、私に気があるようなことしてると私勘違いしちゃうよ?」
なんて、言ってみる。さぁ、どう返してくるリッド氏。
「気があるんだよ」
はい、大直球。恥ずかしくて顔が熱くなってきた。リッドの顔を見ていることが出来なくなり、視線を外す。
「そ、そうなのぉ? でも、間違ってない? リッドが本当に好きなのはファラじゃないの? だって、今までずっと一緒だったんでしょ? リッドとファラはなんというか熟年夫婦みたいな雰囲気だし――」
ここで本当はファラが好きと言われても困るけど、聞かずにはいられなかった。やっぱりエターニアのヒーローとヒロインだもの。きちんと本人に確認はしておきたい。
「そりゃあ、昔はいつかファラと……とか考えたことがなかったわけじゃねぇ。でも、と出会って確信した。オレはお前とずっと一緒にいたい。それに、未来のお前と約束したんだ。オレはお前の傍にいて寂しい思いはさせねぇ」
成る程、私と出会うまではやっぱりファラのことを意識してたのかな。
それと、未来では寂しい思いしてたのかな、私。今は推しや大好きなキャラたちに囲まれているから全く寂しさの欠片も感じないのだけど。元の世界が恋しくなることもきっとあったのかもしれない。
「……何があってそういう約束をしたのかは今の私にはわからないのだけど、未来の私はリッドと相当いい感じだったのはとてもよくわかった。でも、私とはそんな約束してないんだから、守ろうとしなくたっていいんだよ。今からでも遅くないよ。リッドはファラを選んだ方が幸せになれる……それでも私を選んでくれるの?」
私の問いにリッドは間髪入れずに答えた。
「当たり前だろ。何でオレの幸せを勝手に決めつけるんだよ。オレはの隣じゃねぇと幸せになれねぇんだ」
くっ、何てこと言ってくれるの!? 恥ずかしすぎてきっと今の私の顔は真っ赤だ。リッドは今どんな顔をしているんだろうと、少しだけ視線をリッドに戻す。顔が真っ赤だ。すごく真面目な表情でしっかりと私を見つめていた。目が合ってしまい、私はぎゅっと目を瞑って一番大事なことを聞いてみる。
「わ、私とは思い出を共有できないし、これからもリッドのこと困らせちゃうと思うよ!?」
「それでもいいさ。また最初から思い出を作っていけばいいんだ」
「あううっ……リッドの愛をめちゃくちゃ感じる!」
思い出を共有できないから、話が噛み合わない時もあると思う。時には未来の私と今の私を重ねてしまうかもしれない。記憶喪失じゃないから未来の私がリッドの事をどう思っていたかわからないしこれから先思い出すなんてこともない。こんな私よりもリッドの隣にはファラという素敵な女の子がいるのに、それでも私のそばにいてくれるなんて、そんなの――
「オレはのことが好きなんだ」
「――――っ!」
ああ、もう。胸が苦しいよ。ドキドキが止まらない。
「未来のお前に言えなかったこと、ずっと後悔してた。今のがオレのことを好きじゃなくてもいい。約束とか関係なく、ただ好きだからそばにいさせて欲しい」
リッドの真っ直ぐな青い瞳に私が映っている。不思議な感じ。ずっと待ち焦がれていた瞬間――そのはずなのに記憶がすっぽり抜けているかのようにモヤモヤする。
これは憶測にしかすぎないけれど、確かに未来の私はリッドのことが好きだったんだ。でもファラのことや元の世界のこともあって告白できずにいたんだろうなと。私のことだ、そうに違いない。
だけど、この世界では元の世界に帰ることはないはずだ。本来の私とは違うのだから。そして、ファラは私とリッドのことを応援してくれているし、リッドもしっかりと私に告白してくれた。
「それなら――」
リッドに向けて指をさす。
「また、しっかり惚れさせてよね!」
きっと今の私がリッドを好きになるまで時間はかからないのだろう。リッドのこの笑顔にときめいてるのだから。
リッドはニカっと笑って自分の胸を叩く。
「覚悟してろよな!」
※ ※ ※ ※ ※
「愛しの! ずっとこのように抱きしめたかったのじゃ!!」
「どちら様ですか」
ある日突然バグっていたレムがしっかり具現化して私に飛びついた。頬擦りをされ、抱きしめられ、鬱陶しいことこの上ないので塩対応になる。
「この塩対応、変わらずじゃのう!」
「レム……お前はどのタイミングで具現化した?」
さっきまで私の隣でマーボーカレーを頬張っていたリッドが顔中マーボーカレーまみれにしながらレムに訊ねる。
ちなみにリッドはレムが具現化して私に抱きついた際にレムの勢いにより顔からマーボーカレーに突っ込むという被害を受けたのだ。いいからまずは顔拭きなよ……。
「どのタイミングじゃと? ふむ、よく分からぬがおぬしらと共にシゼル城に向かったのが最後の記憶であるが」
「あら、そしたらレムは未来の私を知っているのね。やっぱり私だけ仲間はずれかぁ」
仕方なくリッドの顔を拭きながら、レムの答えを聞いた私は眉尻を下げる。
私と一緒にいたレムなら私と同じ時間軸で具現化たのかなと思ったら、違ったようだ。バグってなかなか具現化しなかったからだろうか。
「なんじゃ、はわらわとの思い出が無いと!? それはいけない!」
再びレムが私を抱きしめた。瞬間、強い光が私たちを包み込んだ。
「お、おい!? 大丈夫なのか!?」
心配したリッドが慌てて手を伸ばすが、レムの光によって遮られてしまう。
直後、暖かな光は私の視界を真っ白にした。
「何か、映像みたいなのが、すごい、勢いで、頭の中に、流れてきた……」
知らないはずの記憶と気持ちが蘇ってくるというか、まるで実体験したかのような感覚。
徐々に光が消えていき、ゆっくりとレムが離れて目を瞬かせる。エターニアの世界での私の最後の記憶は、レムと離れたバリル城でのあの瞬間だった。ああ、これはリッドのことを好きにならないわけがない。客観的に見てもリッドは私のこと結構前から好きだったんじゃ? というのがわかる。エターニアの世界の私はちゃんとそれに気付けていたのかはわからないけれど…。
それから、私が攫われた後リッドたちが世界を回ってセイファート試練を受けたりしたこともわかった。これは恐らくレムの記憶なのだろう。ああ、すごく頑張っていたんだな、リッドたち。ちなみにレムは私がいない間はキールのクレーメルケイジにいたらしく、キールとは結構上手くやっていけてたらしい。やっぱりリッドとはあまり仲がよろしくなかったようだけど。
「どうじゃ、。わらわのことを思い出したか? 何せわらわとは一心同体。これくらい朝飯前なのじゃ」
ドヤ顔で私を見つめるレム。まったく、この光の大晶霊様は何でもできちゃうチートキャラだな。
「ありがとう、レム。これがエターニアでの旅の記憶なんだね。なんていうか、レムって本当に何でもできて便利なのね……」
「それはわらわとが口付けをした瞬間から――」
「ん゛ーーーーーーーっ!! レムさん最高! ありがたき! ありがたき!!」
一番最初の契約の事だろう。しかしそれは誰にも知られたくないトップシークレットだ。
何が起こったのか理解していないリッドはきょとんとしている。
リッドを見ていると、胸がドキドキする。どうしようもなくリッドのことが好きで好きでたまらない。
「リッド……私、全部わかったの。ファロース山でそばにいてくれるって約束したこと、晶霊鉄道でキスされたこと、ティンシアのホテルで約束したことも」
「……!?」
さっきまでの私では知り得なかった事を口にした途端、リッドの表情が一変した。
今なら約束を果たせる。何も障害がないのだから。
「私ね、リッドが好き。バリルを――ネレイドを倒して世界を救ったら元の世界に戻らないといけないかもしれないからって、怖くて伝えられなかったけど、この世界ならそんな心配ないものね。リッドとずっと一緒にいたい。離れたくない」
真っ直ぐにリッドを見つめながら、気持ちを伝えた。するとリッドは顔を真っ赤にしながら私から視線を逸らす。
「……なぁ、」
「なぁに?」
首を傾げると、リッドはしっかりと私を見つめて両手を取り、ギュッと握りしめた。
「オレ、が好きすぎて仕方ねえんだ。今すぐ結婚しようぜ」
「お付き合い0日での結婚かぁ。それはちょっと困るかな」
リッドの厚い胸板と逞しい腕に挟まれて苦笑いをする。
「そもそもそんな事わらわが許すと思うか?」
ジロリとレムが私たちを睨みつける。ああ、なんだか懐かしいこのお決まりのパターン。
「ふふ、本当はレムってば私とリッドが再会できて嬉しいんでしょ? 少しだけど、レムの気持ちもわかっちゃったんだからね」
私のことを本当大切に思ってくれているレム。実はリッドの事も私の恋のお相手としてしっかり認めているのだ。
「……まぁ、よい。が幸せそうにしているだけでわらわも幸せじゃ」
そう言ってレムは私たちに背を向けながら私のクレーメルケイジに入っていった。
「なぁ、今度はきちんとキスしてもいいか?」
リッドが私の肩を掴む。
晴れて両想いになれた今、鉄道の事故を装ったキスのリベンジをしようという事なのだろう。
「ん、どーぞ」
ゆっくりとリッドの顔が近づいてきて、私はそっと目を閉じた。
執筆:22年10月23日